ファッションに元気が無いと言われて久しい。景気による業績の好、不調はあるものの、現在のアパレル不況は、トレンドセッターである若者がファッションに憧れを抱かなくなったことや、そもそも消費者の気持ちがファッションから離れ始めている意味で深刻さを増している。消費の変化についていけない業界の構造に問題があるのか。常に時代の先端で変化を模索する「ヴァンキッシュ(VANQUISH)」の石川涼に話を聞いた。彼の考えは、危機が叫ばれる閉塞市場に活路を見出す起爆剤となるか。
WWDジャパン(以下、WWD):ファッションに元気がないと言われる理由は?
石川涼(以下、石川):基本的にファッションがダメになるとは思っていないですし、洋服は、それ自体の理由で売れないというわけではなく、単純に環境が変わったということです。1人1台のスマホ時代に、公衆電話を使う人はいないですよね。それと一緒。洋服だけに限らないですけど、毎日変化する環境下で買い物という行為自体が終わっています。極論、オンラインで世界は繋がっているので「アマゾン(AMAZON)」だけでいい。買い物以外のことに時間を使う方が有益な社会になっています。それは世界同時に起こっていて、僕らの世代で買い物をするための外出を楽しむことは終わりますよ。
WWD:常々、アパレル業界の人との会話は面白くないと話しているが。
石川:つまらないです。一番の理由は欧米至上主義なところ。情報の少ない20世紀、ファッションやブランドの価値はジャーナリストの評価に左右されていましたが、今は直接消費者に届くので、受け手自身がジャッジをする社会に変わりました。その現状を知ってか知らぬか、内輪で盛り上がっている業界人たちの感覚がとにかく古い。消費者が盛り上がっていることなら僕だって興味はありますし、その評価がとても気になる。でも、一部のファッション業界人を除いて、一般人は誰もコレクションに興味を持っていないですよね。常に一定の距離を保って、どこか冷めている現状を理解しないブランドが、消費者に置いて行かれている状況なんですよ。
WWD:2010年に東京コレクションに参加して業界を見る目は変わった?
石川:それは、180度変わりました。東コレの参加で、当時は相当叩かれましたから。ファッションオタクや業界かぶれが「ヴァンキッシュの参加で東コレが終わる」とSNSに投稿していたので、「うるせー」と応戦したり、毎日が喧嘩の日々でした。特に「ギャル男が着ているような質の悪いブランドが東コレに出るな」という投稿には噛みつきました。ブランドの好き、嫌いは嗜好の問題なので結構。でも、物の質が悪いという意見は違う。社員、商品製作に関わる工場のスタッフも必死ですから、毎日「撤回しろ」と投稿し続けました。
結局、ランウエイには1700人が来場したんです。会場の恵比寿ガーデンプレイスのキャパは700人なので、大行列ができました。おそらく当時の東コレで一番来場者が多いショーだったはずです。開催前はネガティブなことばかり言って、いざ蓋を開けてみれば手のひらを返す業界人の態度を目の当たりにして、業界に頼っても仕方ないと確信しました。余計なフィルターを通すことはデメリットしか生まないし、実際に自分たちの方が人を集められますから。この経験をいい機会だと捉え、海外戦略を始めたんです。
WWD:海外と比較して、日本のマーケットは特殊だと感じる?
石川:タイに3ヵ月ほど留学していたんですが、日本の商品が全く勝負できていない現実を知りました。家電量販店では、韓国製品が売り場前面に並んであり、奥の方に日本ブランドがひっそりと陳列してあったので、スタッフに理由を聞いてみると「売れないから」と即答されましたよ。韓国製品の方が安くてかっこいい、単純な理由です。帰国して日本の家電量販店に行くと、逆の現象が起こっているのを目の当たりにして、ガラパゴスだと感じたんです。ファッション業界も同じなのかなとも。ファッションも日本が一番だと思っている人はほとんどいません。日本人だけがクールだと思っている。自称クール。
WWD:一般的に、東南アジアは日本のファッションに憧れを抱いているのでは?
石川:例えば“三代目 J Soul Brothers”というような個人レベルではそう言えるかもしれませんが、国レベルでは誰も憧れていません。そもそも、スマホやネットがあれば世界中で同じものを見れる時代に、憧れの理由が場所にはならないでしょう。
WWD:日本のファッション業界を復活させるために必要なことは?
石川:顧客の数を増やしていくしかない。世の中は毎日変化し、日本では子供も減っていくので、海外を見据えた事業展開が必要になってきます。日本だけでビジネスをしても未来が見えませんし、昨年と同じ労力で同じことを繰り返しても売り上げは下がる一方です。対象者が73億人に増えれば、同じ労力でも昨年の売り上げを上回る可能性があるということです。あと、どのブランドも店舗数を減らして効率を上げたら良い。そもそも生活の中でファッションのプライオリティは高くないし、安くて良いものはそこら中に溢れています。世界が、インスタグラムに代表される写真中心の、非言語コミュニケーションの時代になったことが大きな理由です。例えば、白いシャツに10万円を払う必要が無い、写真で見たら一緒なので3000円でいい。今はそういう社会。世界の99%くらいの人がそんな考えを持っていて、必要以上に品質にこだわるようなファッション業界の感覚がずれている。
WWD:試着をせず買い物をすることに抵抗があるという人もいるが。
石川:そんな人は化石です。例えば、今の中学生や高校生が、「ゾゾタウン」で服を買う場合、事前に細かくサイズや品質の確認はしません。実際に商品が届いた時に、気に入らなければ返品、交換すればいいんですから。今後はもっと便利になっていくので、僕らの固定観念で物事を考えるべきではない。将来、空中でタッチできる端末が現れるかもしれない。20世紀の洋服屋の考えでは、今後絶対に生き残れません。
WWD:それでもファッションブランドを続ける理由は?
石川:ファッションしかやったことがないからです。本音を言えば、着地はファッションでも何でも良い。すでに日本酒もレトルトカレーも作りましたし、1月20日に「渋谷クレープ」が109メンズのエントランス横にオープンしました。看板メニューはミートボールをレタスにくるんだ“ハチ公のうんこ”というクレープ(笑)。原宿にはクレープ屋があるのに、渋谷にはないことが出店した理由です。土産屋をつくる構想もあって、いずれは渋谷に一大観光スポットを作りたいと考えています。
WWD:ファッションのライフスタイル化が洋服の売れない一因だと思う?
石川:全く思いません。渋谷に観光スポットを作りたい理由は、洋服が売れないからではなく、外国人の売り上げが伸びているからです。ヴァンキッシュ渋谷109メンズ店は売り上げの約45%が外国人で、数ある東急のテナントの中でも、売り上げに対しての外国人シェア率は1位です。僕らの海外戦略は、海外の模倣ではなく、どのように日本をアプローチしていくか。1980年代はDCブームや渋カジ全盛。みんながアメリカに憧れ、ラルフローレンのようなアメリカントラッドが流行りました。90年代は、藤原ヒロシさんのおかげで日本ブランドが海外から注目されるようになった。2000年代は僕らの時代。世界がつながったタイミングで、全てがフラットになった。世界に向けて、僕らの方がクールだと発信し続けるだけです。
WWD:海外の売り上げは?
石川:売り上げ全体の約20%です。年商の約半分はEC。おそらく、EC化率でいえば日本で上位に入ってるんじゃないかな。実店舗を出店する前の04年から始めたので。周囲に「ガラケーで服は売れるはずがない」と言われた頃ですね。
WWD:アパレル業界の5年、10年後の未来をどう考える?
石川:代替が利くブランドは、総じて淘汰されていきます。いかに消費者に感動を与えるかが重要です。壮大なストーリーに基づいたモノ作りは他ブランドとの差別化になりますが、ビジネスの規模は大きくなりづらい。モノ作りへの過剰なこだわりは、その考え方同様にニッチな世界になって、これからさらに加速していくので、業界の将来はシュリンクしていくでしょうね。
WWD:具体的に消費者に感動を与えることとは?
石川:「ハチ公のうんこ」(笑)。ポイントはネーミングです。誰にも強制されずに写真を撮る生活習慣が定着した世の中で、いかにスマホで撮影したいと思わせるかが大きな意味を持ちます。「FR2」のロゴがセクシーなウサギなのも、同じ理由。たくさんの女の子が「ウサギがHしてる」とインスタグラムにアップしたんです。言葉のコミュニケーションには制限と限界がある。用途を分けて使っていますが、ツイッターは言語に依存する。でも、インスタグラムに制限はありません。同じ時間、労力をかけるならば、一番力を入れるのは写真です。だから、生地がどう、シルエットがどうと偉そうに語っている人を見ると、人生の終わりを見ているような気がします。ほとんどの人は素材や細かいシルエットに興味を持っていない。「ユニクロ(UNIQLO)」だって各分野のプロフェッショナルがモノ作りに関わっているでしょう。時代を読み、社会環境にマッチしたビジネスだから「ユニクロ」はヒットしたんです。それを、ファッションが売れなくなった一因のような言い方をするのはナンセンス。ファストファッションの隆盛があったとしても、売れているブランドは売れています。他社と違うモノを作っていないブランドが売れていないだけ。もっと考えなきゃ。消費者を見て、接点を作り続けなければ、確実に疲弊していきます。
WWD:消費者との接点を作るには何が必要?
石川:消費者に限らず、全ての人が、毎日何をチェックしているかを把握することです。ヒントはそこしかない。スマホの中が究極のパーソナリティですから。世界の情報をいつでもどこでも見ているので、その人達の嗜好が手に取るように分かる。メディアの人が「紙はなくならない、雑誌もテレビもいずれ再興する」と言っているのを聞きますが、絶対ない。どちらも趣味の世界になっていくはずです。
WWD:趣味の世界になったファッション業界で生き残るには、どうしたらいいか?
石川:その時に消費者が欲しいものを作れるかどうか。ファッションに限らず、モノが売れないということは、消費者が欲しくないということ。ブランドの未来は、どんな価値をつけて商品を生み出すかにかかっています。普通にモノづくりをしても、ファストファッショには勝てません。ベーシックなものは「ユニクロ」に敵いません。ファッションオタクが、世の中の評価が変わった途端に手のひらを返す姿勢に腹が立つし、大嫌い。だから、ファッション業界にあまり友だちがいないのかもしれません(笑)。