あらゆる商品を比較・検討できるサイト「価格.com」などを運営するカカクコムの創業者にして同社の初代社長で、現在は全く異業種のヘアサロン「アルバム(ALBUM)」を運営するオニカムの代表である槙野光昭氏。14年に東京・渋谷「アルバム」を創業し、業務委託と正社員という2つの働き方を融合するハイブリッド型ヘアサロンとして、わずか4年で業界内では知られるサロンに成長した。槙野代表はなぜヘアサロン業界に参入しようと思ったのか、また何を目指しているのか、その本音を聞いた。
WWD:槙野さんが全く専門外だったヘアサロン業界になぜ参入しようと思ったのか?
槙野光昭(以下、槙野):僕の目標は“資産1000億円”。そこを目指すのにまずは何をすればもうかるかを考えるところからスタートしました。いろいろとリサーチしていくうちに、ヘアサロンが持っている顧客のマーケティングデータを活用すればそれが大きなビジネスになるなと気づいて、サロンビジネスを始めました。“サロン談義をお金にする”というのが始まりですね。
WWD:美容室は全国に24万店以上あり、オーバーストア状態と言われているが、商機はあったのか?
槙野:ヘアサロン業界って参入障壁は高いんですが、まだまだIT化されていないアナログな業界で、経営効率も改善できる余地は大きい。ITを駆使して経営効率を高めていけば勝てると思っていました。僕の場合は当初は「イキナ(IKINA)」というヘアサロン向けの顧客管理&スタッフ教育アプリをメーンの事業に考えていて、そのアプリを広めていくためにはヘアサロンも必要だと考えて「アルバム」をオープンしたんです。今はサロンの事業も順調でそれだけで収益が出ています。
WWD:その「アルバム」は、わずか4年で業界で知られる存在になった。特に「アルバム」の公式インスタグラムはフォロワー数35万超えと、日本のヘアサロンでは一番多い。
槙野:これまでのヘアサロンは女性誌や業界誌に掲載されることでブランディングができた時代だったと思います。その女性誌はその他の業界同様に、今後ITメディアに取って代わられていくと感じていたのと、雑誌に掲載されるのも昔からのつきあいとで選ばれている場合が多く、新規のサロンだと選ばれにくい。だったら自分たちでそれに勝てる他の何かはないか?と考え、それがインスタグラムでした。どうすればフォロワー数が増えるか、人気が出るかを徹底的に研究しましたね。オープン時から人気ブランドや人気タレント、人気美容師のインスタグラムを毎日チェックして、その増減を表にまとめています。それで、増えた時にどんな内容の投稿をしたのかをチェックして、すぐ自分たちでもまねしてみる。どんなヘアスタイルが人気か、どんな動画が人気か。ハッシュタグも30個、日本語、英語、韓国語、中国語などさまざまな言語でどんなキーワードがいいかを常に考えています。それをオープン以来毎日ずっと研究してきています。このデータの蓄積は他のサロンでまねしたくてもできないことで、今の「アルバム」の強みになっていますね。
WWD:「アルバム」はカット2700円、カット&カラーで3500円~と渋谷・原宿エリアではかなりの低料金だが?
槙野:オーナーの僕が会社からはほとんど給料をもらってないというのも大きいと思います。いい業界にしたいと言いつつ、サロンオーナーがかなり報酬をもらっているケースも多く、そこはすごく矛盾している。いい業界にしたいならまずは美容師の給料を上げていかないと変わらないと思っています。「アルバム」では売り上げに対して50%を還元しています。1カ月に約1万人のお客さまが来店されるので、低料金でも売り上げは多く、現在4店舗で売り上げ10億円ほど。経常利益で1億円くらいまでいきました。12月には「アルバム」のセカンドブランドをまずは東京の中野にオープンし、「アルバム」の方でも来年の2月には銀座に80坪のサロンをオープンする予定です。「アルバム」というブランド力を保ちつつ、セカンドブランドでは業務委託サロンの最新のノウハウを学んでいく。その両輪で店舗数を増やしていき、将来的には業界で売り上げ日本一を目指しています。
WWD:最初は業務委託サロンとしてやっていたが、今は正社員として働くスタッフも増えているが?
槙野:今後は正社員を増やしていくつもりです。業務委託を中心にやっているうちに、教育していい人材を育てないとサロンのブランディングはできないと感じました。究極は人というのが、ヘアサロンのビジネスの根本だと実感しています。
ヘアサロン運営だけでなく、新たなビジネスモデルを構築する
WWD:ヘアサロン業界で何を目指す?
槙野:基本的には「イキナ」を軸に、そこにいろいろなサービスを追加していこうと思っています。在庫管理もデジタルで行い、発注もそのアプリで簡単にできるような仕組みにしていき、発注仕入れの徹底的なIT化を図り、コスト削減を目指します。そして店舗を拡大していき、「イキナ」のダウンロード数が100万ダウンロードを超えたあたりで、いよいよ“サロン談義をお金にする”というビジネスモデルが確立してくると思っています。具体的なことはこれから考えていこうとは思っているのですが、昨今のデジタル情報(メール歴、ウェブ閲覧履歴、検索履歴)をもとにした、大手IT企業が行なっているマーケティングを、美容師による“半径50㎝のさらに踏み込んだ究極のマーケティング”が何らかの形で花開く可能性があると見込んでいます。
WWD:なるほど。それが実現すれば、サロン運営以外での新たな収益化のモデルケースが構築されることになる。
槙野:そうですね。先にも述べましたが、オーナーが取りすぎない会社運営、サロン収益以外のビジネスモデルの構築を実現することで、今まで「業界のために……」と言ってきた先人たちが全く結果として達成できていない、美容師の平均年収が最低レベルというのを変えることができると思っています。「アルバム」では、まずは他サロンに先駆けた高待遇を実現し、さらなる優秀な人材確保につなげたいです。
WWD:将来的には何を目指している?
槙野:「アルバム」と「イキナ」の価値を上げつつ5年以内には上場したいです。それで業界ナンバーワンになれば、ヘアサロン業界にとっても新しいモデルケースになれると思いますよ。でも、そこまで強く業界を変えたいとは思っていなくて、お客さまと社員のために何ができるかを最優先に考えています。そこはブレずにやっていきたいですね。