ファッション

コロナの前後で変わること変わらないこと

 この原稿を書いている4月22日は、4月8日の緊急事態宣言発令から2週間が経過し、ちょうど折り返し地点になる。予断を許さない状況ではあるものの、在宅勤務や不要不急の外出自粛などのイレギュラーな生活のリズムにも慣れてきて、“コロナ後”のことを考える余裕くらいは出てきた。コロナの前と後で、ファッション産業は何が変わり、何が変わらないのか。(この記事はWWDジャパン4月27日&5月4日号からの抜粋です)

 まず間違いなく変わるのは、オンライン化とデジタル化のスピードだ。仮に緊急事態宣言が解除されたとしてもコロナが終息するまで当面の間、不特定多数のお客に対面して接客するファッション小売業は、自社の販売員を感染リスクに晒し続けることになる。販売員はできるだけお客と距離を取らねばならないし、話す時間も短くすることも必要になる。さらに、本来の接客以外のマスクの着用や感染予防のため消毒作業なども発生することが予想され、店舗の販売力低下は避けられない。

 だからといってネット通販単体で売れるというわけでもない。調査会社のNintは衝撃の調査結果を明らかにしている。3月と4月、アマゾンと楽天、ヤフーのファッションカテゴリの売れ行きは、まだら模様でむしろマイナスという結果になった。最有力のファッション通販モール「ゾゾタウン」はデータに入っていないものの、ファッションに関しては「巣ごもり消費」は限定的だと言える。

 ファッション小売業は、リアル(=店舗)とデジタル(=ネット通販)を相互補完する取り組みを加速させることが必要になる。店頭で見せて、ネット通販で売るという仕組みをより洗練させるためには、在庫連携やショールーミングなどのデジタルツールの活用はもちろんのこと、ルミネやパルコといったファッションビル側との連携も重要になるだろう。すでにファッションビルを運営する商業デベロッパー側は、短期的にはテナントであるアパレル企業への家賃減額などの支援を打ち出しているが、中長期的な支援としては従来の契約見直しも含めたシームレス化支援も必要になるかもしれない。

 欧州のモード産業に強い影響力を持つセント・マーチン美術大学やロンドン芸術大学の大家は口をそろえて「パンデミックがサステナブルファッションの潮流をさらに後押しする」としているものの、サステナブルファッションは一時的に大きく後退することになるだろう。今年いっぱいは後退した景気を揺り戻させるため、世界規模で政府主導によるなりふり構わない、あらゆる景気浮揚策が講じられるはずだ。日本政府もすでに100兆円を超える公的資金を投じ、休業補償とセットで大盤振る舞いの財政出動や金利の大幅緩和などを明らかにしている。企業側も急ブレーキをかけられ停滞した営業を再び上向かせるときに、経済活動の制限につながるサステナブルな発想は優先度が低くなる可能性は高い。

 最後は政治だ。思い返してみれば、2011年3月の東日本大震災後も政治への関心が一時的に高まった。SNS、特にツイッターでは4月8日の緊急事態宣言の前後から、あらゆる人が安倍首相や政治家に関して、政治的な投稿を始めているようにも見える。「WWDジャパン」でもこれまで政治的な発言を取り上げることが少なかったが、3月30日号でDJで編集者のLicaxxxの「カルチャーを失わないために、政治に関心を持ち、声をあげよう」という声を取り上げた。

 ただ、残念なことに多くの場合、公的資金の大半はもともと政治的に発言力の強い企業や産業に優先的に流れるだろう。東日本大震災の復興資金の多くは土木や建築、鉄道などのインフラに投じられた。大きな話題になった“アベノマスク”にしても、受注したのはこれまでの政府関連のユニホーム入札などで実績のあった大手商社だった。デジタル化投資にしても、新興企業だと楽天、それ以外でも東芝やNEC、富士通などの大手企業が受け皿になるはずだ。公的資金の受け皿が大手企業、あるいはその取引先である中小企業になり、この1年はそうした層が景気回復の担い手になると、ファッションも一時的にはいわゆるコンサバティブに振れることになる。一方、個人事業主やフリーのクリエイター、フリーター、さらにはいわゆるデジタルネイティブのZ世代が起業したスタートアップ企業などにまで資金が行き届かず、結果的に世代間格差が大きくなる可能性は高い。

 1年後、あるいは数年後にはその反動が、政治にまで波及し、既得権益を崩し、新たなムーブメントを生み出すかもしれない。本当のポストコロナの始まりは、そのときかもしれない。サステナブルファッションも、進化した形で再び降臨する可能性は高い。

 いずれにせよ、投じられるであろう莫大な公的資金の原資は、国債を筆頭にした未来からの借金になる。随分前から日本の国家予算は国債頼みの慢性的な赤字財政で、今後も大きな経済成長が期待できない。政府による財政出動が大きければ大きいほど、未来にツケを残すことになる。

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