女性スタイリストが企業とのコラボレーションで生み出すヒット商品が相次いでいる。その人気の背景には、スタイリストならではのこだわりや、使う人の視点に立った製品づくりや女性の生き方への提案がある。中でも企業からのラブコールが絶えない3人のスタイリストに話を聞いた。
二人目は、広告、CM、ファッション雑誌、ブランドのディレクションなど多岐にわたって活動する風間ゆみえ。コラボレーションの幅もヘアケアブランドの「レヴール」、服飾雑貨の「レスポートサック」、ランジェリーブランドの「アンフィ」など幅広い。何度も試行錯誤を重ねながら作り上げていくこだわりの姿勢に企業やファンからの支持が集まる。
WWDジャパン(以下、WWD):今までで印象に残っているコラボレーションは?
風間:「レヴール」とのコラボレーションは特に印象深い。シャンプーとコンディショナーのセット2種類を作った。それ以前はこだわりの強い人たちに向けた製品づくりが多かったが、「レヴール」は全国のドラッグストアで販売されるような大規模なコラボ。大きく展開する分、パッケージなどの制約はあったが、堀井昭一ジャパンゲートウェイ社長と話し、特に香りにはこだわった。
WWDジャパン(以下、WWD):制作する過程でのエピソードは?
風間:イヴ・ピアッツェというバラが好きだったので調香師の方にその香りを提案したら、「これから花屋に行ってその香りを確認してまいります」と言ってくださった。とても情熱的な方で、打ち合わせを欠席した際は手紙をいただいた。「花屋にはイヴ・ピアッツェがなかったので、オーダーをしました。花を傷つけないように大切に社に持ち帰って香りをかがせていただきました」という内容ですごく感動した。花を傷つけると匂いも変わってしまうとのことだった。そんなこだわりを持つ人と仕事ができてこれ以上嬉しいことはないと思ったくらい。そこから1年近くかかって何回もテストしながら香りを完成させた。やりきれないと思うくらい大変な時もあったが、最終的には満足がいくものができた。
WWDジャパン(以下、WWD):完成度の高い製品を作れた理由は?
風間:私も、「レヴール」を展開するジャパンゲートウェイのスタッフの方々も妥協せず細かいところまでこだわったこと。例えば私がシャンプーに求めたのは、ふわっと立ち上る緑のフレッシュな香り。お風呂は一日の最後に入る人が多いから、疲れを癒す香りにしたかった。対照的にコンディショナーは、朝枕に残るような甘い香りを意識した。体調によって香りの感じ方も変わってくるので、自分の体調と香りの感じ方を日々書き留めながら作り上げていった。アンティークのガラスをイメージしたボトルデザインや、オリジナルパッケージなど香り以外の部分にもこだわった。
WWDジャパン(以下、WWD):“売れる商品を作る”という意識が芽生えたのはいつ?
風間:意識がいくようになったのは、結婚がきっかけだと思う。6年前に結婚して茅ヶ崎に移り住んで、東京まで毎日電車通勤するようになった。それが本当に良い効果をもたらしてくれた。それまでは都心に住んでいたので電車通勤の経験がなくて。真冬に素足とヒールという格好で電車を待ったり、バランスが良いからと思って着ていた七分袖も寒くて着られない、といった状況に初めて直面して、通勤がどれだけ大変かを身に染みて感じた。すごく良い勉強になった。「レヴール」も、堀井社長に販促用のステッカーをパッケージに貼りたいと言われて、最初は反対したが最終的に納得した。実際に茅ヶ崎のドラッグストアでその販促ステッカーを見ながら商品を見ている家族がいて、なるほど、このことを言っていたのだな、と実感した。
WWDジャパン(以下、WWD):コラボレーションを決める際の基準は?
風間:温度。あとは人の縁や条件面も重要。条件が良いということはそれだけ期待してもらっているということ。こんなに光栄なことはない。お互いきっちり納得して仕事をしたいから、オファーを断ったこともある。全てがパーフェクトということは絶対にないが、最初に最低限の条件をクリアしていれば自分の中で納得できる。どんな仕事でも請け負った以上責任を持ってやるのは当たり前で、文句を言うくらいなら引き受けるべきではないと思っている。
WWDジャパン(以下、WWD):発売中の「レスポートサック」との協業の経緯は?
風間:宝島社のムック本から話をいただいたのがきっかけ。その後「レスポートサック」の柏原由佳会長にお会いした。会長イコール男性のイメージが強かったので、お会いしてみたら女性で驚いた。柏原会長に経緯を聞いたら、大学生の頃から「レスポートサック」が大好きでアメリカに買い付けに行っていた関係で、本国の人から「日本の代理店になってくれないか」と言われたのが始まりだったと。それを聞いた時に、好きが高じてここまでなるんだと感動して、ぜひやらせてくださいとお願いした。
WWDジャパン(以下、WWD):コラボレーションで意識したこと、目指したことは?
風間:幼い頃から引っ越しが多くて一つの場所に落ち着くことがなかったせいか、“旅”という言葉に心を惹かれる。今回も旅先で使えるものを作りたいと思った。「レスポートサック」のバッグはナイロンで軽くて丈夫な上に、たたむとすごく小さくなる。そういう便利なものってあまりないなと気づいた。あとはトラベル用に作ったソフトトランクを、衣服を収納するケースの代わりに使ってみては?という提案もした。難しかったのは柄を作るところ。本社とのやり取りを重ねて、何パターンも色を出して、という過程は苦労もあったが、しっくりくる色を探し当てる過程は楽しかった。12月には第二弾となるトラベルラインも発売される。
WWDジャパン(以下、WWD):今後やってみたいコラボレーションは?
風間:一時期は家やマンションの内装に関心があったが、今は特に絞らず、何か感じるものを作っていきたいと思っている。コンビニエントなものではなくて、長く使ってもらえるものを作りたい。今後、世の中はいろいろなものが淘汰されていく時代になる。明るいエネルギーを生んで、笑顔を増やしていくことが一番大事だと思う。
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