サンダーキャット/ベーシスト、シンガーソングライター:1984年、ロサンゼルス生まれ。音楽一家に生まれ、父親にベースを与えられたことをきっかけにベーシストの道を目指す。早くから才能が認められ、16歳で実兄ロナルド・ブルーナー・Jrと共にロックバンド、スイサイダル・テンデンシーズに加入。その後、バンド活動のかたわら、セッション・ミュージシャンとしてエリカ・バドゥやフライング・ロータスらの作品に参加し、2011年には1stソロアルバム「The Golden Age of Apocalypse」をリリース。同年、バンドを脱退しソロ活動を本格化。15年にはケンドリック・ラマーが発表した名盤「To Pimp a Butterfly」に参加し、収録曲がグラミー賞を受賞したことでグラミー賞受賞者に。17年に発表した3rdアルバム「Drunk」は、その高い音楽性と豪華ゲストアーティスト、そしてインパクトあるアートワークから世界中で話題となった。大の日本アニメ好きの親日家で、体には「ドラゴンボールZ」や「北斗の拳」のタトゥーがいくつも彫られている。今のiPhoneカバーはベジータ PHOTO : KUNIHISA KOBAYASHI
“超絶技巧”と評される類いまれなる演奏力と、その愛くるしいキャラクターから新旧隔てずにファンを持つベーシスト、サンダーキャット(Thundercat)ことステファン・ブルーナー(Stephen Bruner)。音楽一家に生まれた彼は、ベースを手にすると早々とその才能を開花させ、10代で人気バンドに加入しながら大物アーティストの後ろでベースを弾くなど、世界中を飛び回る売れっ子ベーシストになった。その後ソロに転身し、2017年に発表した3rdアルバム「Drunk」では持ち前の圧倒的なスキルに加え、妙にクセになるリリシストとボーカリストとしての顔を見せ、さらにはケニー・ロギンス(Kenny Loggins)やファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)ら豪華ゲストアーティストが参加し、衝撃的なアートワークとも相まって彼の名を世界に知らしめる出世作となった。
そんなステファンが、4月3日に最新作となる4thアルバム「It Is What It Is」を発表するにあたり、この1月に来日した。彼が“サンダーキャット”になった理由やアルバムについてなどの音楽的な話はもちろん、胸に光る無数のネックレスをはじめとする黒人とジュエリーの関係などの話も聞いたのだが、どんな話題よりも目をキラキラとさせて雄弁に語ったのが、日本のアニメやマンガについてだ。彼のパーソナルな一面がうかがえるロングインタビューをお届けする。
「自分から“サンダーキャット”って名乗ったわけじゃないよ(笑)」
PHOTO : KUNIHISA KOBAYASHI
WWD:まずは、アーティストとして活動することになった理由から教えてください。
サンダーキャット:13〜14歳にはプロのミュージシャンとして活動していたから、10代の頃から何らかの形でアーティストだったとは思う。でもはっきり1人のアーティストとして活動しようと思ったのは、フライング・ロータス(Flying Lotus、音楽プロデューサー)の一言がきっかけかな。彼がアルバム「Cosmogramma」(2010年)で俺をフィーチャーしてくれて、「お前は1人のアーティストとして活動をするべきだ」と助言してくれたんだ。
WWD:それまでは、バンドに所属したりバックミュージシャンとして活動していましたね。
サンダーキャット:いろいろ活動、っていってもエリカ・バドゥ(Erykah Badu、ネオ・ソウル歌手)のツアーと、スイサイダル・テンデンシーズ (Suicidal Tendencies、ハードコアバンド)がメインだけど、最後のほうでソロ活動も始めたんだ。当然、スケジュールがバッティングすることが増えてね、ソロ活動を選ぶことにした。このことで1つすごく記憶に残っていることがあって、セルビアであったフェスで誰がブッキングしたか知らないけど、エリカ・バドゥとスイサイダル・テンデンシーズの両方が出演していて、しかも連続して出演するタイムスケジュールだったことがあるんだ(笑)。俺は連続して演奏することになったわけだけど、誰もパニックにならなかったし怒らなかった。これをきっかけにソロ活動に専念することを決めたんだ。
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WWD:では、直訳すると“雷猫”のアーティスト名の由来は?
