冷蔵庫型のボックスから商品を取り出すだけで購入ができる無人コンビニサービス「600(ろっぴゃく)」が本格スタートした。RFIDタグ(無線電子タグ)を利用し、弁当やパン、お菓子、ドリンクなどを詰めたボックス内部にリーダーを設置することで商品の出し入れを管理する仕組み。利用時にクレジットカードを通すとドアが開錠され、取り出した商品の決済はクレジットを通して行われる。
同サービスを立ち上げたのは2015年2月にモバイル決済プラットフォーム「ウェブペイ(現LINEペイ)」をローンチし、LINEに売却した起業家の久保渓600社長だ。個人資金をもとに2017年6月に600を立ち上げ、今年1月から複数のIT企業で試験導入をしてきた。ボックス内に最大600SKU(最小管理単位)を保管できることからこの名前がついたというが、「導入企業は月次30%の勢いで伸びている。商圏範囲の縮小が目的。商圏500mといわれるコンビニエンスストアに対して、商圏50mを目指す。オフィスビル内や駐車場、マンションの各階など、手軽に買い物ができる空間をあらゆる場所に作りたい」と意気込む。
同社の収益モデルは、小売業のような物販による収入と月額利用料2万円〜の設置料だ。商品は卸売業者やメーカーとの直接取り引きで仕入れており、代々木にある同社倉庫で管理をしている。商品には全て手作業でRFIDタグをつけ、企業ごとに週2回の納品を行っているという。欲しいモノがない時には、個別にリクエストをすることもできる。
しかし、自動販売機はもちろんのこと、コインを入れるだけで菓子を買うことができるような無人サービスは実は多くある。「600」は何がすごいのか、18日に行われた記者発表から見えた5つのキーワードをまとめてみた。
待ち時間をなくし、生産性を上げるそもそも、開発の背景にあるのは、久保社長が高層ビルで働いていた際に感じていた無駄な待ち時間だ。「天候によっては外へ出たくないような時もある。また、お昼の時間になるとエレベーターに行列ができ、コンビニへ買い物に行くだけでも大変な時間がかかる。会社としての生産性を考えても、各階に無人コンビニがあったほうがいいはずだ」。
機能性よりシンプルさを追求「600」を利用するにはクレジットカードが欠かせない。電子マネーやスマホ決済など、利便性だけを考えるとさまざまな可能性があるはずだが、久保社長は「コンセプトとして目の前に立って誰でも使い方がわかるシンプルさを意識した。決済方法を増やすことは物理的には簡単だが、利用者が混乱しないよう、まずは機能をシンプルにした。RFIDタグを使って利用者が面倒なく購入できるような仕組みを取り入れたのも同じ理由だ」と強調する。
RFIDタグを活用した単品管理はアパレル企業をはじめ、多くのショップでも導入が始まっている。個別管理をすることで商品ごとの売れ行きや品質などを管理しやすいからだ。一方で、ここで得られる単品商品の購買データにも大きなポテンシャルがあるようだ。「継続的な購買データを追っていると、ある顧客に対して、ある商品の割引を提示するといったマーケティングが可能になる。加えて、メーカーの新商品発売時に『600』を使ってもらえれば、どの商品がどのように売れるかというトラッキングもできる。『600』は単純に商品を消費者に届ける場所ではなく、消費者とメーカーをつなぐハブにもなりうるのだ」。
ないものを依頼できる最後の砦「コンビニや既存サービスとの違いは何か」と聞くと、「われわれの独自性はコンシェルジュ機能にある。『600』にない商品がほしい時、LINEチャットなどを通じてリクエストをすることで、商品のパーソナルな補充が可能になる。コンビニや自動販売機にほしい商品・銘柄がない時にわれわれを利用してほしい。消費者のニーズに直接応えられる“最後の受け皿”という認識だ」。
キャッシュレス社会の実現世の中がキャッシュレスに向かっていることは自明でも、一般消費者の意識が追いついていないということも事実だ。クレジットカードの利用のみでは不満が出るのではないかと聞けば、「ある程度想定はしていたが、ほとんどないというのが実情だった。反対に“貯金箱タイプ”だと小銭を持っていないと使えないことも多く、導入を見送る企業も多いという。使ったことはなくても、使うこと自体が不便・嫌だという声はほとんどない」と久保社長。そもそも、現金を使った置き菓子などのサービスは、現金の管理など総務側に相当の負担がかかるという事実があったのだという。キャッシュレス社会に向けて、実店舗がどうなっていくべきか、その試金石ともいえるサービスとも考えられるのだ。