「ジル・サンダー(JIL SANDER)」が再び輝きを取り戻している。正確なパターンと上質でこだわりが詰まった素材使いなど創業デザイナーのジル・サンダーが残したコアバリューを受け継ぎつつ、ジル時代よりも少しリラックスし、少しキャッチーな顔をしているのが今の「ジル・サンダー」だ。ルーシー・メイヤー(Lucie Meier)とルーク・メイヤー(Luke Meier)の2人は、2017年4月からクリエイティブ・ディレクターに就任。クチュールメゾンとストリートブランドという、一見異なる世界を歩んできた2人のキャリアがここで融合している。9月にオープンした表参道旗艦店のオープニングのために来日した2人に話を聞いた(なお、「ジル・サンダー」のビジネス戦略については「WWDジャパン」10月22日号に掲載)。
WWD:お二人は「ジル・サンダー」というブランドをどう解釈していますか?
ルーシー・メイヤー(以下ルーシー):私はデザインや人生へのアプローチとしてとらえています。そして品質に対して妥協しない価値観を持っていたり、素材にこだわっていたりとあらゆる点で誠実に向き合っているのが「ジル・サンダー」です。
ルーク・メイヤー(以下、ルーク):僕は、オープンなデザインランゲージを持っているととらえています。ここで言うデザインランゲージとは、モノグラムや特定のシルエットといった象徴的なデザイン。そういった意味で「ジル・サンダー」にはデザインランゲージがあるようでない。モダンで今っぽいけれど、見るだけではなく使いたくなる服。ありふれておらず、制限もされてもいない。いつもリアルで人々が共感ができて使いやすいものである必要がある。だから僕らはショーや広告を作っただけではなく、誰かが買って着てくれているのを見て初めて満足します。
ルーシー:ファッションという言葉は実は使いたくなくて、長い間自分の人生にかかわってゆく“衣類”という表現が近いかもしれません。すぐに捨てることなく長い期間着てもらいたい。持続性が大切です。
WWD:モダンであることや持続性ある衣類という意味でもテキスタイルは重要ですね。
ルーク:ファブリック・ファーストと言えるくらい重要です。まず始めに素材で何ができるかを考えます。テキスタイルは70%がイタリア製で、30%が日本製です。
ルーシー:「ジル・サンダー」はヨーロッパのブランドの中で日本のテキスタイルを使った先駆者でもあるんですよ。
ルーク:ヨーロッパでは見つけられない素材が日本ではみつかります。特にウールの手触りが特徴的で、まったく同じ糸を使っても日本製はどこか乾いた感じがあり強く、イタリア製はなめらかです。コットンやジャージーも日本製は特徴があります。外国人的視点かもしれないけれど、日本のテキスタイルには日本人の自然に対する捉え方や、自然に対する感謝の気持ちが反映されているのではないでしょうか。サステイナブルという言葉がこんなに使われるずっと前から、日本ではこの概念が親しまれていましたから。
WWD:フィナーレにはお二人とも白い服で登場しますが、白は「ジル・サンダー」にとって重要な色です。
ルーシー:ごく自然なことであり「ジル・サンダー」で使用する色としてピュアな白は正しい選択だと思っています。
ルーク:白いシャツはまだまだ足りない気がするくらい(笑)。白は全部を取りのぞいた後に残る色であり、何も隠さない色。いかなる間違いも隠さない完璧な色です。
WWD:お二人はファッションを通じて“今の時代の正しさとは何か”と掘り下げているとお見受けします。2人が考えるファッションにおける“正しさ”とは?
ルーク:現代のファッションにおける最大の問題は“捨てられる”こと。私たちは使い捨てるよりも長く使えるモノの方がよりモダンだと考えます。3〜4カ月に一度、新しいアイデアを生み出さないといけないビジネスをしているにしても、です。だから人々がこの服をどう使うのかを深く考えるし、実用性や着心地が重要です。
WWD:19年春夏コレクションについて教えてください。ボクサーシューズやバレリーナシューズといったスポーツに着想を得たアイテムが印象的でした。
ルーク:出発点はアスリートやダンサーのユニフォームでした。彼らは日々規律の整った生活の中で練習を繰り返しています。長い期間トレーニングを重ねることで、パフォーマンスを向上し、そこに感情やアートが生まれる。ユニフォームは機能的で“正しい”ものだけど、その先には美しいものが生まれるところが魅力です。
WWD:私たちが自分の体を鍛えてリズムを整えると得られる開放感と近いかもしれません。
ルーク:そう思います。仕事も同じ。僕らで言えば、デザインのプロセスの積み重ねがあり、ショーは感情をオープンにする瞬間です。
WWD:青のシリーズも透明感があり印象的でした。
ルーシー:的確さやコントロールされたものを大切にする「ジル・サンダー」ですがガーメントダイはコントロールはできない。規律が整ったものと自由なもののコントラストが魅力です。コットンとシルクを混ぜたことで想像もつかない表現につながりました。
WWD:「ジル・サンダー」は元々ドイツのブランドですが、発表の拠点は長くミラノであり、今は日本のオンワードホールディングスの傘下に入っています。現在の「ジル・サンダー」はどこの国のブランドでしょうか?
ルーク:ルーツを掘り下げるとドイツなのでしょう。素材においては日本の影響が強い、イタリアの感性も欠かせない。これらの3つは一番大きな影響がある。
ルーシー:ジルはドイツに始めてファッションのスタイルを築き上げた人。ブランドを立ち上げる前はアメリカに住みアメリカ女性に影響も受けるなといろいろな国から影響を受けています。ドイツのハンブルグのスタジオにもイギリスや日本など世界各地からスタッフが集まっていました。
ルーク:僕らのデザインスタジオもまるで国連で、ホントいろいろな国籍の人が働いています。僕の母はイギリス人で父はスイス人、ルーシーのお母さんはオーストリア人でお父さんはドイツ人です(笑)。そういった意味でもファッションは興味深い。グローバルな視点のために必要なことです。
WWD:ルーシーはクチュール、ルークはストリートのファッションでキャリアを築きました。2つは対照的な世界でしょうか。
ルーク:今ストリートブランドというと商業的でメーンストリームでちょっとチープなものイメージだけど、僕が影響を受けたカルチャーガイ(文化的な人)は、音楽やアート、デザインを知っている利口な方。それらのブランドは当時、自由で新しいことをしていた。そこが僕にとって興味深かった。
ルーシー:とても似ていると思う。最終的に出来上がるものは違って見えるかもしれないけれどデザインに対するアプローチは同じです。