サンダーキャット:子どものころにアメリカのTVアニメ「サンダーキャッツ(ThunderCats)」が大好きで、自分で洋服を買うようになってからは「サンダーキャッツ」のTシャツばかり着ていたんだ。ちなみに制作していたのは日本のアニメーション会社ね。それで、俺の名前を知らない誰かが俺について話すとき、「あの『サンダーキャッツ』のTシャツを着たやつ」みたいに呼んでいたのさ。それから俺の友達が“サンダーキャット”って呼ぶようになったんだ。決して自分で名乗り始めたわけじゃないよ(笑)。
でも、エリカ・バドゥら大物たちと仕事をするまでは、全然定着しなかったんだ。影響力のある人たちが「やあ、“サンダーキャット”」って話しかけてくれたから広まったね。だからフライング・ロータスも「Cosmogramma」では、俺の本名じゃなくて“サンダーキャット”でクレジット表記してくれているよ。
WWD:そもそも、なぜベーシストとしての道を選んだのですか?
サンダーキャット:音楽一家で父親と兄がドラマーだから同じことをしたくなかったし、なぜか弦楽器に惹かれてね。それに気付いた父親がベースを買ってくれたのさ。実はあまり話したことがないんだけど、ベースを弾けるようになる前からよく絵を描いていて、美術系の学校に進学してアニメーターになることを考えていた。今でもよく描くし、音楽と同じくらい大好きなんだけど、父親が「音楽を選んだほうがいい」って言うからベーシストになったね。
WWD:あなたにとっての音楽面でのヒーローは?
サンダーキャット:たくさんいるけど、昔からずっと好きで敬愛しているのはジャコ・パストリアス (Jaco Pastorius、ベーシスト)、スタンリー・クラーク(Stanley Clarke、ベーシスト)、ジョン・マクラフリン(John McLaughlin、ギタリスト)、フランク・ザッパ(Frank Zappa、音楽家)、神保彰(ドラマー)、坂本龍一……本当に数えきれないからこれくらいにしておくよ。
VIDEO 通常のベースより音域が広い6弦ベースを使用している
WWD:ベースプレイの幅が広いのが特徴であり魅力だと思うのですが、フレーズはどう思いつくんですか?
サンダーキャット:ありがとう!5歳から30年ぐらいベースを弾いているけど、いつも練習を通じて思いつくかな。あえて障害物を作るというか、何かを違うふうにやってみるとか、自分自身にチャレンジすることで出来上がっていくことが多いね。
WWD:来日中でも練習を?
サンダーキャット:いや、日本にいるときはなるべく休むようにしているんだ。でもほかの国を訪れているときは曲を書いていることが多いね。ツアー中だと毎日演奏しているからそれが練習にもなっていて、ツアーをしていない時期は、ちゃんと練習の時間を取っているよ。
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「マック・ミラーを亡くしたことが、ずっと頭にあったんだ」
4thアルバム「It Is What It Is」
3rdアルバム「Drunk」。インパクトのあるアートワークは、フライング・ロータス家のプールで撮影されたそうだ
WWD:今回のアルバム「It Is What It Is」を一言で紹介するとしたら?
