2018年のWWDJAPAN.comの記事を振り返り、かなり個人的に刺さった記事は、「仏ファッション誌『ロフィシャル(L’Officiel)』が独自の仮想通貨発行へ。100億円相当を約50万人に配分」というものだ。同誌と広告主、読者の3者間で利用・取引ができる独自の仮想通貨、テイスト トークン(Taste Token)を発行するというものだ。
まず“トークン”とは紙幣の代わりになる価値あるもの、すなわち代替貨幣のことで、“トークン エコノミー”とはトークンを用いた経済のこと。トークンが貨幣の役割を果たす経済システムを構築しようとする動きであり、すでに一定のコミュニティーや地域で少しずつこのトークンエコノミーが広がりをみせているのだが、いよいよ雑誌業界にも波及してきているのか!と、ある種驚きをもって読んだ記事だった。
「ロフィシェル」は、1年以上かけて独自の仮想通貨とブロックチェーン技術をベースとしたプラットフォームを開発し、1億ドル(約112億円)相当のテイスト トークンを約50万人に配分する。テイスト トークンの配分対象となるのは大きく分けて3つのグループだ。1つ目は、セレブリティーやプロのインフルエンサー、大きな影響力のある人々、銀行、企業のエグゼクティブレベルの人々などで、このグループには1人あたり5万〜10万ドル(約560万〜1120万円)相当のテイスト トークンを配分する。2つ目のグループはラグジュアリーファッション業界関係者で、それぞれ2万〜5万ドル(約224万〜560万円)相当のテイスト トークンを配分する。3番目のグループは「ロフィシャル」の読者で、1つの質問に答えるごとに50ドル(約5600円)相当のテイスト トークンが配分される他、エンゲージメントや提供したデータによってさら報酬がもらえる。読者は自身のデータを「ロフィシャル」に与える代わりにテイスト トークンがもらえるという仕組みだ。
ではなぜ、トークンを発行するのか。「ロフィシャル」を1950年代から有する同族経営のジャル メディア グループ(JALOU MEDIA GROUP)のCEOも務めるベンジャミン・エイメール「ロフィシャル」CEOは、「消費者はタダでデータを取られて広告の対象になっているという現状から、このアイデアを思いついた。例えば『ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)』のサイトでは、われわれ読者は記事を読むのに購読料を払わなければならないが、同時に広告のターゲットでもある。つまり『ニューヨーク・タイムズ』は読者と広告主から二重の収入を得ているように感じる。しかも読者からの注目を得ることでも稼いでいるのだから、おかしな話だ」と語る。トークンを介在することによって、読者は広告を受け取るか受け取らないか、自分のデータを提供するかしないかの選択ができるようになり、この不平等ともいえる状況の打開策として、トークンを発行するというのが興味深い。
個人データということに関連して、日本ではまだそれほど取沙汰されてはいないが、2018年5月にEUで「一般データ保護規則:GDPR(GENERAL DATA PROTECTION REGULATION)」という法律が施行された。これにより、IPアドレスやcookieといったオンライン識別子も個人情報とみなされ、かつ、個人情報を取得する際にはユーザーの同意が必要ということになった。これまでより個人情報の取り扱いに対し厳しくなるのだ。ウェブの世界はEUだけで完結する話ではないため、日本やEU域外でも今後大きく影響してくるのではないだろうか。日本の企業もGDPRで保護される個人データとは何かを理解し、早急に対策を練るべきだと考えさせられた記事だった。