「サンローラン」のメンズ・コレクションと言えば、メゾンにフロントローの前の一角、いわゆる“ゼロ列目”に座ることを許されたイケてる男子と女子の存在が有名だ。もちろん、今シーズンもランウエイショーのスタート10分前には、メゾンのPRも調整役を喜んで担当し、合計11人の男女が“ゼロ列目”を形成。反対側から見る限り、今シーズンの“ゼロ列目”の特徴は、「男子より、女子の方がイケてる」だった。とにかく、女子がちょっぴり悪ぶっているようでカッコいい。“ゼロ列目”11人のうち5人のスタイルは、ある女の子はオーバーサイズのボーイフレンドカーディガンに漆黒のレザーパンツとヒール付きブーツ、そして黒のニットキャップとバックパック。別の女の子は黒のレザージャケットにデニムのマイクロミニスカート。そして別の女の子は、全身黒のスタイルにレオパード柄のストール。いずれも“まるで男の子”だ。エディ・スリマンを中心とする「サンローラン」の世界では、女子が男子とスタイルをシェア(共有)し、性差を超えた、いや性差なんて関係なくファッションを楽しんでいることが窺える。そして、そんな女子を“ゼロ列目”に座らせることを考えると、メゾン、いやエディは、そんな志向を認めていることが窺える。
これを踏まえてランウエイショーを見ると、今シーズンの理解はカンタンだ。“ゼロ列目”があぐらをかいたり、ひざを立てたりしながら見つめた男子たちは、いずれも「サンローラン」史上最高に華奢な体の男子たちで、今までにないくらいタイトなブラックデニムやレザーパンツをはいている。足元は、ヒール付きのポインテットトウのブーツ。レザーブルゾンやMA-1などの力強いアウターを着用してはいるものの、それらはいずれも超コンパクト丈かつマイクロミニくらいのシルエットで、華奢なモデルさえ胸を張って歩くことが難しく、いずれも猫背になってしまうくらい。その中には、シルクシフォンで作った水玉のブラウスを合わせ、共布のボウ(リボン)を首元にふんわりとあしらっている。ベロアのベレー帽は、斜めにかぶった。その姿は、ほとんど女の子。同じく力強いアウターを身にまとった女子モデルのほうが力強くランウエイを踏みしめており、ショーに男女の境界なんてほとんど存在しない。というより、もはや男女を区別することなんて無意味なことのように思えてくる。フィナーレは、モデル全員の大行進だった。先陣を切った3人のうち2人は、女子。メンズ・コレクションのフィナーレにも関わらず、だ。もはやエディの中では、男女の違いなんてほとんど意味をなしていないのではないだろうか、と考えた。
男女をまったく区別しないスタイル――。3年前なら、エディの考えは違和感がありすぎて受け入れがたかったかもしれないし、たとえ去年でも、これほどまでの徹底ぶりはちょっと驚いたことだろう。しかし15-16年秋冬は、「プラダ」は男女で同じ素材とスタイルを提案し、「グッチ」は男女のスタイルを入れ変え、「ロエベ」は引き続き男女でシェアできるワードローブのアイデアを深掘りするなど、性差と対峙したコレクションが相次いでいる。そのせいか、「サンローラン」に対する違和感は、ほとんどない。それどころか、ライバルの一歩先行く提案と、それをカッコいいと思わせた完璧なキャスティングに驚くほどだ。メンズ最後のショー「サンローラン」で、2015-16年秋冬にチェックしなければならないスタイルの筆頭は明らかになった。当然、このアプローチは、1カ月後のウィメンズ・コレクションにおいても注目のポイントになるハズだ。