サンダーキャット:“エキセントリック”。簡単に聞こえるものも実は結構複雑だし、説明しにくい感じのアルバムだからね。それに俺の格好がエキセントリックだし(笑)。
WWD:アートワークは前作「Drunk」とは打って変わってシンプルですね。
サンダーキャット:いろいろな選択肢があったんだけど、シンプルなものにしたんだ。いつもアートワークはそのときに考えていることや感じていることを反映していて、今回は少し変というか、沈んだトーンになっているだろ?これは友だちのマック・ミラー(Mac Miller、ラッパー)を亡くした気持ちを表していて、ここ数年、そのことがずっと頭にあったからなんだ。あの写真には、俺の本当の気持ちが表れているんだ。
VIDEO アルバム「It Is What It Is」収録曲の「Black Qualls」
WWD:一方で、前作に引き続きボーカリストとしての側面が強調されているように感じます。声を前面に出すようになった理由は?
サンダーキャット:歌ってみたら案外歌えてボーカリストという選択肢が増えたから。「Drunk」以降、俺のことをベーシストではなくボーカリストとして知ってくれている人も多くなったし、このまま歌い続けてもいいんだなって。使える武器がひとつ増えたなら使うだろ?
WWD:また、両作とも1時間に満たないアルバムなので短い印象ですが、そこに意図はあるんでしょうか?日本だと1曲あたり4分が平均的で、15曲で37分の今作は特にそれを感じます。
サンダーキャット:自然とそうなったから、明確な意図はないね。音楽に関しては、なるべく自然に任せるようにしているんだ。何かを決めつけて音楽を作る必要はないよ、自由こそが音楽だから。
PHOTO : KUNIHISA KOBAYASHI
WWD:さまざまなアーティストが参加し、複雑かつジャンルレスでありながら全体的にどこかに“サンダーキャットらしさ”を感じました。
サンダーキャット:“サンダーキャットらしさ”というのは、俺がジャズ出身ということが大きいんじゃないかな?俺はカマシ・ワシントン(Kamasi Washington、ジャズサックス奏者)、ロナルド・ブルーナー(Ronald Bruner、ジャズドラマー)、キャメロン・グレイヴス(Cameron Graves、キーボード奏者)らの楽曲をたくさん練習して育ったんだけど、彼らはみんな独自のスタイルを持ったミュージシャンだし、何より演奏がうまい。
参加してくれているアーティストはほとんどが俺の友だちだから、ゲストとして迎えたというよりも普段から一緒に音楽を作っていることの延長線上って感じだね。新しく参加してくれたスティーヴ・アーリントン(Steve Arrington、ボーカリスト)は俺から声を掛けたんだけど、向こうも俺と仕事をしたいと思ってくれていたから実現した。一緒に音楽を作るには、正直で誠実な会話ができて、お互いを尊重し合える関係の相手であることが大事だよ。“らしさ”は、こういう俺のこだわりや演奏スタイルから表れているはず。
VIDEO
タイ・ダラー・サインが故マック・ミラーへ捧げるライブを「タイニー・デスク・コンサート」で披露した際、サンダーキャットがベースを務めた
WWD:他のアーティストと関わることが多いですが、そこで生まれる化学反応は楽しいですか?
