ファッション

コロナ禍でアパレル業界は蚊帳の外? ファッションに政治は関係ない、はもう通用しない

 新型コロナウイルス感染症に関するニュースに触れる中で、「ファッション業界はなんだか蚊帳の外だ」と感じることがある。直近だと、東京都がゴールデンウイーク中に休業し、感染拡大防止に協力する理美容事業者に対して最大30万円給付するというニュースを耳にした際にそう思った。誤解しないでほしいのだが、「理美容事業者が給付金を得るのはおかしい」と言いたいわけでは決してない。理容室も美容室も、長時間にわたる近距離での接客が必須であり、ECで代替もできない。補償は当然だと思う。だが一方で、「それならファッションの小売りにもなんらかの補償があっていいんじゃないか」とも思うのだ。(この記事はWWDジャパン2020年5月11日号からの抜粋です)

 ファッション小売業は理美容事業者と同様、休業要請対象業種に入っていない。だが、多くの店は感染拡大防止のために補償なき自主休業状態にある。もちろん、苦しい状況に置かれているのはこの業界だけではないし、中小企業一般を対象にした雇用調整助成金や持続化給付金などはあるわけだから、「ファッション小売りは補償や助成の蚊帳の外」と騒ぐのはおかしいのかもしれない。しかし、どうもモヤモヤしてしまう。

 そんなことを考えていた矢先にニュースが飛び込んできた。それは、シューズブランド「ユナイテッド ヌード」日本法人の青田行社長や有力ブランドを抱えるセールスレップのイーストランド島田昌彦社長らが、業界内で有志を募り、東京都や国に対して一丸となって陳情を行っていくというもの。5月7日に明けるはずだった緊急事態宣言は月末まで延長され、補償なき休業は3週間強延びた。中小企業はいよいよ資金繰りがひっ迫してくる。「追加の補償や出口戦略についてはおいおい示す」といった政府の悠長な姿勢を待ってはいられない。そこで青田社長らは、「1.ファッション小売りを休業要請対象業種に加えること、2.資金繰り支援の速やかな審査や支給、3.雇用調整助成金の速やかな支給や上限額のアップ、4.賃料の一部負担」を要望として、国や自治体に陳情を進めている。
※特定警戒都道府県を除いて、緊急事態解除の動きが広がってきたことを受け、青田社長らは当初要望の1つとして掲げていた「ファッション小売りの休業要請対象業種への追加」を5月10日時点で取り下げ、代わりに店を開けてからの「ファッション業界も含めたさらなる経済活性化策」を要望に加えている。

 陳情の裏付けとしているのが、ファッション小売業のコロナ関連倒産件数の多さだ。帝国データバンクが発表した4月末までのコロナ関連倒産企業数109件を業種別内訳で見ると、1位が旅館・ホテル27件、2位が飲食店11件、3位がアパレル・雑貨小売り9件だと青田社長は指摘する。「観光業や飲食業への打撃が非常に大きいことは重々理解している。ただ、両業種にはコロナ収束後の需要喚起を目指した経産省の補正予算が、1兆7000億円規模で組まれている。一般的な家賃相場で言っても飲食業よりファッション小売りの方が賃料負担は大きい。また、数日分ではなく、半年分の在庫を抱えてしまっている点でも、ファッション小売りは厳しい」と続ける。

 今後はウェブ上で署名活動を行い、賛同者を募っていく。そんな話を聞きながら思ったのは、こうした業界一丸となっての働きかけは、本来は業界団体などが主導していくものではないのか?ということ。ファッション業界にも、日本アパレル・ファッション産業協会(以下、アパ産)などの業界団体がある。理容業などは、業界団体が自民党議員に近しいがゆえに補償対応などの動きが早いといった報道もある。アパ産も日本百貨店協会などと協議しながら、「事後でもいいので都と経産省に休業要請業種への指定などを申し入れていく」(事務局)というが、調整に手間取り、現時点では具体的な動きはない。東京都とアパ産は“ファッション都市、東京”のアピールを共に行ってきた経緯もあるのだから、もっと素早く何らかのイニシアチブを発揮する術もあったんじゃないか?大手企業中心の組織ゆえ危機感が薄いし、残念ながらかつてのような求心力はないと感じてしまう。とはいえ、業界団体ばかりにロビー活動を委ねるというのも違うだろう。

 弊紙3月30日号で、業界関係者にコロナショックに対するメッセージを求めた。その中で、DJのLicaxxxがクラブカルチャーへの打撃が大きいことに触れ、「カルチャーを失わないために、政治に関心を持ち声をあげよう」とコメントを寄せている。私が冒頭から述べている「ファッション業界は蚊帳の外」というモヤモヤも、結局はこれでしか解決できないように感じている。誰かに任せるのではなく、一人一人が世の中に意識を広げ、自分が置かれた状況を変えようとすること。青田社長らが行う署名活動もそうした動きの一つだ。「署名なんてかっこ悪い、客商売なのに補償を求めるなんてイメージが悪い」と感じる人もいるだろう。でも、考えていることは声に出さないと世間に伝わらないし、世間を説得していくためには、世の中を広く知り、自身も関わってく姿勢を見せることが必要だ。ファッションの販売に政治なんて関係ない、自分は関係ない。そんなふうにこれまで思っていた人も多いと思う。でも、私たち一人一人が意識を持って、投票や陳情などの活動で声をあげていかないと、今後もいつまで経ってもわれわれは蚊帳の外のまま。未曽有の不況がやってくるのはこれからといわれているが、そんな状況下で自身や自身の事業を守っていくためには、こういった意識が欠かせない。

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