新型コロナウイルスの感染拡大による切迫した状況から、少しずつ日常を取り戻し始めている。日本全国に発令されていた緊急事態宣言も5月25日に解除され、営業を自粛していた百貨店や小売店も営業を再開し始めた。外出すらままならなかった期間中にウェブ会議やデジタルでの取り組みを始めた企業はファッション業界にも多く、今後は業務やモノ作りやシステムが見直されて効率化がますます進むだろう。業界全体においても企業やブランド数縮小による“効率化”は必至だ。特に富裕層を顧客に持つラグジュアリーブランドと、日用品として需要のあるSPAなど低価格層の間の中間層に属する中小のブランドや企業は、生き残りをかけて新たな一手を必死で模索している。(この記事はWWDジャパン2020年6月1日号からの抜粋です)
緊急事態宣言が発令された4月初頭から東京のメンズデザイナーを中心に取材したり連絡を取り合ったりして話を聞いていると、彼らは共通して「本物のブランドだけが今後は残る」という考えを持っていた。最近は誰でも簡単にブランドを立ち上げることができ、デザイナーやクリエイティブ・ディレクターという肩書を名乗るハードルが下がっている。そして、模倣品も溢れている。そんな乱立するブランドもマクロで見ると“デザイナーズブランド”に属するのだから、思うこともあるのだろう。
しかし、“本物”の定義とは何なのだろうか。模倣品は論外だが、誰にもまねできない技術で丹精込めて作り込んだ服も“本物”なら、顧客や世間が求める価値観を形にした服も“本物”である。「魂を込めて作り込んだ“本物”の服は残り続けるはず」という曖昧な定義だけを信じて歯を食いしばるだけでは、じわじわと沈没していくことになりかねない。“本物”なのかは受け取り手が決めること。もし苦労して作り上げたものを信じるならば、これからはその苦労を自分の言葉で伝えていくべきである。一見すると普通のTシャツ1枚でも、作り手の思いという価値を帯びることで消費者には“本物”になることもあるからだ。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。