サンダーキャット:本当に誰でも毎回楽しいね。まぁ俺の友だちは全然タイプが違うやつも多いから、俺の発言や行動に引いたり混乱したりすることもあるけど(笑)。そのいい例がタイ・ダラー・サイン(Ty Dolla Sign、シンガー・ソングライター)で、彼も俺もベースを弾くし互いに似ている部分がたくさんあるけど、人生で経験してきたことが全くの別物だからやっぱり全然違う。俺がこういうヘッドアクセサリーを着けていると、彼は「ふんっ」って鼻で笑うし(笑)。いろいろ違うからこそ、一緒に音楽を作ると楽しいんだ。
VIDEO アルバム「It Is What It Is」収録曲の「How Sway」
WWD:収録曲の中でも「How Sway」が複雑な曲ですね。
サンダーキャット:楽曲はすぐに思いつくときもあるけど、これは練習しているうちに浮かんできた1曲。難しいスケール(音の並び)の練習をそのまま曲にした感じだから比較的簡単に浮かんではきたけれど、曲自体はとにかく複雑っていうギャップが気に入っているんだ。タイトルは、カニエ・ウェスト(Kanye West)がスウェイ・キャロウェイ(Sway Calloway、ラッパー)に放ったセリフをそのまま引用してみた。
WWD:くすりと笑えるリリックも“らしさ”の1つかと思います。
サンダーキャット:俺は自分の本当の気持ちを表現することが怖いというか……怖いわけじゃないが、口に出すのは強い行為だから気が進まないときがあるんだ。リリックは、自分の気持ちをなんとなく曲に合わせて口に出しているうちにできることが多いけど、それで思わず本心が溢れて泣いてしまうこともある。そういったときは泣いてしまわないように、なんでも笑い飛ばせるように、笑えるようなリリックを書いているんだ。
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「マンガやアニメは、黒人をよりクリエイティブにしてくれる」
VIDEO 「Tokyo」のミュージックビデオは秋葉原などで撮影された
WWD:プライベートでよく来日し、楽曲「Tokyo」をリリースするなど、ジャパノファイル(親日家)になったきっかけを教えてください。
サンダーキャット:きっかけは「Tokyo」でも歌っているように、小さい頃に「ドラゴンボールZ」のおもちゃを歯医者でもらったことだね。さっき話したけど、絵を描くことが好きだったから、イラストを見た瞬間に「なんてクールなんだ!」って驚いた。それで「ドラゴンボールZ」が日本のアニメだと知ってからは、もっとほかの日本のアニメを知りたいと思ったんだけど、当時はインターネットでなんでも見たり購入できる時代じゃなかったから、人づてでVHSを探したり海賊版で我慢してた(笑)。それからしばらくして、コミックストアで働いてるときに出合ってハマったのが「北斗の拳」。マジで人生が変わるぐらい衝撃を受けたね。その後も「ストリートファイター」をはじめ完全に日本のアニメのとりこになったんだけど、振り返ると「サンダーキャット」もそうだし「スーパーファミコン(SUPER Famicom)」に「メガドライブ(MEGA DRIVE)」「トランスフォーマー(TRANSFORMERS)」「超時空要塞マクロス」って、子どもの頃に大好きだったものが実は全て日本製だと気付いたんだ。ちなみに初来日は17〜18歳だから、かなり早い方でしょ?リオン・ウェア(Leon Ware、ソウルシンガー)の仕事で訪れたんだ。彼は素晴らしいアーティストで、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)に曲を提供していたような人だから、このインタビューを読んでいる人は聴いてみてね。
WWD:アメリカには古くから「マーベル・コミック(MARVER COMICS)」に代表されるアメコミという文化がありますが。
サンダーキャット:ひとくくりにコミックスといっても、それぞれ違うものなんだよ。日本のアニメやマンガは、子どもだけに向けられたものは少ないし、最初から大人向けのテーマで描かれているものもあったりするけど、アメコミはなんていうか、子どもにだけ向けて作られている感じなんだよね。「ディズニー(DISNEY)」も素晴らしいのは重々承知しているんだけど、子ども向けのはずなのにセクシャルな雰囲気の場面があったり、「王子様はお姫様を見つけないといけない」みたいに妙なコンプレックスを植え付けたりするだろ?そんなのデタラメだし、クソくらえって感じ(笑)。
もちろん、アメリカにも「シンプソンズ(The Simpsons)」をはじめいいアニメはあるんだけど、子ども向け作品との間にギャップがありすぎるんだ。「アメリカン・ダッド(American Dad!)」なんかは、あまりにも大人向けすぎて子どもには見せたくない内容だしね。そういうこともあって、アメリカで生活しているとマンガやアニメの価値を認めずに雑に扱う人も多くて、大人を相手に話をすると「ああ、それね」って片隅に追いやられてしまうんだ。でも「ドラゴンボールZ」などを通じて、ようやく大人がアニメを見てもいいんだという理解が生まれてきたところ。「ドラゴンボールZ」や「北斗の拳」には暴力的なシーンがあるけど、同時にとても成熟した内容だからそれを通して精神的に成長できるからね。
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WWD:今日も「北斗の拳」のTシャツを着用されていますが、魅了される理由は?
