アパレル業界で、企業やブランドの世界観を反映したホテル事業が1つのトレンドになりつつある。日本初の「MUJI ホテル」開業が大きな話題となった他、ストライプインターナショナルも18年2月にホテル併設型の店舗「ホテル コエ(HOTEL KOE)」を渋谷パルコパート2跡地に開業する。また、トランジットジェネラルオフィスが総合プロデュースを手がけるシェアオフィス「ポータル ポイント(PORTAL POINT)」の居住スペースにも、一部ビームスとコラボした部屋を用意するという。少し毛色は異なるが、スノーピークが神奈川県・観音崎にオープンした「スノーピーク グランピング京急観音崎」も世界観を体験できる宿泊施設としては同じ部類に入るだろう。
加えて、リノベーション事業への参入も急増している。ユナイテッドアローズとリノベ企業グローバルベイスの協業やベイクルーズ「JSファニチャー」とリノベるの協業、マークスタイラーが手がける「アングリッド(UNGRID)」のリノベマンションなど、こちらも居住空間での世界観作りという点で共通するものがある。
背景には、ブランドの同質化とECの市場の拡大がある。ブランドの世界観を体験しにきてもらうはずの店舗がブランドの急増・同質化によって差別化しづらくなったことと、そこに追い討ちをかけるようにネット通販が成長したことで“店頭にわざわざ行かなくても買える”ようになってしまった。そんな中でどうにかリアルな店頭で世界観を体験してもらおうとアパレル業界が出した1つの答えが“コト消費”“ライフタイル提案”だった。今年急増している“暮らす”事業は、そんな“コト消費”の究極系なのかもしれない。
一方のホテル業界でも、新興勢力による多様化が進んでいる。来年度の住宅宿泊事業法施行による民泊の解禁によって宿泊施設の自由度も増し、宿泊するだけではない体験型のホテルが増えてきたのだ。その1つが“泊まる × ソーシャル”をテーマにした「ホテルシー(HOTEL SHE)」だ。同ホテルを手がけるL&Gグローバルビジネスの龍崎翔子チーフ・クリエイティブ・オフィサーいわく、「ホテルはもはや泊まって寝るための場所ではない。エントランスなどのオープンな場所を活用すればコミュニケーションをとる場所にもなる」。
不動産会社アールストアが運営する“泊まれる本屋”「ブックアンドベッドトウキョウ(BOOK AND BED TOKYO)」も同じような思想のもとで成り立つ。仕掛人の力丸聡・広報部 新規事業部部長曰は同ホテルについて、「宿泊のためではなく、むしろ遊びにきてもらう感覚。寝たくないのに寝てしまうような場所にしたい」と話す。実際に「ブックアンドベッドトウキョウ」に宿泊をしたが、単に泊まるための場所ではなく、何かを体験しに行く場所だと感じた。価格や空き状況でネット予約をするのではなく、ここにある体験をもとめて、お金を支払う場所なのだ。
それこそ、“泊まれる試着し放題のお店”があったら泊まってみたいと思う。“宿泊”こそ日常の延長にある究極のライフスタイル体験であり、そこでアパレル本来の持ち味を生かした世界観作りができれば、新客を含めたファン獲得も望めるはずだ。世界的に見ればラグジュアリーブランドが手がけるホテルは昔から重要なビジネスになっており、国内アパレルにとってもホテル事業は間違いなくチャンスだろう。まずは、すでに参入した企業の動向を注視したい。