年間3億mのデニム生地を生産するトルコ企業のイスコ(ISKO)は、約20億本生産される世界のジーンズ産業で最も大きな影響力を持つ企業の一つだ。同社は単に生産能力が高く、有力なジーンズブランドやメガSPAなどに生地を供給するだけの企業ではない。垂直統合型のビジネスモデル、世界のジーンズ市場の潮流を変えた革新的なストレッチデニムの開発、先進的なサステナビリティの世界規模での推進など、世界のジーンズ産業をさまざまな面でリードし、実際に大きなインパクトを与えてきた。日本のメディアにほとんど顔を出すことのなかった、来日中のファティ・コヌコグル(Fatih Konukoglu)=イスコCEOを直撃した。
WWDジャパン(以下、WWD):来日は何回目になりますか?
ファティ・コヌコグルCEO(以下、コヌコグル):もう数え切れないほどだ。日本はジーンズ産業にとって最も重要な地域の一つだ。ファッションの先進性に加え、技術的な面でも重要な貢献をしてきた。ジーンズ産業に関わるものとして、そうした地域を自分の目と耳で確かめるのは当然であり必要なことだ。
WWD:イスコが開発したストレッチデニムは、ファストファッションブランドやグローバルSPAを通じて若い女性という新しく強力な市場を獲得し、ジーンズ市場の潮流も塗り替えた。自社をどう位置づけているのか?
コヌコグル:ストレッチデニムは、われわれの開発したアイテムの一部に過ぎない。われわれの本質は、特定のデニム生地を開発するファブリックサプライヤーではなく、顧客のニーズを満たすサービスサプライヤーであること。ジーンズを作る全てのブランドや小売店に、あらゆる商品を供給することを目指しており、セルビッジや14オンスの伝統的なリジッドデニムからストレッチ、さらにはスポーティーな製品まで、当社のポートフォリオは2万5000種類以上に達している。
WWD:研究開発体制は?
コヌコグル:本社の研究開発センターには、テキスタイルのエンジニアはもちろん物理学者や化学者、生物学者、数学者といった研究者も在籍しており、チームとなってあらゆる面から消費者のニーズに対するソリューションを探っている。デザイナーやブランドを支援するため、われわれはデニムと衣服に関して「イスコテカ(ISKOTECA)」と「クリエイティブ・ルーム(CREATIVE ROOM)」という2つの “シンクタンク”を持っている。「イスコテカ」は当社のデニム生地の洗い加工などのフィニッシュに関するライブラリーで、2万5000点以上のデニム生地とそれを再現するレシピを持つ。「クリエイティブ・ルーム」はスタイルとデザインに関するリサーチに特化しており、消費者のトレンドや洗い加工、世界中の衣服のサンプルなどを保有している。
WWD:イスコをはじめ、米国の名門コーンデニム(CONE DENIM、旧コーンミルズ)、インドの新興企業アルヴィンド(ARVIND)など、世界のメガ大手企業はいずれも年産1億mを超え、紡績から織り、染め、仕上げまでの一貫生産体制を持ち、各工程の自動化もかなり進んでいる。今後ジーンズ生地のメガ大手サプライヤーはどういった方向性に進むのか。
コヌコグル:われわれがいま最も注力しているのは、生産性の向上ではない。使用する原料から生産工程の省エネ・省力化など、サプライチェーン全体のあらゆる点で不要なものを極限まで減らすこと、つまりサステナビリティだ。最新の製品の一つで、リサイクルコットンとリサイクルポリエステルを使った“アールツー(R-TWO)”では、綿糸を紡績する際に発生する“落ちわた”を回収し、再利用している。イスコは創業以来、“レスポンシブル・イノベーション(RESPONSIBLE INNOVATION)”を事業の根底に掲げてきたが、時代の変化に合わせてその方法は常にアップデートする必要がある。現在のサステナビリティで最も重要な点の一つは“透明性”で、どんな原料や工程も、文書化され、監査され、完全にトレーサブルであることが求められる。“アールツー”でも、もちろんそうしたことが徹底されており、リサイクルコットンは繊維製品の国際的なNGO「テキスタイル・エクスチェンジ(TEXTILE EXCHANGE)」のトレーサビリティ認証基準「CCS(Content Claim Standard)」を、再生ポリエステルもグローバル・リサイクル・スタンダード(GRS)、あるいはリサイクル・クレーム・スタンダード(RCS)のいずれかを取得している。
WWD:英国の調査会社ジャストスタイル(JUST-STYLE)によると、世界のデニム市場は年率1〜2%と緩やかながらも継続的に成長を続けるとされている。設備投資には、今後どの程度の資金を投下していくのか?
コヌコグル:申し訳ないが、財務的な質問には答えられない。ただ、設備投資は常に行っている。織機は常に最新のものに入れ替えたり、追加したりしており、現在は2000台の最新の自動織機を持っている。ここ最近で最大の設備投資は、19年前半に新設した12万8000平方メートルの最先端機器を備えた物流センターだ。最大500mの織物ロールを扱うことができ、7台の自動運転ロボットが稼働。完全無人化を達成していて、酸化しやすいデニム生地の劣化と火災を防ぐため酸素濃度は16.4%に保たれている(通常の空気中の酸素レベルは21%)。
WWD:イスコの考える未来のデニムとは?
コヌコグル:新たなターゲットという意味で答えるならば“ヘルスケア”だ。2019年1月の世界的なスポーツの総合見本市イスポ(ISPO)で発表した“イスコ・バイタル(ISKO VITAL)”は、織物による世界初のコンプレッションウエアだ。これまでコンプレッションウエアのほとんどはニットだったが、織物の方がニットよりも最大で4倍長く形状を維持でき、テキスタイルの位置もズレにくいなど、さまざまなメリットがある。圧力を掛けることで血流を改善し、多くのメリットを着用者に提供できる。もう一つの革新的な製品が昨年11月のミュンヘンのファブリック見本市パフォーマンス・デイズ(PERFORMANCE DAYS)で発表した“イスコ アクアス(ISKO ARQUAS 6.0)”だ。さまざまな高機能の特許技術を集積したもので、防風性、撥水性と防汚性、UVカット、防臭、抗菌などの機能を持ち、肌面にあたる生地の水分は常に最低限に保たれる。フィットネスやアウトドア、アスレチックがターゲットになる。
最後にこれは未発表だが、2月12〜14日に東京ビッグサイトで開催される「ウエアラブルEXPO」で、最先端のウェアラブル技術を、イスコとして発となるキッズコレクションで発表する。モーションキャプチャーやLEDの組み込みによる衣服の点灯まで、さまざまな可能性を見せたいと考えている。
WWD:最後に今後デニム市場で勝ち抜くカギになるのは?
コヌコグル:絶え間なき革新と責任ある選択、そして情熱だ。われわれイスコの社員の体には青い血が流れている。