トム・サックス : 1966年ニューヨーク生まれ。ベニントン大学卒業後、ロンドンの私立建築学校AAスクールで建築学を専攻。その後、建築家フランク・ゲーリーの事務所で家具制作に2年間携わり、アーティストとしての活動を本格化させた。ナイキからR&B歌手のフランク・オーシャンまで、協業相手は多岐にわたる PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
“handmade piece from readymade goods(既製品からの手作り)”をテーマに、身近にある簡素な素材を使用してDIY風のアプローチで作品を生み出す現代芸術家のトム・サックス(Tom Sachs)。「エルメス(HERMES)」の包装紙で「マクドナルド(McDONALD’S)」のハンバーガーセットを再現した「Hermes Value Meal」(1997年発表)をはじめ、さまざまなファッションブランドのアイテムを模した作品で世界中にその名を知らしめたトムは、日本の伝統文化・茶道を彼なりに解釈した個展「ティーセレモニー(Tea Ceremony)」を東京・新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで6月23日まで開催している。
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「TEA CEREMONY」の上映ルーム PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「TEA CEREMONY」の上映ルーム PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「TEA CEREMONY」の上映ルーム PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
並べられた椅子の背もたれ裏には、トムがヒーローだと思う人物やキャラクターの名前が一つ一つ手書きされている PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
映像「TEA CEREMONY」の上映ルーム PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
露地草履風のナイキの特注サンダルが並ぶ。発売の予定はないという PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
日本庭園を模した展示。手前の池には鯉が泳いでおり、流水・生物展示は東京オペラシティ アートギャラリーでは初の試みだという PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
左から、盆栽、茶室、日本灯篭を模した作品 PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
盆栽を模した作品 PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
“茶会”と称する同展は2016年にニューヨークで初めて開かれ、3年を経て茶道の本場日本での開催となった。会場ではまず、トム自身が出演して茶事の作法を実演する同タイトルの映像「TEA CEREMONY」の鑑賞から始まる。鑑賞後、奥へ進むと露地草履風のナイキ(NIKE)の特注サンダルが並べられ、その先にあるトタン屋根でできた門をくぐると庭園が広がり、茶室も設けられている。このように、動線をなぞればトムのフィルターを通した茶道の世界観に没入できるだけでなく、亭主であるトムの“茶会”に招かれた客人として、茶道の一連の流れも自然と知ることができる展覧会となっている。
個展が開催された4月下旬は、毎回即完売の人気を見せるナイキとの新作コラボコレクションを発売するなど、まさに“Tom Week”だった。来日したトムに個展はもちろん、アーティストとしての道のりや哲学、そしてナイキとの関係までの話を語ってもらった。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:個展についての話をお伺いする前に、そもそもアーティストは志してなったのでしょうか、それともなるべくしてなったのでしょうか?
トム:大学時代に間違って彫刻の授業を取ってしまったんだが、そこでは「君たちは美大生なのではない。授業の1日目からすでにアーティストなのだ」という大学の校訓というか精神を教えられた。授業を取ったこと自体は間違いだったが、課題に真剣に取り組んでいたことで今に至ったと思っているよ。
WWD:精神的に大人になった頃からアーティストを志していたのかと思っていました。
トム:子どもが大きくなる過程でアーティストという職業が選択肢に入っていないことが多いのは、アーティストの道を選ばない理由にばかり着目するからだ。でも、そういう道もあるんだという理由に着目して努力すれば、想像もできないほど遠くまで行ける可能性がある。別の言い方をすると、「失敗すると自分で思ったらそれはもう100%、絶対に、確実に失敗する。でも自分は成功すると信じれば、成功するかもしれない」ということだ。
WWD:自分を信じることが一番大切だと?
トム:もちろんそうだが、言葉にすると陳腐だな……。「自分を信じるべし」なんていうと、歯医者の待合室とかに貼ってあるポスターみたいだから違う言い回しをしたけど、これは精神的で宗教的な話に近い。当然、自分を信じる必要はあるが、それでも失敗する可能性は大いにある。だが成功するためには、自分の作品でいいと信じる部分に集中して努力するしかないんだ。オリジナリティーに関していうのであれば、まず自分自身や周囲のコミュニティーの価値観に忠実であることから始まって、その上に構築していくものじゃないかな。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:それでは日本で個展を開くことになったきっかけを教えてください。
トム:数年前に東京オペラシティから「個展を開かないか?」と話が来たんだ。非常に光栄に思うよ。僕の作品を高く評価し、アプローチを理解してくれている証拠だと思う。なにしろ、外国人である僕が“茶会”を開くというリスクも覚悟してくれたことでもあるからね。
磁気の茶碗。「サイン代わり」と話すように、よく見るとトムの指紋を見ることができる Pam 2013 (c) Tom Sachs Courtesy of Tomio Koyama Gallery
WWD:“茶会”のどこに魅力を感じたんでしょうか?
