地球や人にやさしいビジネスモデルで売り上げを伸ばしている優良企業はどこか――サステイナビリティー担当になり、頭に浮かんだ企業のひとつがデンマークの家具メーカー、カール・ハンセン&サン(CARL HANSEN & SON以下、カール・ハンセン)だ。デンマークにある本社と工場を3年前に取材して強く印象に残っていることもあるが、同社は価格競争よりもサステイナビリティーの追求を重視したことで、売り上げを15年で約30倍に伸ばしている。しかもきわめて健康的な方法で、だ。創業は1908年。デザイナーズチェアの代表格であるハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)による椅子“CH24”、通称“Yチェア”で広く知られるが、急成長したのは2000年以降のことだ。
成長の立役者であるクヌッド・エリック・ハンセン(Knud Erik Hansen)最高経営責任者(CEO)が同職に就いたのは02年のこと。当時の売り上げは1700万デンマーク・クローネ(約2億7000万円)と小さかったが、15年には4億デンマーク・クローネ(約64億円)にまで伸ばし、17年は5億デンマーク・クローネ(約80億円)をマークした。サステイナブルな経営に加え、エージェント頼みだった卸売り業態を直接取引に転換し、また海外市場を強化したことが奏功した。直接取引も、エシカルでサステイナブルな経営をするのに重要な要素になる。
「福祉国家で人件費が高いデンマークで家具を作っているので、価格競争では到底勝てない。ならば、他がまねできない一流のデザインと高品質なモノ作りをするのが小国デンマークの生きる道だ」とハンセンCEOは考え、デンマークで根付いていた環境や人に配慮したモノ作りをさらに追求した。最高級素材を用いて熟練の家具職人が丁寧に作り上げる同社の製品は、親子3代にわたって使うことができるほど高品質だと言われている。
使用する木材は、本社兼工場があるヒュン島の木材がほとんどで、厳しく管理された森林で伐採されている。地元調達のため、輸送距離が極めて短く環境負荷も少ない。働く人々も地元デンマークの熟練家具職人たちで、実際に工場を訪れた時には、彼らが手作業で丁寧に作り上げている姿を目にした。彼らが、ハンセンCEOとフランクに会話する姿が印象的だった。ちなみに職人たちのマッサージ代は全て会社負担するなど、社員の福利厚生も充実している。
デンマークは、エシカルでサステイナブルなモノ作りに取り組む企業が多い。カール・ハンセンに加え、最近では「ザ イノウエ ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS)」の「着る人、作る人、売る人、すべてを幸せにしたい」という姿勢でのモノ作りが心を打った。
高度に先進的な社会福祉国家であるデンマークは、出産費用から葬儀代まで、教育費はもちろん医療費も国が負担する。そのため、消費税にあたるVATは25%と高率だし、他の税率も高い。そこから、モノを大切にする文化が根付き、「良いものを長く使うことこそがサステイナブル」という考え方が浸透している。環境教育も徹底しており、幼少期から環境や社会に対する意識やモノを見る目のシビアさが培われている。そういう背景が、サステイナビリティーの追求を念頭に置いたモノ作りを自然な形で進展させたのであろう。
「デンマークは財政的に豊かなため、他の国に比べると環境や倫理、人権などに目を向ける余裕が国にも国民にもあるのだと思う。またデンマーク人は、気候が厳しいにもかかわらず、森を散歩したり、サイクリングをしたり、海で泳いだりと自然の中で過ごすことが好きだ。自然がとても身近にあるため、破壊されたり汚染されたりすることに敏感。だから、風力や太陽光といったクリーンエネルギーの開発も盛んだ」とハンセンCEO。
カール・ハンセンは製造工程でも環境汚染の元になるプラスチック素材や化学薬品は一切用いず、塗装は水性塗料のみで、製品のラッカー仕上げにも植物性オイルを用いている。また、14年に新設された工場の暖房は工程で出る大量のおがくずを燃やしてその熱量のみでまかなっており電気や石油、ガスを一切用いていない。2500度の高温で処理すれば二酸化炭素を排出しないという。デザインにおいても、工程での環境負荷を軽減できるよう細部まで神経が行き届いており、学ぶべきところは多い。22年には現在の売上高の2倍である10億デンマーク・クローネ(約160億円)を目標にするという。