ファッション
連載 ミラノ・コレクション

ファッション業界の“上から目線”を打ち砕く「グッチ」のカオス

 ミラノコレクションは今シーズンも「グッチ(GUCCI)」周りが騒々しいです。初日に新社屋で開かれたショーは、初のウィメンズ&メンズ合同ショーということもあり日本からはメンズ誌の編集長も来ていました。いやはや、10数分のショーのために遠く日本から12時間のフライトを促してしまうとは恐るべしアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)です。

 119ルックが速足で登場するという迫力のショーのテーマは、「錬金術師の庭」。ショーの前は、リリースに書かれたそのキーワードを読みながら、これから始まるショーへの期待に観客は自ら魔法にかかりにいく、そんなムードがありました。ショー後の感想は大方の人が「変わらないね」。そうです、過剰な装飾によるファンタジックな世界は確かに変わりません。ファッションだから毎回新しいことをしなくては、というプレッシャーからアレッサンドロはとっくに解放されているようです。

 変わったとしたら、「装飾がさらに過剰になっている」という点でしょうか。だって、バッグは縦に3つついているんですよ!バッグは3つもいらないですから(笑)。邪魔ですから(笑)。

 このアイデアは、数日前のバックステージでアレッサンドロが思いつき、急きょ職人たちに頼んで作ってもらったそう。その、“思いついたから作っちゃって、ショーに出しちゃった”。というDIY感覚の軽やかさを熟練の職人が支えているのが「グッチ」の強さですね。

 登場する動植物のバリエーションはさらに広がり、な、な、な、なんと、モスまで登場。モスはモスラのモス。日本語訳がはばかれますが、はっきり言いましょう。蛾、です。写真をアップで掲載するのはやめますので、どうぞショーのルックをまじまじ見てご確認ください。展示会場では、そんなモスを見て眉間にしわを寄せつつ、目が離せくなりました。もっともっと、もっと刺激をくれ。今の「グッチ」はそんな欲望を掻き立てます。

 ショー会場には、張り切って「グッチ」を着てくる人が多いのですが、彼らが全員似合っているか、上手に着ているかというと???そもそもそれが「グッチ」の服なのか、単なる派手な色の服なのか、判別がつきにくい人も大勢います。そんな混沌としたショー会場前のムードこそが今の「グッチ」のパワーです。

 「似合っている=正解」とか、「それはアリとかナシ」とか、「ファッションの基本のキ」とか、「あえてのハズし」とか、「トータルコーディネート」とか、全部関係なし。選ぶ理由は「好きだから」の一点。アレッサンドロからはそんなメッセージを受け取ります。

 ファッションは、ともすると「ジャッジされる」といった上から目線で語られがちですよね。ファッションチェック、という発想がその象徴かと。TVで扱われるファッションは、この「チェック」か「プロの力を借りたビフォー&アフター」のいずれかが主流です。「ありのままのファッションでいい特集」の番組なんてみたことありません。そんなマスメディアの影響もあってか、同窓会で「ファッション業界で働いている」と伝えると、かつてのクラスメイトたちから若干距離を置かれて「なんか、ダサいと言われそうで怖い」と目を伏せられたりします。「そんなつもりないのに」と落ち込みつつ、確かにファッションを生業にしていない人から見れば、ファッションの世界は上から目線の閉鎖的なイメージがあるのもうなずけます。むしろ、そうやって価値を作ってきた部分もありますから。

 性差も国境も時代も超えるボーダーレスな価値を提案し続けているアレッサンドロが一番解放したいボーダーは、そういったファッション特有の「価値の決めつけ」なのかもしれません。

 あ。

 フォトジェニックな「グッチ」のコレクションをポップに軽やかにレポートしようと思ったのに、書き上がってみたら真面目な仕上がりになってしまいました。これもある種のアレッサンドロ中毒でしょうか。

 見て楽しい、どこを切ってもフォトジェニックな「グッチ」2017-18年秋冬ミラノ・コレクションの詳細はどうぞ写真でお楽しみください!

 ちなみに、展示会で私が一番釘付けになったのは、こちらの杖。怖いですから!!!

 (「WWDジャパン」購読者の皆さま、本日の「デジタルデイリー」の表紙は「グッチ」です。「デジタルデイリー」の登録がまだな方はぜひ!)

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