ファッション業界にもAI(人工知能)の波が押し寄せている。弊紙「WWDジャパン」でも9月24日号でファッションAIに関する特集を行ったが、その中で日本国内におけるファッションAIの現状について先進企業5社を紹介した。ウェブでは先進企業5社に聞いたAIに対する考え方をインタビュー形式で紹介する。第1回は、AI画像解析を得意とするサイジニアをピックアップ。工学博士でもある吉井伸一郎サイジニア社長にAIの基本を聞いた。
WWD:そもそも、AIとはなんなのか。
吉井伸一郎サイジニア社長(以下、吉井):AIとは機械学習やチャットボットなどを含むとても広い概念。われわれが手掛ける画像解析のようなディープラーニングも機械学習の一つの手法だ。チャットボットは実際人手をかけている部分も強く、シナリオ作りを人がやっているなど、実際には完全にコンピューターだけで何かを生み出しているわけではない。
WWD:サイジニアが手掛けるディープラーニングとは?
吉井:機械学習の中の学習法の一つ。機械学習の中でニューラルネットワークという計算手法があり、ディープラーニングはその名の通りこのネットワークを深い層まで積み重ねたものだ。ディープラーニング最大の特徴は、たくさんのデータを効率的に解析するための評価軸(特徴量)をAI自ら見つけ出すこと。例えばかつての機械学習では分析方法を人間が教えていたが、ディープラーニングではそれを教える必要がない。
WWD:AIはどうやって学習をするのか。
吉井:入力された情報に対して人工知能がさまざまな計算式を当てはめ、トライアンドエラーを繰り返す地道な作業だ。これをいかに効率よくするかは人間が指示するもの。学習を経て、AIが最適解(モデル)を導き出すわけだが、人工知能は実は学習過程において真価を発揮するもので、そのモデルが完成した時点でそれはただの計算式になってしまう。
WWD:完成したモデルを使うことで、画像認識などさまざまな分析ができるようになる?
吉井:サービスを作るには、こういったAIモデルを複数組み合わせる。例えば、パシャリィでは人を切り出す、骨格判定、細かい商品画像を判定する、というような複数のモデルを組み合わせることで独自のサービスを作っている。
WWD:元になるモデル自体は誰が作るのか。
吉井:モデルは実はほとんどがオンライン上に公開されている。グーグルとフェイスブックの2社がすでにあらゆる計算プラットフォームを無料公開しており、これを使えば誰でもモデルを組める。この2つの企業はそれぞれ文字検索データとインスタグラムの画像データをもとに、さまざまなアルゴリズムを生み出している。重要なのは既存モデルをどう組んで、どんなサービスを作るかだ。
WWD:計算プラットフォームを独自開発する企業はないのか。
吉井:そもそも、フェイスブックではインスタグラムが一日20兆回以上の計算をやっている。これに勝る量のデータを持つ企業は他にないだろう。だから一企業がモデルを一から作るのは、物理的にも精度的にも意味がない。
WWD:では、どうやってAI企業は独自性を出すのか?
吉井:既存の仕組みを使って作り上げた画像認識機能だけでは意味がなく、そこに自社が持つECでのデータを掛け合わせ、リコメンデーション機能を作り上げることが必要だった。サイジニアにしかないのは、この顧客のリアルな行動データ。ここのデータを活かせば、独自の活路を見いだせると思っている。つまり、個々のモデルはありものを使ったほうがいいが、そこにいかに付加価値をつけられるかがビジネスのポイントだ。