“インスタ映え”が2017年の新語・流行語大賞となったことで、巷にインスタグラムを意識した商品があふれている今日この頃だが、インスタグラムで多くのフォロワーを抱えるインスタグラマー市場に、大きな変化が起こっているようだ。
この変化について、ファッションECなどを運営するスタートアップ企業アイエントの大森智人・社長は、「インフルエンサーの価値が見直される。現在多くのSNSマーケティングで定義されている“フォロワー数=インフルエンス力”という構造ではなくなるだろう。本来のインフルエンサーの価値とは“インフルエンスすべき価値のあるものを見つけて伝える人”だ」と説明する。同社はこうした変化を見越し、ブランディングやPR事業などを請け負うツインプラネットとともにインフルエンサーがサンプルを宣伝・販売できるプラットフォーム「インチョイス(IN-CHOICE)」を立ち上げた。
タッグを組んだツインプラネットの矢嶋健二・社長も、「長期的なマーケティングや共感・関係性を強化していくことが必要になる時代。これからは個人の感度でセレクトしたものに、少数だが深度の深いファンがつくような構図になるだろう。1型あたり1000着を100人のバイヤーが買い付ける時代から、1型100着でいいから、1000人のインフルエンサーが欲しいファンに直接提案する時代が来るだろう」という。
この変化は、矢嶋社長いわく、“インフルエンサー2.0”だ。これまでのインフルエンサー事業はいわばマス・マーケティングだった。テレビCMのように多数のユーザーに向けて発信できるよう、フォロワー数こそが絶対だった。しかし、これから必要なのは“エンゲージメント”になるという。紹介したものが売れるかどうか、投稿ごとの消費者への経済的影響こそが“インフルエンス”力になる。もちろん圧倒的なフォロワー数を抱えたインフルエンサーへのニーズはなくならないまでも、単純にフォロワー数や投稿数を増やすことに意味はなくなり、特徴のない“中途半端な”インスタグラマーは淘汰されていくと考えるのだ。
たしかに、この兆候は数年前からあった。フリマアプリなどのシェアリング・エコノミーが台頭し始めたことだ。個人間の売買が当たり前になったということは、個人がモノを売る時代になったということだ。そして、手軽なEC構築サービスやライブコマースといったテクノロジーが発達したことも、この変化に拍車をかけた。
個人で簡単にECサイトを作成できるBASEの鶴岡裕太・最高経営責任者も、「個人が作った湯呑みを10万円で売る際、それだけの価値があると思って買ってくれる人を探すには、SNSなんかを使ってクリエイター自身が発信をした方が良い」と語っていた。個人が作ったモノに対するニーズを個人が見つけ、売る時代になったという。「彼らは『ユニクロ(UNIQLO)』のようなモノ作りを真似できないが、独自の商品を作り続ける限りは需要がある。売上規模は全く異なるが、『ユニクロ』には何千人もの従業員がいるので、個人ごとに生み出せる価値はそう変わらない」。商品あたりのロット数こそ少ないが、顧客とのマッチングが積み重なることで大きな市場になるという考えは、前述の「インチョイス」に似ている。
17年にライブコマース事業「ピンクル(PinQul)」を立ち上げた東京大学の現役学生、井手康貴Flatt社長も“個が売る力”を強調する。「ファンからの信頼を得て、実際にモノを売ることができるインフルエンサーが消費者代表として商品を作り、販売していく時代になるだろう。数万人のフォロワーがいても全く商品が動かない人もいるし、一方で2000人しかフォロワーを持たずにどんどん洋服を売っていく人もいる。今後はフォロワーではなく、この“販売力”のようなものを可視化して基準値にしていきたい」。