ファッション

オリヴィエ・ルスタン、ティックトックの将来性や魅力を語る

 動画アプリのティックトック(TikTok)は、Z世代の若者を中心に人気が広まった。これまで18歳以上の大人と呼べる層の人びとにとっては、一瞬で服装を魔法のようにチェンジしたり、難しそうなダンスや音声をおもしろおかしく加工した動画など、たった15秒ほどの即興風ショートムービーがどのように制作されているのかなど知る由もなかった。

 しかし今は、新型コロナウイルスの影響により世界中で外出自粛の流れが続いており、新しいコンテンツや笑いを求める人びとが増加している。そうした中で、もともとのティックトック・ユーザーの親世代やミレニアル世代にも同アプリの利用者が増えつつあるのだ。

 「バルマン(BALMAIN)」のオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)=クリエイティブ・ディレクターや数々のインフルエンサーなど、ファッションおよびビューティ界の著名人がこの数カ月で次々とティックトック・デビューを果たしている。米調査会社のセンサー タワー(SENSOR TOWER)によると、ティックトックは現在世界で最もダウンロードされている動画アプリだという。

 ルスタンは6年以上前に、インスタグラムでよりプライベートな自身の様子を公開し始めて注目を集めた。そして、ルスタンはまたしてもラグジュアリーブランドのデザイナーとしてティックトック・ユーザーの先駆けとなり、フィッティング風景と共にダンスやワークアウトをする動画などを数々とアップしている。

 パリにいるルスタンは電話インタビューで、「インスタグラムではデザイナーとしての才能や編集力を表現できる。インスタグラムでは美が軸とされているからね。でもティックトックでは、どちらかというと演出や人との交流といった新たな美学に触れることができる。ファッションでは真面目な表現ができるけど、ティックトックでは私たちのおもしろい一面を見せることができる。ティックトックはみんなが使っているわけじゃないから新鮮だよ。数年前まではみんながみんなインスタグラム・ユーザーというわけじゃなかったけど、今では大多数の人が利用していて、多くのセレブがフォロワーを増やそうと頑張っている」と語った。

 しかしティックトックは、ファッション業界にとってインスタグラムと同様のマーケティングツールになり得るのだろうか?もしくは、外出規制の解除後はユーザーが減少し、動画アプリの「ヴァイン2.0(VINE2.0)」のようにいずれはサービス終了となってしまうのだろうか。

 ルスタンは、現状を見ると同アプリが私たちの消費活動を変えていくことになるだろうと考えている。いまや各ブランドがソーシャルメディアを利用したマーケティングに精通しており、新たなSNS戦略として取り入れることにあまり抵抗もないだろう。

 「今後ティックトックの利用者がさらに増えれば、ファッションショーのフロントローはインスタグラマーではなくティックトッカーで埋め尽くされるだろう。数年前に起こっていたことが繰り返されるようにね。私は必ずそうなると信じている。才能あるさまざまな人がより前線で活躍できるきっかけにもなると思う」。

 「ファッション業界は、最初は真面目に取り合わないかもしれない。でもそれで終わりになるとは思えない。ティックトックで動画を制作するのは大変だ。インスタグラムではただ素敵な写真を撮って加工するだけだ。でもティックトックでは20~60秒の動作が必要で、何もないところから何かを創り出さないといけない。これまでに発揮したことのない類いの才能が求められる。歌ったり踊ったり、ただかわいく見せる以外の才能を持っているか?ティックトックは完全に新しい次世代のSNSになると思う」。

 利用者の年齢層の幅は大きく広がっており、美容やファッションに関するアイデアや個人的なストーリーなど、見られるコンテンツも多岐にわたる。ティックトックの代表者によると、すでにブランドの動画をユーザーのフィードのトップに表示することのできる“トップ・ビュー(Top View)”や、ブランドがスポンサーとなり、ユーザーがそのブランドをテーマにしたコンテンツを投稿して話題に上らせる“ハッシュタグ・チャレンジ(Hashtag Challenge)”などの広告的な機能もあり、「コンバース(CONVERSE)」「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ナイキ(NIKE)」などのブランドがこの機能を利用しているという。

 世界中で外出が自粛されている現在の需要は特に高いのかもしれない。しかし、状況が落ち着いた後もティックトックの人気が衰えることはないだろう。ビジネスへの可能性も秘めている同アプリが人びとにとってさらに身近なものとなり、クリエイターやインフルエンサー、マーケティングの専門家に受け入れられるのも時間の問題かもしれない。

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