ナカムラケンタ日本仕事百貨代表:1979年、東京生まれ。 明治大学建築学科を卒業後、 不動産会社に入社。2008年に“生きるように働く人の求人サイト”「日本仕事百貨」を運営するシゴトヒトを創業した。現在は清澄白河のバー兼イベントスペース「リトルトーキョー」やさまざまな仕事に出合うためのイベント「しごとバー」などを監修
2008年から10年にわたってさまざまな求人情報を掲載し続ける「日本仕事百貨」というサイトがある。不動産業界出身のナカムラケンタ代表が“生きるように働く”をモットーに作ったもので、求人サイトながらも念入りに企業と仕事の中身を取材・紹介しており、本質的にはもはやメディアに近い。ナカムラケンタ代表はどのような思いで「日本仕事百貨」を作ったのか。
WWD:どうして「日本仕事百貨」を作ろうと思ったのですか。
ナカムラケンタ日本仕事百貨代表(以下、ナカムラ):まず、自分が新卒の時を含めて社会人時代にほしいような求人サイトがなかったことがあります。もともと建築を学んで、不動産関係の仕事をしていたのですが、サラリーマン時代に働き方に対してモヤモヤを感じて、週6日同じバーに通っていたんです。なぜこんなに通っているんだろう、週6日も通っているんだからここはいい場所なんだろうと思いました。いい場所にはいい人がいる。その場所と人をマッチングする求人サイトができるはずだと。
WWD:従来型の求人サイトの問題点は何だったのでしょうか。
ナカムラ:就職活動していた時、求人サイトで検索していて、こんな選択肢しかないんだと思っていました。例えば、フリーランスで生きている人ってたくさんいるじゃないですか。でもほとんどの人は周りにそんな人いないって言うんです。決して大きな規模ではないですが、昔の僕みたいにモヤモヤを感じている人に対して、違う選択肢があるということを見せられればいいなと。実際に転職しない人でもサイトを見てくれている人は多くて、「いろんな仕事があるという安心感のため、お守りみたいに見ている」という声をいただくんです。
WWD:世の中にはナカムラさんのように、働き方に関してモヤモヤしている人は他にもいそうですね。
ナカムラ:モヤモヤしていることが決して悪いというわけではなくて、そういう人はタネを心にそっとしまっている人だと思うんです。すぐに芽が出るかわからないけれど、水やりをしている人もいて、僕で言えばそれはいろんな人と話をすることだったんですが、そのうちに衝動を受け取って芽が出ることもあるんです。個人的な見解ですが、モヤモヤしているなら絶対に水をやったほうがいい。求人サイトなので、サイトを見て応募してもらえればいいですが、そうではなくて、本当に読み物として楽しんでくれている人も多くて、それが衝動になることもあるようですね。
WWD:求人サイトを作るためにシゴトヒトという会社を設立したのですか。
ナカムラ:ちょうど10年前の8月、同じ建築学科のゼミの仲間でエンジニアリングが得意な友人がいたので、彼に出世払いでサイト制作をお願いして(笑)、その後1年で法人化しました。
WWD:掲載企業、つまりクライアントはどうやって探すのですか。
ナカムラ:設立当初はまず「無償で掲載をしたいので取材させてください」と身近な企業にお願いしに行きました。それでも断られたり、文章の質が低いと怒られたり、散々でしたが、少しずつ共感してくださる方が増えてきました。立ち上げ当初は個人事業主でお金もなくて、3000枚くらいあったレコードを売りながら暮らしていました(笑)。振り返ってみてもお金がなくて大変でしたが、自分がやりたいことをやっていたので、楽しかったなあと。
WWD:なぜそこまでして、サイトを作ったのでしょうか。
ナカムラ:やりたいから、ですね。今ちょうど9月に出版予定で「生きるように働く」ことをテーマに本を書いているのですが、オンオフ分けるんじゃなくて、全部自分の時間であると考えられることが必要だと思うんです。もちろん休むことも必要ですが、働いている時間が義務的なものではなく自分の時間だといえることが素晴らしいなと。
WWD:なるほど、収益化が見えたのはいつころですか。
ナカムラ:サイトを立ち上げて半年くらい経った年末に無償で掲載していた記事を通じて採用できたという声がちらほら出てきて。そうして、年明けに初めて掲載依頼をいただきました。ようやくお金をいただいていいかなと思い、プレゼン資料を作って承諾をもらい、掲載させてもらいました。実際数カ月後に採用をしたと聞いた時は安心しましたね。
WWD:どういったクライアントを掲載するか、という基準はありますか。
ナカムラ:僕らがやりたいのはドキュメンタリーです。職種に規定はないですが、その仕事のあるがままを紹介することだけは譲れないので、仕事の大変な部分を見せたくないと言われたらお断りすることもありますし、そもそも根っこの部分で共感できない場合は掲載できない場合もあります。おかげさまで共感してくれる方からお声かけいただくことが多いので、思いっきり外れた依頼はあまり来ないです。
WWD:みずから営業をすることはありますか。
ナカムラ:いわゆる営業マンは社内にいないですね。そもそも僕らのやり方だとそんなにたくさんの紹介ができなくて、お待ちいただいている状態なんです。
WWD:たしかに、取材にはかなりの工数をかけているように感じます。
ナカムラ:絶対に職場には伺いますが、取材時間は2〜3時間程度で、あとは周辺を歩いてみたり、仕事に同行することもあります。ただ、限られた時間の中でいかに話を引き出すかが大事だと思っていて。その編集ノウハウは社内みんなで考えて共有しながら作ってきました。僕らは仕事とか働き方というより、存在や生き方を伝えるためにはどうすればいいかを考えながら、最終的にその輪郭に触れられる程度の部分までは文章に落とし込めるように努力していて、それを読んで一歩踏み出してくれると、やっぱりすごくうれしいですよね。
WWD:シゴトヒトに共感する企業が集まり、同じような価値観を持つ読者が集まる。そうなると、求人サイトとしての成約率はかなり高いんじゃないでしょうか。
ナカムラ:3回募集をかけたら2回は採用したい人に出会えると言われるので、内定率(掲載記事のうち、内定にいたった記事の数)は6割超ですね。他の求人サイトから比べると高いかもしれません。また、求人サイトとしてではなく、メディアとして記事を読んでもらって、お店のファンになる方も多いようです。
WWD:リピートしてくれるクライアントも多いのでは?
ナカムラ:多いですね。そもそも求人期間が終わっても記事自体は半永久的に残します。それを見て直接企業に電話をする人もいますが、そこでお金を儲けようとかは思っていなくて。僕らもやりたいことをできているから、お互い支え合っていられればいいのかなと。
WWD:ビジネスは好調ですか。
ナカムラ:売り上げは一定のペースでずっと上がってます。そもそもノウハウをきちんと伝えるので、一気に人を増やすこともできなくて、一気にビジネスを伸ばすことはできないですから。