昨年8月、フィルムアート社から「ファッションは更新できるのか?」と題した本が出版された。慶應義塾大学環境情報学部の水野大二郎准教授や弁護士、ファッションブランドのプロデューサーなどの有志グループが2年に渡り実施したワークショップの成果をまとめたもので、コスプレイヤーや小さいコミュニティで活動するデザイナーを“野生のデザイナー”と位置づけ、新しいファッションの担い手に位置づけた意欲作だ。既存のファッション業界の枠組みでは彼らをデザイナーとして認めるかどうかに異論はあるだろうが、ファッション不況が常態化する中で、“ファッションを更新すること”について、今ほど関心が高かった時はない。「WWDジャパン」12月19日号では「ファッション4.0」と題し、第4次産業革命とも称される“インダストリー4.0”という新しい産業界の潮流に沿って、新しい服の作り方にフォーカスした。“ファッションを更新すること”について、こうした新しい服作りの潮流も大きな手がかりになるだろう。
インダストリー4.0を簡単に説明すると、1.0が水蒸機関による工業生産、2.0が電気による工業生産、3.0がオートメーション化、4.0がネットと製造機械が直結したIoT(インターネット・オブ・シングス=モノのインターネット化)になる。アパレル産業は人がミシンを使って完成させる労働集約型の産業なので、2.5ということになるだろうか。素材である布は柔らかいこと、その布自体の糸品種が多種多様であること、パーツが多いことなどの理由で、プラスチックや鉄を素材に使う半導体産業や自動車産業に比べ、自動化が遅れてきた。そうした服作りが一気に4.0化するためには何が必要か。また、何が変わろうとしているのか。「WWDジャパン」12月19日号では、この1~2年で、世界中で一気に進み始めた「ファッション4.0」の最前線の動向を追ったので、ぜひご覧いただきたい。
先に挙げた“野生のデザイナー”たちはファッションデザイナーたり得るのだろうか。個人的にはイエスだ。「ファッションは更新できるのか?」のまえがきで水野大二郎・准教授は、「ファッションが家政学から1990年代に消費科学へと変容し、そして今はあらゆる情報があらゆるものへと接続され、流通し、交換できるようになった…(中略)ファッションデザインは『オシャレな服』以上の価値をデザインの対象としている」と指摘した。つまり、トレンド偏重のビジネスモデルが急速に崩れつつあるということだ。“野生のデザイナー”が新鮮に映るのは、“作る”という行為がファッションデザインのプロセスと直結しているからだ。特定の誰かのため、あるいはごく限られた目的のためのデザインは、「ファッション4.0」の最重要キーワードである“カスタマイズ”と重なり合う。
特集を終えて感じたのは、これからのファッションは“選んで買う”から、作るプロセスも含めて“楽しむ”場へと変化するだろう、ということだった。特集の中で、あるオムニチャネルの専門家は、「極端なことを言えば、これまでファッションの売り場は顧客が欲しいものではなく、自分たちの売りたいものを売ってきた。究極の売り場とは、売り場をIoT化し、顧客の過去のワードローブを見て、本当に必要なスタイリングを提案すること。売り場でプロのアドバイスを受けながら、必要な服だけ買える時代になれば、実のところ、服のコストも今とそう変わりはしないはずだ」と指摘している。
17年は、世界中から人の集まる20年の東京オリンピックに向けて、渋谷パルコを筆頭に、有力商業施設のリニューアル準備が始まる年だ。ファッションの本質と、新しい時代の作り方・買い方・伝え方と向き合う年でありたいと思う。