マイケル・コース(Michael Kors)は、ニューヨークのデザイナーらしい現実主義者だ。デザイナーとは、社会を見つめ、そこに生きる人々の気持ちを理解し、彼・彼女の気分に沿う洋服を、自分たちのブランドらしい世界観や素材、テクニックで提案する人々だが、彼ほどその真髄に実直なデザイナーはそれほど多くないだろう。
そんな彼は最近、春夏コレクションのたびに“バカンス”に出かけてしまう。今シーズンも「ユートピア」を目指し、船、もしくは飛行機で優雅にニューヨークから旅立ってしまったかのようだ。彼が最近、南の島に“エア旅行”してしまうのには、ワケがある。今、社会はちょっと先行きが不安定。さまざまな価値観が台頭し、それらのいくつかは対立。それに端を発した悲劇も少なくない。だからマイケルは、常に「ユートピア」を目指すのだ。南の島は、いつになっても、どこに住んでいても、どんな肌の色をしていて、どんな宗教を信仰していても、そしてどんな価値観を持っていても、誰もが皆憧れるもの。「ユートピア」を嫌う人間なんていない。だから彼は、「ユートピア」を舞台としたコレクションで、世界に笑顔を振りまこうと試みる。彼は今回のランウエイを「世界の休日を感じているようにしたかった」と話す。休日に必要なものは何か?ストレスフルな日常から解放されるリラックスと、明日への活力につながるポジティブなエネルギーだろう。「マイケル・コース コレクション」2019年春夏コレクションは、リラックスマインドが根底に流れる、ポップで最高に楽しいラインアップだ。
膝丈のワンピやマキシ丈のスカート、フレアシルエットのフラメンコパンツ、そしてビキニとパレオスカートを彩ったのは、クリスティーナ・ジンペル(Christina Zimpel)というアーティストによる手描きのフラワープリントや架空の「ユートピア」。豪華な総ブロケードのウエアも、今シーズンはトロピカルだ。シルエットは、全体的にリラックス。古着のようなスエットは得意のカシミヤ100%だし、トートバッグからハミ出すビーチタオルも同じ素材でできている。カシミヤのニットには、「近い将来、結成するつもり(笑)」と冗談交じりに話す「MK ビーチクラブ」の文字。ベルトやサンダルにあしらったヒトデやホタテは、クリスタルで彩った。リラックスウエアにかけがちなドラマは、ショルダーバッグなどのフリンジでカバーした。
トロピカルを軸に、ストリートやロック、ボヘミアン、スポーティー、トラッドなど、さまざまなスタイルを融合するあたりは、世界にさまざまな価値があることを実感している彼らしい。