国内の大手アパレル各社は、新型コロナウイルスによって深刻なダメージを受けている。主戦場である百貨店やショッピングセンターの休業は致命的で、オンワードホールディングス(HD)、TSIホールディングス、三陽商会の3月の店舗売上高は、前年同月に比べて約3~4割も落ち込んだ。収束が見通せない中、各社は不採算店舗・事業にメスを入れると同時に、デジタルを軸とした起死回生への改革を急ぐ。(この記事はWWDジャパン2020年4月27日&5月4日号からの抜粋です)
「これまで経験したことのない事態」(保元道宣オンワードHD社長)。「生き残るために、猛スピードで会社の仕組みを入れ替えなければならない」(上田谷真一TSIホールディングス社長)。
4月上旬に開かれた2020年2月期の通期決算説明会で、大手アパレルのトップは“コロナショック”への危機感をあらわにした。オンワードHDは主販路の百貨店を中心とした商業施設の休業で、中核会社オンワード樫山の3月売上高は前年同月比約3割減。TSIも、3月の店舗売上高は同約33%減で、4月18日の緊急事態宣言の拡大以降は9割の店舗が休業している。三陽商会は3月の売上高が同45%減だった。
これまで大手アパレルが生命線としてきたのは、全国の百貨店に張り巡らせた店舗網だ。近年は地方百貨店の衰退とともに、各社はEC販売の強化施策などデジタル化へと布石は打ってきたものの、収益構造は大きくは変わっていない。オンワードHDの20年2月期末時点でのEC化率は13.4%で、オンワード樫山の売上高に占める百貨店販路の割合は62%と大半を占めている。だがコロナショックにより、そのリアル店舗を前提とした収益構造が完全に機能不全に陥ってしまった。
不採算店舗・事業を整理 デジタルに集中投資
この状況下で各社のトップは、デジタル改革の大幅なスピードアップの必要性を痛感する。「デジタルトランスフォーメーションをあらゆる事業領域で3倍速で推進する」(保元社長)「営業活動ができないからこそ、今期はやりたいと思ってきた事業構造の抜本的な改革に取り組む」(上田谷社長)。いずれも、不採算な店舗や事業を整理し、将来性のある店舗・事業に資本を集中。アフターコロナも見据えて、EC強化やリアル店舗との連動など、デジタル施策を推進する。
オンワードHDは21年2月期に国内外で約700店舗を閉める。同社はすでに20年2月期の下期(9月~2月)で同数の店舗を閉鎖しており、通期では521億円の純損失を計上。前期・今期合わせて、国内外約3000あった店舗がほぼ半分になる計算だ。
一方でEC売上高は21年2月期で前期比約1.5倍増の500億円、中長期で1000億円を掲げる。保元社長は「ゆくゆくはECの売り上げを(売上高全体の)半分以上にする。目指すのは優れた企画・生産能力を有するEC事業者」とまで言い切る。20年春夏にスタートしたEC専業ブランド「アンクレイヴ」 をはじめ新ブランドや、EC専用の商品開発などにも注力する。
その上で重要となるのは「デジタルとリアルのベストミックス」(保元社長)。これまで同社は会員システム「オンワードメンバーズ」の強化に取り組んできた。20年2月期の会員数は前期比18%増の313万人。この会員システムを前提に、「リアルとEC に相互送客できるオムニチャネル機能を備えた、複数ブランドの集約型店舗」を展開する。
TSIは、全社的な仕入れ抑制とともに、「デジタル」「少店舗」「プロパー(正価)販売」を前提とした収益性の高いビジネスモデルに投資を絞る方針。「ムダに作った服をムダに買ってもらう世界は(新型コロナが収束しても)戻ってこない」(上田谷社長)と考え、売上高よりも粗利益率の改善に重点を置く。20年2月期はわずか7000万円の営業黒字(前期比96. 9 %減)だったが、中期で売上高営業利益率5%を目指す。
デジタルを軸とした事業開発・運営を全社横断で推進するため、SCM(サプライチェーン・マネジメント)や情報システム、マーケティングなどの機能を集約した専門部署を3月に新設した。また、海外の先進的企業との提携やノウハウを吸収する目的で、ファッション・テック企業に特化したシンガポールのファンド運営会社ライラベンチャーズにも、リミテッドパートナーとして2月出資を決めた。
「店頭在庫と販売員をデジタル上でいかに活用するかを考える」(上田谷社長)。今後は英ヒーロー社が提供するウェブ上でのライブ動画接客システムを導入し、遠隔で販売員がスタイリング提案などを行う。店頭へのEC在庫の引き当てなどの仕組みも整備する方針。
黒字化計画もデジタル戦略に課題
一方、4期連続の赤字(20年2月期は営業損益が28億円の赤字)に沈んだ三陽商会は5月から、新社長のもとで黒字化への2カ年計画を進める。新社長は三井物産OBで、かつてゴールドウインの再建を手掛けた大江伸治氏だ。
再生プランの中身は、大胆な不採算事業の廃止、仕入れ抑制という「ムダの削減」と、ブランドバリューの底上げなどによる「収益力の向上」の2本柱。仕入れ額は期中に110億円の削減を計画。これまで各ブランドの事業部に任せてきた仕入れを本部で一元管理することで抑制する。21年2月期には全店の約15%にあたる約150店舗を閉める予定で、「すでに撤退交渉に入っている」。これらの施策で、減収を前提に粗利益率を改善する。
20年2月期の売上高は688億円。計画では、21年2月期の売上高は新型コロナの影響などでいったん355億~440億円に減るが、22年2月期は550億円まで引き上げ、15億円の営業黒字を確保する。ただ同社は百貨店での売り上げが全体の62%と過半を占める。そのリアル店舗を大幅に減らす上、営業再開のめども立たない中での黒字化には、デジタル強化も急務だ。
同社はEC運営代行のルビー・グループを18年4月に買収し、自社EC「サンヨー・アイストア」を改良するとともに、ブランド別ECを立ち上げるなど強化を進めるが、EC化率は20年2月期末時点で12.6%にとどまる。また、ニューラルポケット、アベジャと組み、AIによるMD、店舗運営改善などを主導してきたデジタル戦略本部(現在は事業本部、経営統括本部に移管)の慎正宗副本部長は2月末で任を退くなど、改革は足踏みしている。
【エディターズ・チェック】
“コロナショック”は、消費者の生活や価値観を根本から変える可能性がある。例えば、巣ごもり消費が浸透し、百貨店に客足が戻らないかもしれない。リモートワークが当たり前になり、「店で服を売る」というビジネス自体が縮小するかもしれない――。現時点では想像にすぎないが、オーバーストアやデジタル化の遅れなど課題が山積する大手アパレルの現状は、アフターコロナを生き抜く上で多くのリスクをはらむ。痛みに耐え、未来を見据えた改革を進める必要がある。
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