インターネットとSNSの登場により、情報がリアルタイムで世界中に拡散される現代、ファッションのトレンドに時差はないに等しい。パリ在住の筆者は日本に帰省するたびそう感じるが、フランスと日本のファッション業界のトレンドで大きく違うのは環境対策への意識だ。日本が遅れているというより、フランスが世界に率先して行動を起こしているのだろう。サステイナブルやエシカルといったキーワードは、一過性のトレンドではなくライフスタイルに定着し、政府も環境保全に積極的な姿勢を見せる。
フランスの一大企業であるLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)は10年以上前から環境に対する取り組みを続けており、今年に入り環境保護目標値を上方修正して新たに環境部門を設けるなど、さらなる尽力を宣言した。その姿勢はラグジュアリー市場における環境保護のリーダーとしての印象をさらに強め、他企業にも影響を与えている。
ヨーロッパ最大の百貨店ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)は今年9月から、より環境コンシャスに生まれ変わる予定。リサイクル品をもとに作られたアクセサリーやウエア、オーガニックコスメ、食品など、地球に優しい取り組みを行うメーカーの商品を“GO FOR GOOD”のラベルをつけて前面に押し出していく。ギヨーム・オウゼ(Guillaume Houze)=ギャラリー・ラファイエット イメージ&コミュニケーション ディレクターは「私たちのビジネスの核であるファッションは、最も環境汚染に加担する産業だ。“GO FOR GOOD”はコミュニケーション戦略を支えるだけでなく、企業方針として新たに掲げられたもの」と、今後長きにわたり環境対策に取り組んでいく旨を述べた。
フランスのサステイナブルの先駆者として知られるスニーカーブランド「ベジャ(VEJA)」の創始者セバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)は、2005年に同ブランドを立ち上げてから13年間で、市場は少しずつ良い方向へと変わっていると感じているそうだ。「消費者は背景を含めて良質なものを求めるようになっている」と、パリジャンたちの意識も変化していると語る。
このようなフランスのファッション業界の動きには、政府の意向も関係している。特に、環境保全に熱心なマクロン大統領が就任してからの1年で、矢継ぎ早に法案が可決されているのだ。すでにスーパーで使い捨てレジ袋を見かけることはなくなり、20年までにプラスチック製の食器類の製造と使用も禁止され、再生可能なバイオ素材の開発も進められている。24年までにディーゼル車、30年までにガソリン車のパリ市内への乗り入れを禁止し、40年までにガソリン車とディーゼル車のフランス国内での販売を禁止すると発表された。同時にフランスの主要な電力源である原子力発電の比率を大幅に減らし、石炭火力発電を廃止することも決めた。これらの影響は経済と社会の両面で広範囲に及び、産業界の開発計画、エネルギー価格の競争、国民の生活の質まで変わってくると考えられているが、国民からは大筋で支持を得ている。
このような流れは、フランスのみならず世界的にますます強くなるに違いない。特に、1992年に国連気候変動枠組条約が成立し、気候変動や地球温暖化に対する国際的な認識が広がった90年代以降に生まれたミレニアルズは、上の世代よりも身近な問題として環境を捉え、商品購入時にはブランドの背景としてソーシャルグッドであることを重視していると考えられる。今後、日本のブランドや企業も環境対策への取り組み強化をアピールすることは、大きな意味を持つはずだ。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける