ファッション

業界内外に学ぶ「攻めの自粛」のヒント

 「WWDジャパン」4月20日号特集「コロナに負けるな」では、ファッション業界全体が新型コロナウイルスの渦中にある中で、今できること、未来へ向けた指針などについての知恵を紙面に集約しました。

 しかし、同号で掲載しきれなかった事例はまだまだあります。2月、無観客で開催したTGC(東京ガールズコレクション)の成果は?デジタル化に揺れるオンワードホールディングス(HD)が2020年春夏にスタートしたEC専業ブランドの進捗は?大手よりもさらに窮地に立たされる個店は、どう戦うべき?この記事では、「百貨店」「アパレルメーカー」「ガールズ」「フード」の担当記者が、コロナ禍の中で「攻め」の姿勢で挑戦している良例をピックアップします。

無観客開催で映像ショーの可能性を見出したTGC

 2月、スポーツや音楽ライブなどの中止が相次ぐ中で、TGC(第30回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2020 SPRING/SUMMER)も、史上初の無観客&インターネット配信形式で開催しました。結果、ライブ動画の視聴回数は前回比約2倍の延べ190万を記録し、中国配信を含めると4倍という結果になりました。

 舞台裏を聞けば、無観客での開催決定から本番までの準備時間はわずか「90時間」(TGC PR)だったといいます。限られた時間でバックステージの中継や出演者インタビューなど、配信ならではの企画を準備。初の試みだった出演者とファンの生電話企画は特に好評だったそうです。

 「スナイデル」のショーではサステナビリティをテーマに壮大な地球環境を想起させる映像演出もありました。「(新通信企画の)5G時代に向け、『TGC』が映像を通じて表現できる可能性も広げていきたい」。デジタルに臆せず、まずは実行することで得られた手応えが大きかったようです。

“百貨店品質”のECブランドが未来の道標に

 商業施設の営業自粛で、大手アパレルもデジタルによる構造改革が喫緊の課題となっています。そんな中で耳にしたのが、オンワード樫山が2020年春夏にスタートしたEC専業ブランド「アンクレイヴ」が3月、4月とも「コロナ前に組んだ売り上げ予算をクリアした」(広報)という明るいニュース。3月11~17日に伊勢丹新宿本店で開催したポップアップストアも計画を上回る盛況だったようです。

 記者も昨秋の展示会で「アンクレイヴ」の服に触れたのですが、目の詰まった質感、生地のずしりとした重みに直感的に「いい服だな」と感じました。一方で中心価格帯は1万円台、アウターでも3万円という値ごろ感にびっくり。3月からの実売では、機能性と、着心地、見た目のよさを両立したセットアップ(ノースリーブブラウス1万2000円、パンツ1万4000円)トレンチコート(2万7500円)が人気のようです。またプロデューサーに宮井雅史氏を起用し、雑誌だけではなくSNSなどを駆使した、従来にないPR手法も結果につながっているようです。

 親会社のオンワードホールディングスは約3000あったリアル店舗を約半分に減らすという大胆な方針を打ち出し、アフターコロナを見据えて「企画・生産能力を有するEC事業者」(保元社長)を目指しています。しかし売り方や売る場所は変わっても、モノ作りという幹となる価値は今後も変わらない。コロナで服への消費マインドが冷え込む中でも「アンクレイヴ」が受け入れられたことは今後の道標になるはずです。

個店の活路は「おもてなし」「独自性」の追求

 潤沢な資金がある大手に比べて、個人経営のセレクトショップはさらにのっぴきならない状況が想像されます。記者も過去に取材した個店の存続を心配しましたが、今のところ杞憂に終わっています。

 彼らの強みは顧客のロイヤルティときめ細やかなサービス。北千住のセレクトショップ「アマノジャク(AMANOJAK.)」は緊急事態宣言(4月7日)から完全予約制で営業し、以降は来店数に対する成約率は9割以上。また、4月3日から返品無料での試着サービスを実施している渋谷の「ワガママ トウキョウ(WAGAMAMA TOKYO)」は買上げ率95%。いずれもブログやインスタライブで、商品の特徴や魅力を丁寧に紹介しています。来店時や取り寄せた時にギャップを少なくすることが重要なようです。

 そして、「今しか買えない」「ここでしか手に入らない」商品で、ファンの購買意欲を刺激しています。「アマノジャク」は「ミロック(MILOK)」「アタ(ATHA)」と協業し、それぞれのブランドのデザインを左右の身頃で融合させた長袖シャツ(全3種)を企画し、40枚以上をECで早々と完売。

 一方、デザインの攻めっぷりでは「ワガママ」も負けず。「レー(LEH)」の別注セットアップ(価格:問い合わせ)は、表裏に至るまで米詩人チャールズ・ブコウスキーの至言を手刺繍。この服を「ピロット・ファイアー(種火)」と名付けた由来について、中村勇貴オーナーは熱っぽく語ってくれました。「ブコウスキーには『小さな種火を灯し、その火を絶やさないで。種火さえあればまた燃え上がるから』という至言がある。(コロナ禍にある)ファッション業界が、諦めずに種火を灯すことで、明るい未来を願いたい」。

有名飲食店のレシピ公開にみる「真摯な発信」

 実はフード担当でもある記者。最近、在宅中は取材と称し、インスタグラムなどで「#おしゃれランチ」などといった凡庸なキーワードで検索しています(笑)。すると、いくつかの有名料理店が、生命線であるはずのレシピを公開していることにびっくりします。先の見えぬコロナとの戦いを前に、GW(がまんウィーク)は料理人たちに感謝しつつ、秘伝のレシピに舌鼓を打ち活力をいただきましょう。

 レシピ通り料理を作ってみて「おいしい!」となれば、料理人に感謝し、コロナが明けたら実店舗を運んでみようという気になります。レシピを出し惜しみするよりも、フォロワーとのエンゲージメント作りに価値があると考えたのでしょう。

 「おうち時間」は消費者がSNSなどに流れるコンテンツと向き合う数も時間も増えています。たとえばインスタライブのファッション紹介でも、新作にこだわらず、過去のシーズンや他ブランドの服を使ったコーディネートなども発信してみるとか。こんな状況だからこそ、真摯な姿勢と自分たちの価値を顧客に示すことで、関係をより深いものにできるはずです。

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