サンダーキャット:とても共感できるからだ。もちろん、自分を救世主だと思っているからじゃなくて、現実でもあり得るストーリーだから。ケンシロウ(主人公)は、ほかの人々が幸せに生きられるようにするために、悲しみを背負い孤独な人生を歩む。彼の他者との関わり方は、相手への愛情がベースになっているんだ。こんな美しい物語、ほかにはないよ。
WWD:フライング・ロータスもリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert、ラッパー)も、日本のアニメが好きな“オタク”ですよね。
サンダーキャット:2人とは会うたびに「ドラゴンボールZ」と「北斗の拳」の話をしちゃうんだ(笑)。「ドラゴンボールZ」は世界で最もよく鑑賞されているアニメ作品の1つだし、ずっと残り続けていく素晴らしい作品だね。
体には「ドラゴンボールZ」や「北斗の拳」のタトゥーがいくつも彫られている。また、アルバム「It Is What It Is」には「ドラゴンボールZ」への愛を歌った「Dragonball Durag」という曲も収録されている PHOTO : KUNIHISA KOBAYASHI
インタビュー時には、ベジータの顔やセリフがあしらわれたパーカーを着用していた PHOTO : KUNIHISA KOBAYASHI
iPhoneカバーもベジータ PHOTO : KUNIHISA KOBAYASHI
WWD:日本のアニメを好む外国人の中でも、アフリカにルーツを持つ人々が多いと思います。
サンダーキャット:友人のザック・フォックス(Zack Fox、コメディアン)がこれをとてもうまく説明しているんだけど、黒人ならではの答えがあるんだ。黒人である俺にとって、日本のアニメは希望を与えてくれるものだった。社会の黒人に対する扱いは、まるでマンガの中の出来事のようにひどいことも多い。その中でマンガは現実のものではないけれど、「ドラゴンボールZ」に出てくるキャラクターたちが現実の俺を救ってくれるヒーローだった。もっと広く考えるとイデオロギーの話で、社会や環境が「お前には無理だ」と否定する中でも、「より高みへ上ろう」とか「なんでもできるんだ」って思わせてくれる――マンガやアニメは、黒人をより強くクリエイティブにしてくれるんだ。
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「成熟した男は、マスキュリンでありながらもフェミニンである」
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WWD:ジュエリーやアクセサリー使いが素敵ですが、目覚めたのはいつですか?
サンダーキャット:昔からずっとだよ。子どものころは動物の顔がついたスニーカーを履いたり、変なヘルメットをかぶったり、よく剣を持っていたね(笑)。母親がいつも「クリエイティブであるように」と応援してくれていたから、ファッションセンスは両親の影響が大きいかもね。それに絵を描くのが好きだから、そこからも影響されているかもしれない。はっきりと自己主張したり、表現したりすることに恐れはないね。
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WWD:いつもネックレスを何重にも重ね着けしていますね。
サンダーキャット:いくつ着けているかは自分でもわからない(笑)。どれもオーダーメイドで、自分のロゴにベジータ、カプセルコーポレーション(「ドラゴンボール」シリーズに登場する架空の会社)、「AKIRA」の金田正太郎(主人公)が着ているジャケットにプリントされているマーク、マリオシリーズに登場するスーパースター……10以上はあるね。
WWD:文化の違いだと思うんですが、日本の男性はあまりネックレスをしないんです。
サンダーキャット:分かるよ、俺もそれは感じるね。たしかに買いに行くとき、フェミニンやエキセントリックだと思われたりもするけど、全員がスーツを着ていたら何も進化しないし、色がなかったら退屈で飽きてしまうから嫌なんだ。このバイアスはファッションブランドの商業主義が関係していると思っていて、売るためには男ならスーツ、女性なら色味のある服や花柄のようなある程度のルールが必要だ。俺はこれが大嫌い。いま「グッチ(GUCCI)」が人気の理由の1つは、そうした性差をつけずに、みんなに向けて作っているからだと思うね。
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WWD:では、ラッパーがブリンブリンなどの派手なアクセサリーを身につける理由をどうお考えですか?
