ファッション

過渡期を迎えるロンドンのファッション・ウイーク それでもデザイナー支援を続けるトップの強い意志

 コロナウイルスの感染拡大によってロックダウンされ、静まり返るロンドンの街。発令の3カ月前に開催された2020-21年秋冬シーズンのロンドン・メンズ・ファッション・ウイークは、新たな若き才能が未来への可能性を示した一方で、クレイグ・グリーン(Craig Green)やキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)ら成長著しいデザイナーが発表の場をパリに移したことによる層の薄さをカバーしきれない課題の両面を残す結果となった。「バーバリー(BURBERRY)」などのメジャーブランドが参加するウィメンズとは異なり、メンズはビジネスが発展途上の若手ばかり。スターデザイナー候補を数々送り出してきたため発掘の場としての面白さはありながらも、強いクリエイションを武器にする彼らのコレクションが市場に浸透するにはまだ時間がかかる。また6月に予定してた21年春夏はすでに中止が決定しており、一部ではいよいよメンズとウィメンズのファッション・ウイークが統合されるのではといううわさもある。若手デザイナーの支援に積極的な英国ファッション協議会(British Fashion Council以下、BFC)のトップであるキャロライン・ラッシュ(Caroline Rush)CEOは、若手支援の手応えや課題をどう見ているのか。1月のロンドンメンズの会期終了後に話を聞いた。

「ファッション業界が先陣を切って社会全体をポジティブに変えたい」

WWD:現在のロンドンメンズの強みは?

キャロライン・ラッシュCEO(以下、ラッシュ):イギリスのメンズウエア市場の売上高は伸び続けており、2019年には159億ポンド(約2兆2200億円)に成長した。この結果はメンズファッションの盛況に加えて、今後の成長とさらなる需要が期待できる業界であることを証明している。ロンドンは世界でもっとも活気に満ちた異文化が共存している都市の一つで、それらはファッション業界にも表れている。新しい才能やストリートウエア、サビルロウのテーラリング、そしてラグジュアリーブランドなどを含め、優秀なブリティッシュメンズウエアの人材を世界に披露することに力を注いでいる。トラディショナルなブランドが新進気鋭のデザイナーと並ぶことで、他の都市にはないダイナミズムが生まれることがロンドンメンズの強み。

WWD:気鋭デザイナー発掘の場というイメージだが、現在の若手支援の体制は?

ラッシュ:BFCの各ファンドはキャリアステージの異なるデザイナーを支援している。われわれの選考基準はメンズウエア、ウィメンズウエア、アクセサリービジネスが対象で、それぞれの業界の委員が選んだリストの中から候補者を選出している。分野によってやや異なるものの、基本的にはクリエイティビティーとデザイン性、独創的な視点、ビジネス感覚が総合的な評価基準だ。選出されたデザイナーには補助金の助成に加え、メンタリングやビジネスのサポートが行われ、国際的に活躍できる人材育成に努めている。

WWD:支援を受けて成長した若手はロンドンを離れ、ほかの都市に発表の場を移して参加ブランドが減少している。ウィメンズと統合するといううわさもあるが?

ラッシュ:メンズとウィメンズの統合について協議しているのは事実だ。ニューヨークのように、ウィメンズの前にメンズのスケジュールを組む可能性もあるかもしれない。しかしメンズとウィメンズ合わせて年4回のスケジュールは維持し、19年9月のウィメンズから開始した一般客招待の企画により注力していきたい。デザイナーたちの希望も聞き取り、公式スケジュールで発表したいブランドにプラットフォームを提供することを優先したい。

WWD:ウィメンズのファッション・ウイークでは“ポジティブ ファッション”を掲げて一般客招待などの新たな試みに積極的だったが、メンズでも同様の取り組みは?

ラッシュ:9月は一般客招待も上々の結果で、合同展示会に参加したブランドにもいい場所を提供できたと感じている。優れたアイデアを持つデザイナーたちを紹介することで、未来のファッションビジネスがポジティブに変化するための第一歩を踏み出せたという実感がある。われわれの業界に限らず、ファッションが先陣を切ることで社会全体をポジティブに変えるきっかけをつくることができた。この大成功を受けて、2月のウィメンズでも同様の試みを行った。この“ポジティブ ファッション”はBFCが取り組んでいる全ての項目に共通しており、メンズのデザイナーたちも共感してくれている。例えばべサニー・ウィリアムス(Bethany Williams)やビアンカ・サンダース(Bianca Sanders)、ニコラス・デイリー(Nicholas Daley)、チャールズ・ジェフリー(Charles Jeffrey)らは、ダイバーシティーやコミュニティーを大切にし、社会的責任を重んじてサステナブルな素材を使い、かつ革新性も追い求めている。BFCは今後も独自のプラットフォームを使い、業界や社会全体に向けてポジティブな変化を推進していくつもりだ。

WWD:ファッション・ウイークに一般客が参加することでどのような変化に期待する?

ラッシュ:ファッション・ウイークは長い間、デザイナーがコレクションをバイヤーやプレスなどに向けて発表するBtoBの場だった。しかしSNSやデジタルプラットフォームの著しい普及で、消費者がファッションに対して想像以上に高い関心や強い消費欲を持っていることを知った。われわれのビジネスパートナーをはじめ、デザイナーやリテーラー、メディアとも協議を重ねて、ファッション・ウイークという扉をもっと広い層に向けて開くことに決めた。一般客を招待することで、デザイナーは強い関心を持つ消費者にコレクションを披露することができるし、それがビジネスの成長につながる。とても自然なステップだった。

WWD:ブレグジット(イギリスのEU離脱)がロンドン・ファッション・ウイークの今後にどのような影響を与えると考えている?

ラッシュ:もう決まったことなので、政府とともにファッション業界にとって最優先事項である国際貿易、サステナビリティ、教育、タレント育成を全力で進めている。この先、課題もあればチャンスもあるだろう。われわれの役割は、デザイナーにビジネスの手引きをし、彼らが国際舞台の激しい競争の中で生き残っていけるようにサポートすることだ。それだけは今後どういった状況になっても変わらない。

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