ファッションECモール「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するスタートトゥデイの時価総額が8月1日に1兆円を超えた。前日発表の2017年4〜6月期決算の好調っぷりが後押しとなった。国内上場企業3559社(8月3日現在)のうち、時価総額が1兆円を超える企業はたったの138社(8月8日現在)。割合にしてわずか3.8%の狭き門だ。07年12月のマザーズ上場時の時価総額(初値)は319億円と現在の30分の1だった同社が、なぜ10年で1兆円企業になれたのか。
時価総額は株価に発行済株式数を掛け合わせたもので、企業の価値を示す指標の一つ。売上高や営業利益だけでなく、未来のポテンシャルも含まれている。時価総額は規模だけに留まらない企業の本当の価値を示すものともいえる。
上場するファッション流通企業の中で、スタートトゥデイの時価総額はファーストリテイリングの3兆5174億円(8月7日時点)に次ぐ第2のポジションになった。17年2月期の売上高が3332億円の良品計画(8月7日時点の時価総額8372億円)や17年2月期売上高5654億円がしまむら(同5075億円)、17年3月期の売上高1兆2534億円の三越伊勢丹ホールディングス(4423億円)などの大手企業と比べても、スタートトゥデイの17年3月期の売上高は763億円と決して高くはない。
しかし、ドイツ証券株式調査部小売りセクターの風早隆弘シニアアナリストは時価総額の推移を「いよいよ時代が変わってきたと感じる象徴的な出来事だ」と断言する。「日本の小売企業の17年3月期時点でのEC化率は当社調べで平均7.2%。5年後には平均12.7%とEC化が加速度的に進むと考えている。一方で、アメリカの小売企業のEC化率が平均7.2%だったのは05年頃ともう10年以上も昔の話。アメリカではその後、書店チェーンのボーダーズ・グループが11年に破綻したり、小売大手のメイシーズが大量閉店したりと、チャネルの大きな変化が起こり始めた。日本では、まだ変動が始まったばかりではないか」という。「しかも、ECは立地商売ではないことや、パーソナライズによって顧客を自ら開拓できるといった利点を持っているので、成長ストーリーを描きやすい。スタートトゥデイはその典型的なビジネスモデルを採っているので、今後の消費者の購買行動を変える大きな影響力を持っている」。
風早シニアアナリストはスタートトゥデイの成長モデルを考える上で、米アマゾンを引き合いに出す。「業界では米アマゾンを中心にグロス(総売上高)を追う傾向が強い。彼らは利益を追うのではなく、プライムやクラウドなどさまざまな事業を駆使して圧倒的なマーケットシェアを狙っている。その点で、スタートトゥデイは売り上げ・利益ともに上昇を続ける“稀有な存在”」と評価する。まだまだポテンシャルを秘めるファッションEC市場で、スタートトゥデイを圧倒的な勝ち組ととらえる。「商品取扱高に占める営業利益率が10%を超えている(17年3月期で商品取扱高2120億円、営業利益率12.4%)というのは非常に高効率的。基本的には在庫も抱えないので、キャッシュフローの創出力も強い。非常に好循環なビジネスモデルだろう」。