トム:以前、「スペースプログラム・マーズ(SPACE PROGRAM: MARS)」という展示を行った際に、ほかの惑星に持っていく芸術として茶道を選んだくらい、茶道以上に人間の営みの本質を表現できる芸術はないと思っているんだ。デモンストレーション、建築、精神性、五感に訴えてくる感覚性、そして茶碗や茶筅、盆、茶入れ、着物といった道具類(ハードウエア)にいたるまで、すべてが芸術だね。でも抹茶そのものにはあまり興味がないというか、好きではないんだ。個人的にはエスプレッソやマキアートが好き(笑)。
WWD:作法や文化については、日本人と同等かそれ以上に心得ているようですが、どこで習得したんですか?
トム:世界でもっとも素晴らしい芸術様式の一つだから、芸術を学ぶ者として常にそこにあった感じだね。例えばミケランジェロ(Michelangelo)やザ・ビートルズ(The Beatles)、ブルース・リー(Bruce Lee)、ボブ・マーリー(Bob Marley)をどうやって知ったのかなんて聞かれたら困るだろ?そういう大きな存在というのは、いつの間にか知っているもの。とはいえ、最初は15~20年ぐらい前にニューヨークの裏千家の茶道教室に通ったところから始まっているんだ。
WWD:裏千家や千利休について知見がない日本人も多い中で、感心してしまいます。
トム:まぁ、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)の名前を聞いたことがないアメリカ人もいるだろうし、同じようなことさ(笑)。
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PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
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WWD:今回の個展では、おなじみの「ナサ(NASA)」をはじめとした宇宙モチーフの作品も並んでいますね。
トム:先ほどの「スペースプログラム・マーズ」でも今回の「ティーセレモニー」でも、宇宙や茶道そのものを表現したいわけではなくて、彫刻のための土台というか、枠組みのような役割を果たしているだけなんだ。
WWD:個人的に“男の子”はみんな宇宙に興味があると思っていて、そこから派生したのかと。
トム:確かにそこから始まった部分はあるかもしれない。だが、「ティーセレモニー」が純粋に茶道に対するリスペクトからスタートしているのと同様に、宇宙もリスペクトや興味からスタートしつつも、最終的には僕のアイデアなどを彫刻で表現するための土台になっている。僕の彫刻で大切なのは透明性というか、作品に使った素材同士のつなぎ目が見えて、何も隠されていないこと。それが僕が作ったということの証明であり、iPhoneのような史上最高の製品の対極にあるものだということも示しているのさ。
見せ方には特にこだわりがあるそうで、撮影中にもたびたび作品の位置を変更していた PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:制作の背景が見えるというか、完全ではないことがいいーーつまり“不完全な美”という意味でしょうか。
トム:その通り。「スペースプログラム・マーズ」も「ティーセレモニー」の作品も、不完全性を受け入れる点が好きなんだ。宇宙機材をよく見ると不必要な機能や飾りなどは一切なくて、つなぎ目が見えたり、塗装すらされていなかったり、使われてきた形跡が残っていたり、武骨な雰囲気を持っている。それは日本の茶道や伝統的な工芸品、建築などにも通じることだと思うし、歴史あるものや伝統に対するリスペクトを感じるんだ。
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「エルメス」の包装紙で「マクドナルド」のハンバーガーセットを再現した「Hermes Value Meal」 トム・サックスの公式サイトから
「プラダ」のシューズボックス使用して作った便器 「Prada Toilet」 トム・サックスの公式サイトから
「シャネル」のロゴが刃に大胆に配された真っ黒のチェーンソー「Chanel Chainsaw」 トム・サックスの公式サイトから
「ティファニー」のショップバッグで作られた銃 トム・サックスの公式サイトから
WWD:今回は展示していませんが、これまでに「シャネル(CHANEL)」や「エルメス」など、ファッションブランドをモチーフとした作品を数多く制作してきましたが?
トム:ファッションをこの消費社会の諸悪の根源だと思っているから、実はあまり関心がないんだよね。ファッションの“シーズン”という考え方は、計画的に製品を廃れさせることへと直結している。そして消費者、特に女性に対して、最新ではないアイテムを着ていることを時代遅れで恥ずかしいと思わせ、さらに現実的ではない理想像で苦しめ、病に悩ませる。そういう点が大嫌いだ。
ただ、女性を最高にセクシーでいられる手助けをするために仕事に打ち込んでいる素晴らしいデザイナーたちには、もちろん敬意を表するよ。アズディン・アライア(Azzedine Alaia)はシーズンという考えを持たず、自分の作品が進化していくことに注力していたので尊敬しているね。同様に、僕がスタジオで制作しているものは美術館やギャラリーなどアート界のために作っているわけではなく、僕たちのコミュニティーのために作っている。そしてそのコミュニティーには、読者のみんなも含まれているんだ。
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PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:個展開催と同時期にナイキとのコラボコレクションを発売しましたが、ナイキとは長年協業していますね。どういった経緯で協業はスタートしたんでしょうか?
