ファッション企業と一般人をつなぐマッチングサービスが増えている。1月3日に発足したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)の写真事業を統括する子会社CCCフォトライフラボが5月22日、企業と個人をつなぐ出張撮影マッチングサービス「トルッテ(torutte)」をローンチした。SNS映えする写真を求める企業と、同社が“ソーシャルグラファー”と呼ぶSNS向けの写真を得意とする個人をつなぐCtoBビジネスだ。
「トルッテ」では、企業がアプリ上で撮影希望ジャンルと写真の雰囲気を選ぶと、オススメの“ソーシャルグラファー”がリストアップされる。希望する “ソーシャルグラファー”がいた場合は、リクエストを送信して仕事の発注をすることができる。まずは首都圏を中心にサービス提供し、 対応エリアを順次拡充していくという。現在は数十名の“ソーシャルグラファー”しかいないが、今後は同社が抱えるプロカメラマンを含めて人数を増やす。
ファッション業界と一般人をつなぐマッチングサービスは今年に入ってから複数ローンチされている。スナップマートは4月、インスタグラムで多くのフォロワーを抱えるインスタグラマーに広告ビジュアルなどを撮影してもらう人材サービス“ブツ撮り出張サービス”をスタートした。企業が公式に使用するビジュアル撮影をアマチュア女子がアイフォン片手に行う同ビジネスは、これまでなかった“CtoBサービス”としてリリース当初から大きな話題を呼んだ。15〜20枚の写真撮影に9万8000円〜12万8000円と決して安くはない金額設定だが、ローンチ後1カ月で50件以上の問い合わせがあったという。また、保坂忠伸スプリング オブ ファッション最高経営責任者(CEO)が手がけるクリエイターと企業をつなぐクラウドソーシングサービス「ソフ プロジェクト」も5月中の本格ローンチを予定している。
スナップマートが好スタートを切った背景には、写真素材サイトを運営する親会社ピクスタ(PIXTA)のもとで先立って始めた写真投稿SNS「スナップマート」の存在がある。「ソフ プロジェクト」もテスト版として一般人が撮影した作品を投稿できるプラットフォームだけを公開、先に作品を披露できる場を作った。誰もが匿名で発信できる時代だからこそ、一般人が自然と発信したくなるプラットフォームを作ることが奏功したようだ。
一方で、企業が発信する“作りこんだ世界観”が若年層の共感を呼ばなくなったという時代背景がある。SNSとともに成長してきたネット上で影響力を持つインフルエンサーの台頭によって、ファンは“リアルに対する共感”を示すようになった。「企業が利潤追求するあまり、商品の同質化により提案力が低下している」との指摘もあるが、企業と消費者のギャップを生み出した最大の要因はおそらくSNSの出現だ。
そんな時代だからこそ、“リアルな一般人の投稿にファンがつく”という構図を利用して急成長した企業がメルカリだ。ユーザー同士が商品を売買できるCtoCビジネスとして2013年に創業し、3年で早くも月間の商品流通高が100億円を突破した。「掲載されているのが一般ユーザーの撮影した下手な写真だからこそ、企業が掲載するきれいすぎる写真より信頼感がある」というユーザーの声からも、時代感がうかがえる。「トルッテ」が求める“ソーシャルグラファー”も、「身近にあるものをおしゃれに演出したり、 撮った写真を加工する技術に長けている人」をさす。技術力よりも共感力が問われる時代になったのだ。
CtoCビジネスが成長する中で伸び悩むファッション業界は、“リアルな世界観”を求めてインスタグラマーの活用に奔走している。これがCtoBビジネス勃興のきっかけだろう。「トルッテ」の場合、依頼金額を決めるのはカメラマン。個人が企業を選んで作品を売るシステムが成り立ちつつある。しかし、マージンビジネスとしてある程度の利用者を集めなければ、ビジネスとして成り立たない。「メルカリ」は2016年時点で4000万ダウンロードを突破しているからこそ、業界最大手になれた経緯がある。一般人が企業に写真作品を売るという概念がどの程度浸透し、どのくらいの市場規模になるか。今回CCCという大手企業が参入したことで、いよいよ市場として拡大する可能性が見えてきた。