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「プラダ」の“ブラックフェイス”キャラクター問題に決着 NY市人権委員会がプラダと和解を発表

 米ニューヨーク市人権委員会(以下、NY市人権委員会)は2月5日、「プラダ(PRADA)」が2018年12月に発売したキャラクター製品がブラックフェイス(黒人に扮して顔を黒く塗る)表現だと批判された件について、プラダの米国法人(PRADA USA Corps.)と和解したと発表した。

 問題となったのは“プラダマリア(PRADAMALIA)”シリーズの「オットー(OTTO)」という黒いサルのようなキャラクターだ。人権派弁護士のチニア・エジー(Chinyere Ezie)が、ニューヨーク・ソーホー地区にある「プラダ」の店頭に陳列されていたこのキャラクターを目にして、「人種差別的で、侮辱的。私は怒りに震えている。『プラダ』は恥を知るべき」とフェイスブックに投稿したことが発端となった。プラダは「問題のキャラクターはブラックフェイスを表現したものではなく、不快な思いをさせる意図はなかった」と説明したが、NY市人権委員会は停止通告書を送り、プラダ社の調査に入っていた。

 NY市人権委員会が発表した和解の詳細は以下の通り。

・プラダ社のニューヨーク州の従業員及びミラノの経営陣は人権平等に関するトレーニングを受けること
・歴史的にファッション業界内で過小評価されてきた人々への奨学金プログラムの設立
・90日以内に決定権を持つダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー候補を選定し、経歴を委員会へ提出すること。この人物は米国内で販売するプラダの商品や広告を検閲し、プラダの差別禁止ポリシーの運用も監視する
・19年2月にプラダが組織した多様性とインクルージョンに関する諮問委員会に3~5人のメンバーを最低6年にわたって配置し、定期的に委員会にその活動内容や進捗状況を報告すること
・多様性とインクルージョンに関する諮問委員会のメンバーでもあるファッション工科大学(Fashion Institute of Technology)のジョイス・ブラウン(Joyce Brown)プレジデントのコンサルティングを受けること など

 この和解について報じた「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」よると、NY市委員会はジョニー・デップ(Johnny Depp)をアイコンとするメンズ香水シリーズ「ソヴァージュ(SAUVAGE)」のCMが「文化の盗用」と批判を浴びた「ディオール(DIOR)」や、19年2月にバラクラバ帽風のトップスが黒人差別だと炎上し販売を中止した「グッチ(GUCCI)」ともプラダと同様の交渉を続けているという。

 NY市人権委員会の委員で人権団体NESRI(National Economic & Social Rights Initiative)のエグゼクティブ・ディレクターを務めるキャシー・アルビサ(Cathy Albisa)は、「この和解は政府が人種差別の苦しみから解放し、正しい方向に修復する強力な手段であることを証明した」と今回の和解を評価するとコメントしている。他方で、デザイナーのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)や夫のパトリツィオ・ベルテッリ(Patrizio Bertelli)=プラダ最高経営責任者らミラノの経営陣に対してもトレーニングへの参加を課していることから、国外の企業や個人に対して強制力を持ったり活動を制限したりするほど強力な権力を一都市の機関が有していることが問題だとする声もある。

 ミウッチャは一連の騒動を踏まえて“文化的正解”について、「現代では誰でも他者を傷つける可能性があるが、どうやって全世界の文化を深く知り、文化間の差を理解することができるだろうか。“文化をリスペクトする”ということは、ファッションはもとより全ての根底にあること。『自分は誰かを傷つけていないだろうか』と考えるようになったのと同時に、何しても傷つく人は必ずいるからどうやってこの問題を解決すればよいか分からない。問題を起こさないよう、発言することをやめようという気にさえなる。しかしこれは自由の欠如にもつながることで、正しいことしか発言できなければ自由が失われてしまう。今こそ立ち上がって発言するべきだ」とコメントしている。

 ファッションローに詳しい三村小松法律事務所の海老澤美幸弁護士は、「NY市人権委員会は、昨年2月にも公共の場所で髪やヘアスタイルによる人種差別を禁止するガイドラインをリリースするなど、広い意味での“ファッション”に対して積極的に切り込んでいる印象だ」という。また、日本のブランドにとっても今回の件は他人事ではないと話す。「今回のNY市人権委員会の対応は、日本のブランドに対しても非常に大きなインパクトを与えるだろう。日本は多民族国家ではないことから、人種差別や文化の盗用に敏感とは言えない。また、ジェンダー・ギャップ指数が121位と低いことが話題になったように、男女差別に対する意識も高いとは言い難い状況だ。世界で活躍し、また世界を志向するブランドやデザイナーは、ぜひとも人種差別や男女差別をはじめとする“差別”について積極的に学ぶべきだと思う。また、スクリーニング機能を高めリスクを減らすために、商品デザインについて多くの社員の目を通すことは有用だろう。例えば、チャットグループなどでデザインを公開して意見を募り、『差別かも?』との声が上がったら再検討する、という方法も効果的だろう」。

YU HIRAKAWA:幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年から「WWDジャパン」の編集記者としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当。同紙におけるファッションローの分野を開拓し、法分野の執筆も行う。19年6月からはフリーランスとしてファッション関連記事の執筆と法律事務所のPRマネージャーを兼務する。「WWDジャパン」で連載「ファッションロー相談所」を担当中

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