日本政府と欧州連合(EU)の間で大枠合意した経済連携協定(EPA)は、日本のファッションビジネスにも大きな影響を与えそうだ。両者は2019年の発効を目指しており、発効すれば多くの品目で互いの関税がゼロになる。ファッション分野では、繊維やアパレル製品が即時撤廃、最大30%の高関税の革靴などを含むレザーグッズも発効から11年で関税はなくなる。店頭の商品が安くなるだけでなく、これまで貿易を手掛けてきたインポーターにも大きな影響を与えそうだ。
「ポジティブな影響しかない。今後は日本に行く機会も増え、大好きなしゃぶしゃぶを食べられるチャンスも増えるだろう」。こう興奮気味に話すのは、現在開催中の伊ミラノのファッション素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」で同見本市の会長を務める、有力毛織物メーカーのエルコレ・ボット・ポアーラ(Ercole Botto Poala)=レダ社長だ。日本のイタリアからの毛織物の輸入は約101億円(2016年)で、毛織物輸入の約半分のシェアを占める。他の織物と違い、毛織物はテーラーでのオーダー需要も増加傾向にあり、関税が撤廃されれば影響は少なくない。大枠合意の中で、繊維・アパレル製品は協定発効後に即時撤廃の見通し。これまで最大で13.4%だった関税が撤廃されれば、16年に1418億円だった輸入量は大きく増える可能性がある。
しかし最も大きな影響がありそうなのが、関税が最大で30%(または4300円、高い方になる)かかっている革製のシューズだ。欧州ブランドのシューズのインポートと小売りを手掛けるワールド フットウェア ギャラリー(WFG)の日高竜介・取締役は「小売り業としてはこれまで高額と考えられてきたインポート商品を適正な価格で提供できるので、とてもポジティブに捉えている。ただ、日本のメーカーにとってはピンチだ。これまで4万円で売っていた日本ブランド製品の横に4万円でイタリアのシューズが並べば消費者は当然イタリアのシューズを選ぶだろう」と指摘する。実際に2011年に韓国とEPAを締結したスペインのシューズ輸出は、「現在3倍に増加した」というのは、スペイン靴工業会のイマノル・マルチネス・ゴメス=マーケティング・ダイレクターだ。ゴメス=マーケティング・ディレクターは「10年というのは実は期待はずれの長さ(笑)。けどポジティブな影響があるのは間違いないね」。
これまでシューズには一定数量に対して2次税率(8〜18%)を免除する割当制度があり、一部の企業はこの割当制度を活用し、低い税率で輸入することが可能だった。だがEPA発効後は即時に2次税率が撤廃されるため、そうした優遇措置はなくなる。「こうした割当制度を活用してきた企業にとってはそれだけでも痛い。また、参入障壁が低くなるため、僕らのような企業にとっては本当の意味での競争が始まる」と日高WFG取締役。
インポーター大手の三喜商事の堀田康彦・社長も「原産地規則などもあり現段階ではどのようなメリットがあるかは不透明」としながらも「(EPAによる貿易の自由化は)時代の流れであり、世界の趨勢。今回はEUという大きな経済圏でもあり、インパクトは大きい」と指摘している。