トム:2007年頃からナイキのCEOで友人でもあるマーク・パーカー(Mark Parker)とコラボの話を始めたんだが、条件や考えなどが折り合わなくて悪戦苦闘していた。それで長年かけて話し合った結果、お互いにフィフティーフィフティーの関係じゃない限りコラボアイテムの製作はうまくいかないということで合意したーーつまり、僕がナイキなしでは作れなくて、ナイキも僕なしでは作れない物を作るということ。そうした考えをコラボアイテムに反映しない限り製品化しないということだった。
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2012年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード”
2012年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード”
2012年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード”
WWD:“ナイキとしか作れないもの”ということで、12年にコラボスニーカー“ナイキクラフト マーズヤード(NIKECRAFT MARS YARD)”を発表したんですね?
トム:その通りだ。僕は作りたいと思ったものを“何でも作れる”し、それを売りにしているとはいえ、スニーカーはとても複雑な構造をしている。特にスポーツ用のシューズに関していえば、ちゃんと機能するものである必要があるから作るのが難しくて時間がかかったんだ。
WWD:“物を作る”という同じ枠組みではあるものの、アート作品は鑑賞されることが主で、スニーカーは鑑賞よりも機能性が求められます。この違いに苦慮することはありましたか?
トム:いや、実は全く同じなんだ。僕のスタジオには金属や木材を扱うための基本的なツールがそろっている。ナイキは5万人規模で動かすような巨大な機械を持っている。ただ作るために使うツールやアプローチが違うというだけさ。
WWD:(アート作品とは違って)“大量生産される”という点も考量する必要があるかと思います。
トム:コラボの利点は、大量生産できるということ。僕にとっては作品を手作業で一つずつ作ることも、完璧に仕上げることもたやすい。どこか改良したいと思ったら、すぐに直すこともできる。ただ、1人で同じものをたくさん作ることはできない。そこで大量生産するために大企業との協業が必要になってくるんだ。だが、製造工場のスケジュールと発売のタイミングを調整することは本当に大変で、時間も常に足りなくて、いつも直前まで試行錯誤している。それに大量生産や大企業とのコラボは、何かを間違えた場合すぐに作り直すことができないぶん被害の大きさが尋常じゃない。だからこそアイデアを大きく膨らませられる可能性も桁違いなんだけどね。
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2017年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード 2.0”
2017年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード 2.0”
2017年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード 2.0”
2017年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード 2.0”
2017年に発売された“ナイキクラフト マーズヤード 2.0”
WWD:そういった背景があるから、“ナイキクラフト マーズヤード”をアップデートした“ナイキクラフト マーズヤード 2.0”が生まれたんですね。
トム:その通り!改良というのはどんなときでも常に考えていて、大量生産された“マーズヤード”を日常的に履き続けることで発見できた部分を改良し、“マーズヤード 2.0”が生まれたんだ。
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フランク・オーシャンの公式インスタグラム(@blonded)から
フランク・オーシャンの公式インスタグラム(@blonded)から
フランク・オーシャンの公式インスタグラム(@blonded)から
WWD:ちなみにフランク・オーシャン(Frank Ocean)が“マーズヤード 2.0”の色違いを履いていたのですが……?
トム:彼は悪趣味でね、自分でDIYしたか頼んだか知らないけど僕は好きじゃない(笑)。
READ MORE 2 / 2 「ボロボロになるまで履き倒せ!」
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:ポンチョをはじめとした今回のコラボコレクションについて教えてください。
トム:まず読者のみんなに、(今回のコレクションは)“トム・サックスがナイキのために作ったものではない。ナイキが僕と僕のチームのために作ったものである”ということを伝えたい。僕がナイキのために仕事をしたのではなく、ナイキが僕らのために仕事をしてくれた。ナイキはアスリートのためのブランドで、肉体がある者はみんなアスリートだと考えているーー言い換えると、“エア ジョーダン(AIR JORDAN)”がマイケル・ジョーダン(Michael Jordan)のために作られたように、ナイキは僕たちがスポーツをするために必要なものをサポートしてくれたんだ。
VIDEO ポンチョのハウツームービー
コレクションは冬と春の狭間にある3月をテーマにしている。3月は少女と大人の女性をつなぐ思春期のような月だから、僕らのチームでは“移行期の月”と呼んでいる。だから今回のコラボでは“移行”を大きなポイントとしていて、ポンチョは何もないところから、プルタブを引っ張るだけで一瞬にして暖かさを提供してくれる衣服として現れる。ビーニーも、頭を覆うという最小限の布地の大きさで、最大限の暖かさを提供する。このように今回のアイテムは、どれも“移行”がとても素早く行われる製品だ。
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WWD:なぜスポーツブランドであるナイキとポンチョを製作したんでしょうか?
