※この記事は2019年10月7日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
価格を上げられないのは、私たちメディアのせいなのか?
低料金エステの倒産に関する記事にある、「低料金競争を“恩恵”と捉えてはいけない」は、まさにその通りだと思います。先進国(もはや「日本は先進国なのか?」という疑問さえ出てくる世の中となりましたが)の中で唯一、サラリーマンの平均所得が下がり続ける我が国で低価格競争が発生するのは仕方のない話かもしれませんが、そろそろサービスに見合った価格という当たり前を、一人一人が意識しなければ。でないと私たち、疲弊してしまいますからね。勇気を持って、一歩前に踏み出した業界や企業、ブランドも増えています。応援したいです。
具体例を挙げてみましょう。例えば、コンビニ業界。24時間・365日の営業が見直されていますが、これは、「今の販売価格では、現状のサービス維持は無理なんです」というメッセージと同義です。夜には閉店するスーパーやドラッグストアと大差ない価格を期待してしまうのは、傲慢というものです。便利なサービスには、対価を支払う。当たり前のルールを適用すれば、コンビニはもっと高い値段で売るか、夜は閉店するか、もしくは、無人の空間で自分自身が決済するかの選択肢を持っているべきです。
鉄道業界では最近、駅員や乗務員に対する暴力を厳しく糾弾するポスターが登場するようになりました。前々から、「こんなに低料金で、1日の大半、土日や祝日、年末年始も関係なく、ほとんど定刻通りの運行を続けてくれることを『当たり前』と思ってはならない」と考え続けています。ですから駅員に暴力を振るうのはもちろん、パスモやスイカを思いっきり改札に叩きつけるなどして、ダイヤが乱れていることへの不平・不満をぶつけている人は、心の底から軽蔑します。あのポスターは、駅員や乗組員の正当な権利を主張するものであり、これが、彼らが疲弊せず、プライドを持って仕事をする契機になればと陰ながら願っています。
すでにほとんどの新聞社は課金制を導入していますが、最近ツイッターの世界では、記事の全文を写真に撮ってアップすること、全文をコピペして発信することに対する疑問の声、嘆きが上がるようになりました。その多くには反対意見が寄せられ炎上しかけているものも少なくありませんが、これにも激しく賛同します。
こうした勇敢な動きに対してブレーキをかけているのは、われわれメディアなのかもしれません。今回の消費増税のニュースを見ても、インタビューの意見は「家計を直撃。本当に困る」みたいな意見ばかり。皆さん、本当にそうなんでしょうか?僕がマイクを向けられたら、「破たん寸前の国ですから、このくらいの負担増は仕方ありません」と答えますが、そんな人はいないのかな?なんだか作為を感じます。デフレスパイラルからの脱却は、大勢の願いです。そう考えると、それにまつわる報道のスタンスには、配慮があって然るべきでしょうね。
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