「WWD ビューティ」5月21日号では理美容室専売品メーカーを特集しました。理美容サロンと密接な関わりのある特集ということで、表紙のイラストに最適な人物として思い浮かんだのが、フリーランス美容師でイラストレーターとしても活躍するTAKUOさんでした。2018年4月にインスタグラムのアカウントを開設し、美容師の日常を描いた「#美容師あるある物語シリーズ」は同業者からたくさんの共感を集めています。ウエブメディアでの連載や、今年は初の書籍「美容師あるある物語」を小学館から出版し、さらにはプロフェッショナル向けトリートメントメーカー「ウルトワ(ULTOWA)」の1人として、活動の場を広げています。そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのTAKUOさんに、美容師になったきっかけや、3つの仕事を両立させるコツ、新型コロナウイルスによって受けた影響などを聞きました。
WWD:まずTAKUOさんが美容師になったきっかけを教えてください。
TAKUO:もともと美容師を目指していたのではなく、高校のときの友達が美容師を目指していて、専門学校のオープンキャンパスに付き添いで行ったことがきっかけ。そこでカットやワインディング(パーマをかける際、毛髪にロッドを巻く作業のこと)の実習を体験した時に、もともと手先が器用だったこともあり、ある程度できちゃったんです。それを見ていた専門学校の先生が僕に向かって「君は経験者かい?」とお世辞じゃない言葉をかけてくれたんです。それがきっかけで「おれって美容師向いているのかも」と単純な理由で目指すことに。どうせやるなら東京でバリバリやりたいと、福島県から東京の山野美容専門学校に入学しました。そうとう練習は頑張ったと思います。学校が終わってからも教室で練習したり、技術を教えてくれるサロンに行って練習をしました。やれるだけのことはやったと思います。就職も絶対に有名店に入りたいという一心で「ビュートリアム(BEAUTRIUM)」を受けて、入社が決まりました。下積みはとてもとてもつらかったですが頑張りました。
WWD:なぜフリーランス美容師に?
TAKUO:同じ会社の尊敬する先輩がフリーランスに転向したのをきっかけに、1年遅れて僕もフリーランスになりました。最初は稼げるからというささいな理由でした。そして、そのタイミングで結婚し、フリーランスになってバリバリ働いて充実した毎日だったんです。たくさんのお客さまを担当させてもらって、目標とする先輩がいて、仕事は順調でした。その一方で、家庭内はボロボロで離婚することになってしまって。離婚をきっかけに、こんなことを言うと怒られそうですが解放感から何か新しいことがしたくなり、子どものころから好きだったイラストを始めようと。僕は人と同じことをするのがとても嫌で、周りの美容師みたいにヘアスタイルをインスタグラムに載せるのが嫌でした。だから誰もやっていない自分にしかできないことをやりたかったんです。美容師とイラストレーターを合わせること、美容師の自分にしか描けないイラストを描こうと。それが美容師イラストレーターの始まりです。
WWD:美容師とイラストレーター、両立するコツはありますか。
TAKUO:とにかく寝ないこと(笑)。かなり不健康な生活で、寝るのは毎日朝7時とか(笑)。最初のころは、美容師もイラストも100の力でやっていました。次第にイラストの仕事が増えて、副業としてやっていたイラストが美容師の収入を超えるようになってきてからは、美容師3割イラスト7割ぐらいの比率になっています。複数の仕事をするメリットは、一つの仕事に執着しなくていいこと。美容師もイラストも好きなことだから、一番リラックスした状態でできるんです。その結果、パフォーマンスが上がっています。
WWD:イラストレーターとして「やっていける!」と思った瞬間はどんなときですか。
TAKUO:イラストで収入を得る前に、書籍出版の話をもらいました。インスタグラムを初めて半年ぐらいです。そのときのフォロワー数は2.2万ぐらい。イラストにとてつもない需要を感じた瞬間でした。それから連載の仕事や制作の仕事がたくさん入ってくるようになり、イラストでも食べていけるようになりました。
WWD:今回「理美容室専売品メーカー」特集の表紙を描き下していただきましたが、フリーランス美容師になってディーラーやメーカーとのお付き合いで変化したところはありますか。
TAKUO:フリーランス美容師は契約しているサロンによって異なりますが、僕が所属しているところはサロンが薬剤などを用意してくれます。なので、特別ディーラーやメーカーとの付き合い方が変わるということはそこまでありませんでした。人によってはディーラーと個人契約しているフリーランス美容師もいます。自分で使いたい薬剤があれば問屋などで自分で準備するときもあります。
WWD:最近では髪質改善トリートメントも手掛けていますね。
TAKUO:「ウルトワ」は3人で活動していて、開発・営業・広報&デザインの3つの役割ごとにそれぞれ動いています。僕は広報&デザインを担当しています。もともと開発を担当する原田が1人で立ち上げたメーカーですが、“デザイン・ブランディング・拡散力”に困っていると共通の知人から話を聞き、現在営業を担当している道脇と一緒に原田と会うことにしたんです。原田の製品に対する思いと物の良さから、「ウルトワ」を通じて僕らはお客さまの幸せを願い、美容師さんを全力でサポートをしていこうと活動しています。
WWD:新型コロナウイルスによって影響を受けたことは?インスタグラムのストーリーでのアンケートや、NYの美容師とのライブ配信が印象的でした。
TAKUO:現在、美容師とイラストレーター、「ウルトワ」の三足のわらじを履いて活動していますが、新型コロナウイルスで美容師と「ウルトワ」はかなり影響を受けています。売り上げでは70%近く減っています。イラストレーターも、“美容師イラストレーター”というように美容専門でイラストを描くことが多いため、多少なりとも影響は出ています。緊急事態宣言が発令されてから、ぼくのインスタグラムのアカウントで「あなたのサロンは休業しますか」というアンケートを取りました。8割以上のサロンが休業しないという結果でした。たしかに理美容室には休業要請は出ませんでしたが、得体のしれない感染症ということもあり、ぼくは休業派の意見でした。もちろん経営者の立場を知らないぼくが偉そうなことは言えませんが……ただDMにたくさんのメッセージが届きました。「コロナが怖いけど、うちのサロンは休業してくれません」「お客さんが来ないので客ハンさせられてます」「私は妊婦ですが、旦那のサロンが休業しないためすごく怖いです」こういった声を届けたくて、インスタグラムでこの思いを発信しました。もちろん賛否両論あって、炎上ですね(笑)。でも僕はあの発信を後悔していません。僕の発信で少なからず救われた命はあるのかなと。