JEWELYN BUTRON (c) Fairchild Fashion Media
2010年(左)と09年に撮影された東京のストリートスナップ (c) Fairchild Fashion Media
2017年に撮影した東京のファッションスナップ (c) Fairchild Fashion Media
シンプルな色使いが多くなった、ラフォーレ原宿 (c) Fairchild Fashion Media
以前は、日本の女子高生ならば一度は制服に手を加えたり、個性的なファッションに身を包む楽しさを味わったこともあっただろう。だが、カラフルなヘアカラーにプラットフォームシューズ、ふわふわのシアースカート、カウンターカルチャーから生まれた色とりどりで個性的なファッションは、没個性的なファッションにとって代わられたようだ。
放課後の時間帯のラフォーレ原宿を訪れたが、東京の今の控えめな空気感を象徴していた。買い物客の服装はKポップを連想させるビニール素材のミニスカート、ブルックリンと書かれたスエット、「アディダス(ADIDAS)」のスニーカーなど、グローバルなセンスを感じるが、かつてのエキセントリックさは感じられない。ラフォーレ原宿で一番奇抜だったのは、店内で流れていたロックくらいだ。トレンドセッターでさえ、シルバートーンのワークウエア、デニムのワイドパンツにバンドTシャツと暗めのトーンでコーディネート。メイクもマットなトーンに赤リップと控えめだ。
「10年前、東京のストリートファッションはもっと元気だった」と山縣良和「リトゥンアフターワーズ(WRITTENAFTERWARDS)」デザイナーは懐古する。坂部三樹郎「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」デザイナーも、「インターネット以前は、パンクでもロリータでも自分がなりたいものに何にでもなれた。今の時代、特別になることはとても難しい。社会に同調しなければならないために、自分らしくなりたくてもできない」と語る。
東京はかつて世界でも有数のユースカルチャーの街だったが、今やその名声は危機に瀕しているようだ。「なぜ東京のストリートは面白くなくなったのか?」。ネットいじめや東京オリンピックなどの切り口から、東京のデザイナー、トレンドセッター、スタイリストたちにこの新たなファッションのルーツと次に来るファッションを聞いた。
READ MORE 1 / 3 東京のストリートが面白くなくなった理由とは
ネットいじめ
16歳インフルエンサーのMappy (c) Fairchild Fashion Media
ちょうど1年前、16歳のインフルエンサー、Mappyはビビッドなカラーの膝丈スカートに、プラットフォームシューズ、ベルベットのワンピースが好きで、買い物となればジャンプして喜ぶであろうくらいだった。だが今Mappyはふらふらと退屈な店を渡り歩くことになってしまった。デニムにシンプルなトップス、トレンチコートにカモフラージュのカーゴパンツを着たMappyは、「東京の若い人はどんどんファッションに対してシャイになってきているように感じる。ファッショナブルな人も今は自分の友達と同じものを着たいだけ」と話す。
山縣デザイナーは、「SNSの登場で、派手なものを着るとバッシングの標的にされやすい。だから若者は人と違うことを避けるようになった」と説明する。一方坂部デザイナーは、「以前は、みんなそれぞれ人と違う個性を持っていた。でも今、個性的な服を着て渋谷や新宿を歩けば、恥ずかしい気持ちになるだろう。どんなファッションが正しくて何が間違っているかの感覚が、今の若者にはある」と、若者の傾向をインターネットいじめのせいだと分析する。
実際、大阪大学の最近の調査では、日本の高校生の20〜30%がインターネットいじめの被害者で、8%がいじめの加害者であることが判明した。複数の調査によると、これらの数値は毎年2ケタで急速に上昇しているという。
東京オリンピックと建設
2020年のオリンピックに向けて開発が進む渋谷 (c) Fairchild Fashion Media
2020年のオリンピックに向けた東京メトロの広告 (c) Fairchild Fashion Media
日本政府は、2020年のオリンピックが10年間で32.3兆円の経済効果をもたらすと予測しているが、今の東京の空には建設現場のクレーンが立ち並び、街には鬱屈した雰囲気が漂っている。
Mappyは、「オリンピックの建設で、渋谷に行くと暗い気持ちになる。“Kawaii”はなくなって、もっと暗い色、黒とシルバーのクールな感じ。私はそれがみんなが暗い色の服を着るようになって、ヒップホップみたいなクールな音楽を聴くようになった理由の1つだと思う。ヒップホップの人気はどんどん高まっていて、みんなその影響を受けているのかも」と話す。
