東京オリンピック・パラリンピック開幕まで約150日となった。新型コロナウイルスに対する懸念はあるが、競技に関する話題が徐々に加熱している。中でも、マラソンのシューズは世間からの注目が高いトピックスの一つだろう。「ナイキ」の“厚底”と呼ばれているソールが厚いシューズは、内部に付くカーボンプレートによって推進力が生まれ、ファンランナーでさえ足入れした瞬間にこれまで履いていたものとは明らかに何かが違うと分かる。1月の「第96回箱根駅伝」で総合優勝した青山学院大学は、「アディダス」と包括契約を結んでいるものの、シューズに関しては出場した選手全員が「ナイキ」を選ぶほどだった。(この記事はWWDジャパン2020年2月24日号からの抜粋です)
“厚底”が競技で独り勝ちを続ける中、ワールドアスレチックス(国際陸連)も立ち上がり、1月31日にシューズの新たな規定を発表。従来の規定に「内蔵するプレートは1枚まで」「靴底の厚さは40mmまで」「レースの4カ月前から一般購入できること」の3つが追加された。しかし「ナイキ」はわずか数日後にこれらをクリアする新作を発表し、五輪本番に向けて着々と準備を整える。しかしここにきて、規定のタイムリミットとなる4月に「アディダス」と「アシックス」がカーボンプレート内蔵の新作を発売すると発表。会見では「これも厚底の一種なのか?」という質問が飛んだり、「ニューバランス」のシューズを履いて優勝したランナーに対し「非厚底で勝利」という見出しが躍ったりと、シューズの厚みに対する話題をメディアがこぞって取り上げている。
もちろん、スポーツマーケティングの観点では興味深い事象であるし、各社がしのぎをけずって開発した最新テクノロジーに注目が集まるのは当然のこと。業界の新たな時流を伝えるのはメディアの役割である。今後控えているオリンピック代表選考レースでも、選手が履くシューズにまずは注目が集まるのだろう。しかし少し立ち止まって、選手個人にもスポットを当ててみてはどうだろう。最近は、主役であるはずの選手の存在感が薄くなってしまった。選手には個々の強みがあり、彼らは日々の鍛錬で自身と闘っている。スポーツの醍醐味は本来そういった“個”にあったはずで、テクノロジーはそれを伸ばす手段だった。しかし現在は“厚底・薄底”という手段が先行し過ぎて、個人の背景が見えづらい状況になりつつある。
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