毎年1月に開催される「パリ国際ランジェリー展(SALON INTERNATIONAL DE LA LINGERIE)」は、“ランジェリー業界のパリコレ”ともいわれ、次シーズンのトレンドが生まれる場として広く知られる。しかし今はファッション同様、全く新しいアイテムや、“確実に売れる”メガトレンドが存在するわけではない。ただ、エントランスや会場で配られたバッグに記されたメッセージの“自分に恋せよ(FALL IN LOVE YOURSELF)”が強く印象に残った。
プラスサイズのモデルがショーに登場
今回の「パリ国際ランジェリー展2019」で感じられたのはダイバーシティー(多様性)だ。その象徴が「自分に恋せよ」のメッセージだろう。あなた自身を愛して、あなた自身のボディーを愛せるような下着を見つけて……そんな声があちこちで聞こえてくるようだった。その1つとして、今回のショーではプラスサイズのモデルがショーに登場。いずれのモデルも10周年を迎えたプラスサイズブランド「エロミ(ELOMI)」を着用しての登場で、筆者は同展を取材して20年近くになるが、初めての光景だった。また、有色人種の女性をターゲットにした4色のヌードカラーのみを展開するブランド「ニュビアンスキン(NUBIAN SKIN)」の出展もダイバーシティーを反映している。
サステイナブル素材をエッジの利いたデザインでモードに
サステイナビリティーへの意識の高まりもファッション同様に見られる。肌に直接着ける下着は天然素材の使用率が高いが、さらに一歩踏み込んだサステイナブルな素材を使用しつつ、エッジの利いたデザインを展開するブランドもある。1つは約80%リサイクル素材を使用している「オパーク(OPAAK)」だ。写真のロングスリーブブラは、トレンドとして注目したいアイテムだ。あらゆるシーンで活躍するラウンジウエアを提案する「アバウト(ABOUT)」は、大豆のタンバク質から作られる合成繊維を使用する他、“ビーガンカシミヤ”などを素材に採用している。また、会場の一角には“ポップアップ・ナチュラルネス”というエリアも登場。ここで紹介されていたデビュー2カ月のフレッシュなブランド「ネネ(NENES)」は100%リサイクル素材を使用している。まだオンラインでの販売のみだが、今後の展開に期待したい。
セクシー&フェミニンな要素をスポーツテイストにプラス
スポーツテイストのデザインはここ数シーズン人気が続いているが、今シーズンはスポーツ×セクシー、スポーツ×フェミニン、スポーツ×クチュールなど、強さと柔らかさをミックスしたスタイルへと進化した。メッシュ、太ゴム、バイカラー、Yバックやハイバック(ランニング用のブラのようなバックスタイル)などは代表的なディテールだ。また、新鮮だったのはレイヤードスタイル。写真の「シャンタルトーマス(CHANTAL THOMASS)」のように1枚のボディーでありながら重ね着しているように見えるものもあれば、ハイネックインナーにコルセットやビスチェ、スリップを重ねる着こなしも見られた。
表面的なデザインは、何でもありの時代。女性たちの気持ちの変化を感じ、それにどう寄り添い、どう表現していくかが重要だ。肌に直接触れるインティメイトな存在である下着には、さらにそれが求められるのではないだろうか。
川原好恵(かわはらよしえ):ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルスの分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター、日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身