READ MORE 2 / 3 “Kawaii大使”きゃりーぱみゅぱみゅにも変化が
ポスト“Kawaii”カルチャー
2012年(左)と17年のきゃりーぱみゅぱみゅ (c) Fairchild Fashion Media
5月18日に「ケンゾー(KENZO)」のイベントできゃりーぱみゅぱみゅがパフォーマンスを披露したが、その時の彼女のファッションは東京のファッションの変化を象徴しているようだった。12年に原宿カワイイ大使に任命された頃の服装とはうって変わり、ワントーンのフチーシャピンクのドレスで登場した。業界筋によれば、「新しさを求めて」リブランディングを図っているという。
「アンブッシュ(AMBUSH)」デザイナーのYOONは、「今の日本の経済的、政治的環境は、若者にとって心地よいものじゃない。でも、人々をクレイジーにさせるほどカオスっていうわけでもなくて、中間にいるんだと思う。だからより安全でぬるい方に流れてしまう」と語る。
「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」との仕事を多く手掛けてきた小石祐介ファッションコンサルタントは、「“Kawaii”カルチャーを追いかけていた人たちが大学を卒業したり、大人になるにつれてマスなコンサバファッションに吸収されていく。しかし、さらに若い層はよりみんなと違うものを求めるようだ。今の東京のユースシーンは変化の間にあると思う」と説明した。
経済とSNS
小石ファッションコンサルタントが語る変化は経済停滞とSNSによる流行の急速な変化によるものかもしれない。
日本政府のデータによれば、25歳未満の世帯の支出は09年以来30%以上減少しているという。また、電通総研の調査によれば、高校生、大学生、および20代の60%以上が、消費に意欲的だと見られるよりも質素に見られることを望んでいるという。
「日本は中産階級層が広く、この層のために多くのドメスティックブランドが生まれた。でも経済が停滞し、安いファストファッションがこうしたブランドを追い出してしまった。ファストファッションにより、誰が何を買ってもまともに見えるようになり、人々はよりファッションにおいて冒険しなくなった。よりコンサバになり、新しいものやクールなものを探す努力もしなくなった。日本は島国だから、人々は限られた情報量の中で海外の思想を取り入れ、改良してきた。でもインスタグラムを開けば、リアルタイムでファッションを簡単にコピーできるようになり、日本だけでなくアジア全体を通して、人々はファッションに労力を使わなくなった。昔は注目を浴びたり、ストリートスナップを撮られるためにオシャレをしていたけど、今はストリートに行かなくてもセルフィーを撮ってもっと注目を浴びることができる」とYOONは語る。
READ MORE 3 / 3 “Kawaii”の次に来るもの
消費とぜいたく、次に来るのは?
水曜日のカンパネラのコムアイ (c) Fairchild Fashion Media
坂部デザイナーは、「先日都心の大型セレクトショップに行ったけど、何も買う気にならなかった。たくさんのブランドと服があったけど、どれも同じで服が死んでいるように見えた。誰も買おうとする人はおらず、いたのは販売員だけ。もうこれはファッションじゃない」と語った。
サブカルチャーとして始まった“Kawaii”カルチャーも簡単に消費され、ショッピングセンターに“Kawaii”要素を取り入れたショップがオープンし、もはや個性的でもなくなった。
では、次に日本に来るファッションとは?中里周子「ノリコナカザト」デザイナーによれば、それは“インテリ”なファッションだという。中里デザイナーは、東京芸術大学で「新しいタイプのエレガンス」という博士論文を執筆しており、“インテリ”なファッションの一例として、水曜日のカンパネラのコムアイを挙げる。「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」のショーでランウエイも歩いたコムアイは、デビュー当時のビョーク(Bjork)をほうふつとさせるような要素を持っている。ミュージックビデオでは、SNS映えしそうなヘアアスタイルに幾何学的な形のイヤリング、ビンテージTシャツにキャミソールを重ね、ハイウエストのバギーパンツを合わせたコムアイのコーディネートは個性的だが、以前の“Kawaii”に比べると実用的だ。
「次に来るのは、簡単に消費できない、“インテリ”なファッションだと思う。ファッションに対する背景を理解して、エレガンスとくだらなさと真面目さがちょうどいいバランスでミックスされた、少しダサくてノージェンダーなスタイルは、“インテリ”な感覚がないと作ることができない」と中里デザイナーは説明する。