ZOZOがヤフー(現Zホールディングス)の子会社化と前澤友作・前社長の退任を発表して4カ月近くが経った。前澤氏の後を継いだ澤田宏太郎・社長は“ZOZOイヤー”と掲げる2020年に突入する中で、どのように舵を取っていくのか。「“ZOZOイヤー”は2つのキーワード、3つの方針をもとに動くことになる」と語る澤田社長へのインタビューから、「ゾゾタウン」の行方やヤフーとの今後の関係、そしてZOZOの未来を探った。
WWD:ZOZOの社長に就任してから4カ月弱。新社長としてどのようなことを行ってきた?
澤田宏太郎ZOZO社長(以下、澤田):ヤフーの傘下に入るに当たって経営陣で事前に決めた計画をこなしてきたほか、“ZOZOイヤー”でもある20年の計画を策定していた。社内での意思決定体制においても、前澤(友作・前社長)時代のトップダウン方式から、ボトムアップ方式に切り替えるように努めている。これまでは社員みんなが前澤の決済を取るために動いていた。未だにその名残があり、「どうすれば良いか」と私が社員に聞かれることもあるが、「自分で決めて欲しい」と言っている。もちろん時間はかかるが、自発的な組織体制を作ることで、事業展開のスピードは速まっていくと考えている。
WWD:昨年9月の会見では「前澤氏はZOZOの持ち株を全て手放す」とされていたが、未だに株の約17%を保有している。大株主として経営に関わることはないのか?
澤田:経営に関わることは全くない。「株主として応援する」とは言っていたが、本人も経営から距離を取ることを徹底している。私も現時点では経営者の覚悟として、基本的に連絡を取らないようにしている。
WWD:昨年9月12日の会見では前澤氏が「社長打診は会見の一週間前だった」と言っていたが、本当か?
澤田:本当だ(笑)。彼特有のインスピレーションが働いたのだろう。ただ、ヤフーの下で何ができるのか、ということは経営陣の間でかなり話し合っていたので、就任後もそれほど慌てふためくようなことはなかった。
WWD:具体的には、ヤフーの下でどういったことを行っていくつもりか?
澤田:既に発表されている通り、まず「ペイペイ(PAYPAY)モール」が大きな存在だ。ヤフーが重要視している「ペイペイモール」を伸ばしていく中で、「ゾゾタウン」の出店ブランドがどれだけモールに出店してくれるかがポイントとなる。さらには集客、物流、「ペイペイフリマ」と「ゾゾユーズド」のシナジーなど、出来ることは数多くある。
WWD:「ペイペイモール」に「ゾゾタウン」として出店したが、ブランドの集まり具合は計画通りか?
澤田:計画以上で、「ゾゾタウン」の出店ブランドの9割近くが「ペイペイモール」に出店してくれている。改めてブランドとのコネクションや信頼関係の中でわれわれは生きており、それこそがZOZOのバリューであると感じた。私自身、社長に就任して以降、20社ほど「ペイペイモール」の営業も兼ねて挨拶に回ったが、不安を抱いていたブランドも少なからずあった。その不安を払拭するために、ZOZOの営業部隊が丁寧にブランドに説明し、納得してもらった結果が出ている。
2020年、ZOZOは
“ファッション”を打ち出す
WWD:2020年はどうする?
澤田:“MORE FASHION”と“FASHION TECH”という、2つのキーワードをもとに動いていくことになる。どちらのキーワードもZOZOの強みとして漠然とは理解していたが、もう一度明確にして打ち出していきたい。“MORE FASHION”では、当社がIT企業ではなく、あくまでファッション企業であると考えていることに起因する。ZOZOは世界的に見てもファッション好きの社員が多い企業だと自負しており、それを徹底的に生かしていきたい。2つ目の“FASHION TECH”では、ZOZOテクノロジーズに集まった優秀な人材と、コーディネートアプリ「WEAR」を中心としたデータやZOZOの購買履歴といったデータの“宝の山”を生かす。
WWD:具体的にはどのような施策を行っていくのか?