トム:ポンチョが好きで必要だった、それだけさ(笑)。開発には数年かかったんだが、東京滞在中に雨に降られたから実際に使ってみたら改良したい点を見つけた。だから、ポンチョの改良版“ポンチョ 2.0”を発売することになったら、東京での経験を生かした機能がついているものになるだろうね。
ビーニーはエンジニアリングの観点からすると、多くの熱量が奪われる頭を最小限の布で覆うことで最大限の暖かさを提供する、最も効率的なアイテムなんだ。まるでセーター……いや、それ以上に重ね着をしたような効果がある。それにとても小さいから、折りたためばどこにでもしまうことができる機能性の高さもある。
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WWD:ビーニーは後ろにペンが挿せる仕様も備わっていますね。
トム:僕は常に鉛筆を持っているわけではないんだけど、それは収納するための場所がないからというのが大きい。でもこういうところに鉛筆を入れてることができたらなくさないし、すぐに取れるからいいかなと思ったんだ。あと、このビーニーって、かぶるとちょっと変な感じになるだろ?こんなものを頭にかぶっている時点で少しおかしな人に見えるのに、鉛筆を入れるところまであったらそれがさらにクレイジーな感じに強調されていいかなって(笑)。いつか黒いバージョンも作ってみたいとは思うが、ヘンさが薄れるし目立たなくなってしまうから考えものだ。
WWD:ショーツは実際に履いてみたところ、ダウンのように非常にモコモコとした質感で、ショーツだけど暖かい印象でした。これは気候変動が大きい3月に対応できるためでしょうか?
トム:体の中心さえ暖かければ全体が暖かくなるという観点から、ショーツでも問題ないように中に軽くて暖かな素材のグースダウンを使用しているんだ。800フィルパワーあるよ(編集部注:1オンスの羽毛が800立方インチの体積まで膨らむことを800フィルパワーといい、700フィルパワー以上で高品質ダウンとされる)。
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2019年に発売された“マーズ ヤード オーバーシュー”
2019年に発売された“マーズ ヤード オーバーシュー”
2019年に発売された“マーズ ヤード オーバーシュー”
2019年に発売された“マーズ ヤード オーバーシュー”
2019年に発売された“マーズ ヤード オーバーシュー”
WWD:コレクションのキーアイテムであるスニーカー“マーズ ヤード オーバーシュー(MARS YARD OVERSHOE)”は、これまでのコラボスニーカーの様相と大きく変化していますね。その意図は?
トム:雨が多くて寒い季節を乗り切れるようにデザインした、防水仕様のスニーカーだからだ。アウトソールも、凍っていたり滑りやすい場所にも対応できるようにとても柔らかくなっている。3月向け、もしくはニューヨークや東京の冬向けのスニーカーだね。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:私も持っているんですが、(今日みたいに)雨が降っている日こそ履くべきスニーカーだったんですね。
トム:一つはっきりさせておこう。汚したくないからという理由でこのスニーカーを履かない人がもしいたら、そいつは履くべき人間ではない。ボロボロになるまで履いて、履いて、履き倒せ!(笑)。
WWD:モデル名に“マーズ(火星)”とあるように、宇宙服を想起させるデザインでもあります。
トム:スニーカーも僕の彫刻作品の1つだと思っているし、アポロ11号の月面着陸の際のオーバーシューズを参考にしているからそう感じるのだろうね。アッパー全体を覆う部分には非常に強度と防水性能が高い素材“ダイニーマ”を使っているんだが、これはアポロ計画の宇宙服に使われているガラス繊維“ベータクロス”によく似ているんだ。
WWD:今回の来日は久しぶりだったかと思いますが、滞在中に広島・尾道を訪れていましたね。作品のインスピレーションを得るためでしょうか?
トム:来日は3年ぶりで、6〜7回目かな?アメリカにはラストベルト(アメリカ国内で脱工業化が進んでいる地帯)と呼ばれる尾道のような町がある。ラストベルトは過去に工業地帯として栄えていたが、現在は衰退しているような場所で、尾道は美しいのはもちろんだが、ラストベルトのようにこれからの再活性化の可能性があると思っている。ゆえに、アーティストを引き付ける魅力を持っているんだ。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:滞在期間中には、野村(訓市)さんやヴァージル(・アブロー)らと会っていましたが。
トム:訓市は、トヨタに次いで日本で2番目にいろいろなものを輸出していると思っている、最高だよ。俺のブラザーさ!(笑)。