“コロナショック”によってファッションに対する価値観が大きく変わろうとしている中、多くのデザイナーズブランドが過渡期を迎えている。5月25日号の「WWDジャパン」では、30人のデザイナーのリアルな声を紹介している。彼らはクリエイションを変えるべきか、ビジネスを変えるべきか、もしくはこれまでのやり方を貫くべきかを思考しているはずだ。ともに2004年のブランド設立から16年目を迎えた「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」の久保嘉男デザイナーと「ファクトタム(FACTOTUM)」の有働幸司デザイナーも、5月25日号では今後のデザイナーズブランドに必要な物作りやビジネスについて対談している。ここでは、昨今話題になっているファッションサイクルの見直しについてや、ファッション業界の次世代を担う若者たちへの期待を語ってもらった。
「ファッションが悪者というレッテルを貼られないために」
WWDジャパン(以下、WWD):コロナの影響でファッション市場の規模は変化する?
久保嘉男「ヨシオ クボ」デザイナー(以下、久保):僕は市場規模自体は変わらないと思っている。嗜好品として高級品を買う人は買い続けるだろうし、SPAなどの安価な服も日用品として必要だ。ただし、内訳は大きく変わる。新品の比率は縮小するかもしれないが、その分二次流通が活性化して相対的には大きく変化しないと考えている。だからデザイナーは、二次流通でどう売買されるのかも今後は考えないといけない。
有働幸司「ファクトタム」デザイナー(以下、有働):企業やブランドの規模にもよるが、残るところと消えるところがはっきり分かれるだろう。でもファッションが悪者だとレッテルを貼られると、市場の縮小に歯止めが利かなくなってしまう。大手アパレルから小さいブランドまで、それぞれの規模に合った地球に優しい物作りを意識しないといけない。僕もこれが転換期。一つ一つていねいに作ろうという意識は高まったし、これまで当たり前のように続けてきた無駄なことを断捨離したい。その分世の中に自分のアイデンティティーを発信することに注力し、15年間で培ってきた本当の強みを見せるときだと思っている。
久保:学校で服作りを学ばなくてもデザイナーになれる時代だからこそ、時間をかけたんだなと一目でわかるような服やアート作品に僕は引かれる。そういうクリエイティブな物がある一方で、何のコンセプトもなく作られた服もたくさんある。そういったものは“無駄”と考えられて、有働さんが言う悪者にされる原因の一つになる。いちファッションデザイナーとして刺激的な物作りに貢献したいし、これからも大切にしたい。
WWD:従来のファッションサイクルやシステムに懐疑的な声が上がっているが、本当に変わると思うか?
有働:変わってほしいとは思っている。コレクション発表のタイミングやセール開催時期についての議論は世界で起こっているが、全員で動かないと変えることはできない。ある程度の強制力も必要なので、国がセール期間を設定するぐらいでもいいかもしれない。クリエイションを発表する場ももちろん作ってはいきたいが、もはやシーズンという概念さえ懐疑的になっている。展示会ベースだとどうしても締め切りを意識してしまうから、新作の発表を1年ごとにするのか、もしくは受注生産のようなかたちをとっていくのかなどを考えたい。個人的な仕事のサイクルを見直して、アウトプットの質を上げていきたいとは思う。
久保:僕もショーを続けるうちに服がどんどん過剰になり、量を増やし過ぎたとあらためて考えている。16年目にもなるのに、自分がやりたいことを忘れていたかもしれない。だからこれからは、自分らしくない服は作らない。コレクションのために数を作って選んでもらうという従来の形式が正しいのかどうかも最近考えている。6月に予定していたパリでの展示会はできないだろう。でもデジタルシフトが加速すれば場所に対する価値がどんどんフラットになっていき、逆にリアルでのプレゼンテーションや実店舗で買い物する体験価値が見直される。従来のサイクルを好んでいる人たちはいるから、僕たちは今すぐ何かを変えることはない。
「勝ち負けを分けるのは、結局は情熱」
WWDジャパン(以下、WWD):デザイナーとして業界を15年以上見てきた立場から、今後のファッション界を担う、または志す若手にアドバイスするとしたら?
有働:僕や久保さんがブランドを立ち上げた15年前は情報も少なく、仕事の選択肢も今ほど多くなかった。でも今は働き方も多様化し、いろいろなことにチャレンジできる環境が若い人にはある。そんな中でもファッションを仕事として選ぶということは、相当な服好きだということ。だから諦めずに長く続けて、人にファッションのよさを伝えることがビジネスになっていく過程を体験するために、自分磨きを忘れないでほしい。僕も最初は右も左も分からない状態で、卸からスタートした。知らないことを知ったかぶりせず、バイヤーや知人にとにかく聞いて吸収してきた。ビジネスはセンスではなく、経験に基づくものだから。
久保:正しい。すごく正しい(笑)。ブランドを始める人の勝ち負けを分けるのって、結局は情熱だけ。昔は僕も何をしてでも有名になりたいと思うほど鼻息が荒かった。有働さんのビジネスの話と同じで、服作りも長く続けた方がうまくなる。日本のファッションを世界に認めさせる人が出てこないといけない。そもそも、シーズンごとのテーマって必要なのかと最近は考えている。日本の服飾学校でもテーマを決めて服を作る教育ばかり。テーマがなくても、服そのものに意志を宿らせてメッセージを発信できるデザイナーが結局は強いから、その域に達するまで辛抱強く続けてほしい。これはデザイナーだけじゃなく、PRやメディアにも同じことが言えるはず。受け取る人の熱量はそれぞれでいいけど、作り手の情熱は中途半端じゃ絶対にだめ。