澤田:3つの方針がある。1つ目は「ペイペイモール」と「ゾゾタウン」におけるターゲットの明確な差別化だ。国内における10~50代の消費者のデータを独自に取ったところ、ファッション好きが全体の15%、あまり興味がない人が35%、その中間が50%だった。さらに各層の市場規模を算出すると、ファッション好きが2.2兆円、中間が2.7兆円(ECとリアル含む)。「ゾゾタウン」はこれまで、ボリュームのある市場を取り込むことで成長してきたが、ファッション好きの層は取り込めておらず、中途半端な立ち位置になっていた。今後は「ゾゾタウン」でファッション好きの層を取り込み、中間層を「ペイペイモール」で狙っていく。目標数字は明かせないが、今の状況が「この程度?」と言えるくらいには「ゾゾタウン」の会員数や購入者数を増やせると思っている。
2つ目の方針は、カテゴリーの強化だ。テクノロジーの力でユーザーが感じているハードルを下げ、買いやすくすることでカテゴリーの強化を図る。まずはリリースが遅れていた、“ゾゾマット”を2月にスタートし、“ZOZOシューズ”という屋号を掲げ、シューズのカテゴリーをグレードアップしていく。今後も “ZOZO〇〇”を続々とローンチしていく計画だ。
そして3つ目に、BtoB事業の強化がある。これまではECの枠の中で支援してきたが、リアル店舗の支援もできると考えている。まだ構想段階だが、需要予測をもとにしたディストリビューションや集客、決済サービスの「ペイペイ(paypay)」を使った店舗支援ソリューション、データを活用した販売員の接客支援などができると思う。端的に言えば、“価値ある服を適正な価格で売ること”ができればファッション業界はもっと盛り上がるはず。ただ、物流などいろいろな問題が邪魔をしてうまくいかない。そういった“雑音”をデータやテクノロジーの分野からZOZOが取り除けると考えている。
WWD:「ゾゾタウン」としては“マス化”を進めてきたこれまでから大きく路線変更し、“ファッション”を強く打ち出していく、と。マス層を「ペイペイモール」に任せ、ZOZOはそれ以外に注力するようなイメージか?
澤田:そう簡単には行かない。ヤフーはやはりメディア企業であり、在庫を抱えて運ぶECとはカルチャーが異なる。ZOZOとしては現在、専用部隊を設け「ペイペイモール」でファッションを売るためにさまざまな知見を共有している。「ゾゾタウン」の成功事例を「ペイペイモール」に導入し、「ゾゾタウン」は新たな手法を模索していくといったサイクルを作りたい。
WWD:「ゾゾタウン」がファッション好きの層を取り込むためには、どのようなことが必要だと考えている?
澤田:一つはメディア的な要素だと考えている。当社も「WEAR」というメディアを持っているが、そういったモノを使いながら、“楽しいサイト”を作っていかなければいけない。また、限定品やコラボ商品といった企画も重要だ。従来は「欲しい時にすぐに買える」という、ある種の“自動販売機”のようなサイトになってしまっていたし、“ゾゾスーツ”やPBに技術者がつきっきりになっていた。現在は「ゾゾタウン」をファッション好きが満足するためのサイトにもう一度作り直すための体制を整えている。
テクノロジーも絡めて
ラグジュアリーをも取り込む
WWD:ファッション好きが好むようなブランドの取り扱いも増やしていく?
澤田:ラグジュアリーブランドを含め、ファッション好きを満足させるブランドの取り扱いを増やしていく。ただ現在の「ゾゾタウン」では、そうしたブランドはどうしても埋もれてしまうし、ブランド側も今の「ゾゾタウン」ではただ出店して欲しいと言っても応じるわけはない。カギはテクノロジーだ。すでに一部のラグジュアリーブランドとは水面下で話をしているが、ゾゾマットのようなテクノロジーを絡めたソリューションにはかなり高い関心を持っていただいている。
WWD:出店ブランドの中には、「ゾゾタウン」内でのランキングや検索で、「低単価の商品がメインで、自社の商品が上位に出づらい」という不満を持っているブランドもある。サイトを作り直す中で、その部分が改善される可能性はあるのか?
澤田:パーソナライズ化の流れの中で解決できればと思っている。「低単価の商品に押され、露出の機会がない」と言うブランドもある一方で、安価な商品を求めているユーザーもいる。われわれとしては対応が遅れてしまった部分だが、今後はユーザーの好みによってランキングの表示方法を変更できるよう、整備していくつもりだ。ランキングも含めたパーソナライズ化は、“ZOZOイヤー”内に必ず実現させたい。
WWD:昨年の12月には中国への進出も行った。中国事業は今年、どうなっていくとみている?
澤田:7年ぶりの再進出なので、土地勘を養っていくことがメインになるだろう。先日オープンしてからの報告を受けたところだが、まだまだ出来ることがたくさんある。中国では、ECのトレンドとしてメディアECが浮上している。われわれとしても日本発のメディアECとしてどこまで行けるのか、試行錯誤していきたい。
WWD:最後に、有価証券報告書によると前澤前社長のZOZOでの年収は1億8400万円だった。澤田社長の年収は?
澤田:もちろん言えない(笑)。ただ、前澤よりは全然低いです。