ファッション

「100%土に還る服」に元東コレデザイナーが挑戦するワケ

 サステナビリティへの関心の高まりで、国内外でいわゆるサステナブランドが次々と誕生している。オーガニックコットンやリサイクルといったエコロジーな素材使い、フェアトレードなどのエシカルへの配慮など、様々なコンセプトや取り組みを打ち出している。背景にあるのは、従来のトレンドを起点にした大量生産型の産業モデルへの反発や疑問だろう。かつて学生時代に東コレブランド「ナオシサワヤナギ(NAOSHI SAWAYANAGI)」を立ち上げた澤柳直志「シンクスドットデザイン(SYNCS.DESIGN)」クリエイティブ・ディレクターも、その1人だ。3月中旬からクラウドファンディングの「マクアケ(MAKUAKE)」で100%和紙糸を使ったカットソー“ペーパー”を発表する。今なぜサステナブルなのか、「100%土に還る服」は、ファッションの何を変えるのか。澤柳氏に聞いた。

WWD:今なぜサステナブルな新プロジェクトを?

澤柳直志(以下、澤柳):「ナオシサワヤナギ」は2013年からコレクション発表を行っておらず実質的には休止状態。その後もいくつかのブランドを立ち上げたが、現在は16年に設立したシンクスドットデザインでスタートしたOEM・ODM事業が、大手商社などからの受注などで軌道に乗った。そこで一昨年あたりからもう一度オリジナルブランドを立ち上げたいと考えた。当初は、かつての自分の名を冠したデザイナーブランドを考えた。アパレルの大量廃棄などが社会的な問題になる中で、ふと自らのこれまでのプロジェクトを見直してみると、それは単なる自分のエゴを満足させるだけで、「単に新たな廃棄物を生み出すだけでは?」という疑問が頭から離れなくなった。

そうした中で行き着いたのが、「100%土に還る」というコンセプトだった。学生時代にブランドをスタートし、10数年間業界に身をおいてきたが、ファッションを楽しむこと自体が悪いとはどうしても思えなかった。だったら、環境への負荷をできるだけ減らせばいい。無駄なものは作らず、かつ廃棄しても環境負荷をかけずに土に還って、また土から生まれる素材。そこで出合ったのが、和紙繊維メーカーのキュアテックス社(CURETEX、本社:東京都世田谷区)だった。

WWD:和紙糸は、コットンやウールといった天然素材と何が違うのか。

澤柳:「キュアテックス ヤーン」が「エコテックス スタンダード100」などの認証を得ているなどもあるが、最大のポイントは服の後に農業資材としてリサイクルできることが大きい。キュアテックス社は福井県にある自社工場で紙を細くスリット(切り目を入れること)するところから、撚って糸にして、天日干しして仕上げるまでの一貫工程を持ち、同社はすでに農業資材で商業化しており、全国の農家などとネットワークもある。それに和紙糸は単に環境負荷が低いだけでなく、アパレル分野も含め、すでに商業化されており、しかも吸水速乾や抗菌性、防臭性、軽量性などの機能を兼ね備え、素材としてのスペックも高い。キュアテックス社とは今回はカットソーを作るため、何度も一緒に試作品を作って完成にこぎつけた。現在上梓されている和紙糸商品に比べても、糸の細さや強度などの面でどこよりも高いクオリティに仕上がったと自負している。

WWD:セールスポイントはサステナブルであること?

澤柳:サステナブルであることはもちろん全面に打ち出して訴求するが、ファッション性の高いストリートウエアとしての完成度も追求した。身頃の表側には織物を、裏面と袖は丸編みにすることでデザイン性を高くした。ワンポイントで“ペーパー”という刺繍もいれるが、こちらも100%和紙糸を使うなど、「100%土に還る」ことにこだわっている。価格は1万円。あえて明かさないが、クラウドファンディングという受注生産だからこそできる高い原価率だ。まずはカットソーからだが、シャツやデニムなどにも今後はアイテムを広げていく。

WWD:今後はこの和紙糸を独占的に使用しながら、ビジネスを広げていく?

澤柳:そういった考え方は本当にナンセンスだと思う。そもそもキュアテックス社が前向きに協力してくれたのは、彼らがこの“ペーパー”をきっかけに和紙糸を衣料品分野で広げるため。もちろんこの糸を作るため僕らも大きな貢献をした自負はあるが、彼らの販路を制限していい理由にはならない。16年にシンクスドットデザインを設立し、OEMを通じて国内外の大手商社やニッター、繊維機械メーカーとのビジネスのつながりを通じ、海外、特に中国のスピード感やスケール感を体感してきた。振り返ってみて小規模でインディペンデントであることにはいい面も悪い面もあるが、今はすごく狭い世界のことだな、と思う。人材系という異業種のナンバーズ社に合流して、契約書もろくにかわさない旧来型のアパレル業界のやり方がいかに特殊かも実感した。きれいごとを言うつもりはないが、冒頭にも言ったとおり、このプロジェクトのゴールはアパレル産業が循環型に転換する一助になること。変なエゴを通すことは産業としての魅力や可能性を削ぐことになる。

WWD:今後は?

澤柳:目指すは、“環境へのネガティブインパクトがゼロ”になるビジネスにシフトすること。本業のOEMが一時的に減ってもしょうがないと思っている。この“ペーパー”でこだわったのも、単に糸だけでなく、製品トータルで環境負荷がゼロ、あるいは極限までゼロに近いこと。土に還ることを考えたら、化学染料を使った染色加工もできない。今回「マクアケ」で発表する“ペーパー”は、そういったこともあって染色や加工は施していない。今後の商品では環境負荷の低い染色や加工方法も同時並行で開発していく。回収スキームも水面下ではほぼ確立しており、すでに長野のりんご果樹園や牡蠣の養殖家などと提携し、回収した服を資材として再利用する準備も整っている。

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