サンダーキャット:長い間、「男は強くあるべき」とか「男は感情を見せない」というステレオタイプや理想があって、みんなそれに従って行動してきたからじゃないかな。でも、それは人間のほんの一面にすぎない。もっといろいろな面を見ないことには相手を深く理解できないし、見た目などの表面的なことがその妨げになってはいけないと思うんだ。成熟した男は、マスキュリンでありながらもフェミニンであると思う。ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)がいつも言っていることだし、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)やリル・ナズ・X(Lil Nas X、ラッパー)たち若い世代もそう考えているはず。
WWD:ファッションでも?
サンダーキャット:服は自己表現の1つだからね。子どもであれ男であれ女であれ、ジェンダーにとらわれた“らしさ”を気にせずに好きなものを着るべきさ。他者にどう思われるかが怖いから着ないようにすることもあるだろう。でもそれを取っ払ってしまえば、すごくシンプルに、自分が感じるままに好きなものが着られるようになる――もうアートの領域さ。
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WWD:先ほど「グッチ」の名前が挙がりましたが、お気に入りのジュエリーやファッションブランドはありますか?
サンダーキャット:自分の好みや考えを反映できるから、なんでもオーダーメイドしたものが好きなんだ。それ以外だと、俺はアメリカ人だから、ターコイズや誕生石のオパールとかネイティブ・アメリカン的なものが好きだね。自分とつながりのあるものを使って何か作ったりすると、高いけどそれ以上の価値があるよ。
WWD:歴史的な背景も含めて、アフリカにルーツを持つ人々のアクセサリー使いは、アジアやヨーロッパと比較して天才的だと感じます。これについて思うことはありますか?
サンダーキャット:それは純粋にうれしいね、代表して礼を言うよ!でも、なぜうまいのかについては分からないな。俺のルーツはアフリカの奴隷だが、アフリカのカルチャーについてはあんまり詳しくないし。でも黒人としてアメリカで暮らしていると、「おまえには価値がない」と言われたり、そう思われていると感じたりすることがある。だから自分たちなりの価値を作り出すためというのがあるかもしれない。ビタースイートな話だけどな。
「運命がレモンをくれたら、それでレモネードを作る努力をしよう」(酸っぱいレモンを渡されても、おいしいレモネードを作ろう=災い転じて福となす、逆境をバネにする意)ということわざがあるんだけど、黒人は逆境に強いんだ。環境に素早く適応して、変化できるとてもクリエイティブな人種なんだ。Nワード(ニガー、黒人を指す蔑称)がいい例だね。本来は黒人以外が発するのはよくない言葉だけど、黒人同士がそう呼び合っていたから、今じゃポップカルチャーに浸透しつつある。それで自分が黒人じゃない人でも、すごく仲のいい友だちが黒人だったら、そいつに対してはNワードを使って呼んだりするようになっていったわけだ。これはクリエイティブなエネルギーの発露がもたらした素晴らしい現象さ。同じように、黒人のジュエリーの着け方も、自分に価値があるんだと証明したいことの表れかもしれない。まぁ、「俺はこんなに金持ちなんだ!」と見せつけるための意味ももちろんあるけどね。現代は、リル・ウージー・ヴァートやブルーフェイス(Blueface、ラッパー)、ショーン・コムズ(Sean Combs、プロデューサー)ら黒人アーティストが始めたことが世間に広まって、みんながまねをするような世界。ちょっと前じゃ考えられなかったけど、みんな同じ人間だってことだ。