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「目指すのは世の中から“捨てる”という考えをなくすこと」 世界で拡大する容器再利用プラットフォーム「ループ」とは

 米国で2001年に創業し、ごみ削減に向けて先進的な取り組みを進めるスタートアップのテラサイクル(TERRACYCLE)。創業者のトム・ザッキー(Tom Szaky)最高経営責任者(CEO)が掲げる“世の中から捨てるという考えをなくす”という理念のもと、再利用できないと思われてきたモノを再利用するべく、現在21カ国で事業を展開している。大手企業やブランドと協働でペットボトルから化粧品容器、食品トレー、アルミ缶、ガラス、さらにはチューインガム、たばこのフィルター、使用済み紙おむつ、菓子袋といった、使用済み製品やパッケージなど、あらゆる廃棄物を回収し、原料や製品としてマテリアルリサイクル(再資源化)事業を展開している。10月には、日本で新たに容器再利用事業「ループ(LOOP)」を始動する。「ループ」の“中身”とは――。テラサイクルジャパンの冨田大介マーケティング&コミュニケーションズ ディレクターに聞いた。

WWD:本国アメリカでは設立から約20年が経つ。日本での展開はいつからか。

冨田大介テラサイクルジャパン マーケティング&コミュニケーションズ ディレクター(以下、冨田):テラサイクルジャパンは2014年に設立し、サンタフェナチュラルタバコ ジャパン(現:トゥルースピリットタバコカンパニー/TRUE SPIRIT TOBACCO COMPANY)をファウンディングパートナーにたばこの吸い殻のリサイクル事業からスタートしました。化粧品業界との取り組みも早期から始まっていて、同年に日本ロレアルの「キールズ(KIEHL’S SINCE 1851)」との空き容器回収プログラムを、翌年からライオンと歯ブラシ回収プログラムを行っています。

WWD:日本での提携先はどのぐらい広がっているか。

冨田:マテリアルリサイクルを行うテラサイクル事業では現在までに約20社と取引があり、ビューティ企業はELCジャパンの「アヴェダ(AVEDA)」やロクシタンジャポン(L’OCCITANE JAPON)、ネイチャーズウェイ、マッシュビューティーラボなどで、全体の4分の1を占めます。17年末に中国が廃プラスチック類の輸入を禁止して以降、日本国内での問い合わせも増えました。

WWD:自社でリサイクル工場を持っているのか?

冨田:テラサイクルは本国も合わせて自社工場を所有しておらず、協力工場にリサイクルを委託しています。その方が多岐にわたるリサイクル素材の加工が可能になりますし、日々進化するリサイクル技術を活用することもできます。さらには既存のリサイクル業者を支援することにもつながります。ただし、本国では自社でR&D部門を設けており、そこで循環する社会の実現に向けてリサイクル技術の研究を進めています。

WWD:化粧品企業との取り組みの事例は?

冨田:店舗などの拠点に空き容器の回収ボックスを設置し、集まった容器をテラサイクルへ送ってもらいます。「キールズ」とのケースでは、店頭に持ってきてもらった空き容器から再資源化したプラスチックがスパチュラに生まれ変わり、それを顧客に配りました。化粧品は店頭回収の場合が多いので、リサイクルプログラムを通して再来店につなげることで、ロイヤルティー向上にも活用してもらえるのではないでしょうか。

WWD:リサイクルにかかるコストはどのように決まるか?

冨田:リサイクルする素材の種類や量によって料金は変わりますが、ある程度の量がないと再資源化のコストが高く、経済的合理性は低くなります。量が多い方が全体の費用を抑えられる設計になっているので、ある程度リサイクルする素材をためてから送っていただきます。現在は石油を使ったバージンプラスチックと比べてリサイクルプラスチックにかかるコストは高いですが、今後技術が進化すれば費用対効果が上がっていく可能性はあります。化粧品の容器でいえば、凝ったデザインになると多様な素材が使われていることが多くリサイクルしにくく、シンプルな素材でできている方がリサイクルしやすくなります。

本国アメリカでは再利用容器のデザイン性の高さが高評価

WWD:日本で10月に開始予定の新事業、循環型プラットフォーム「ループ」は、本国などで昨年先行してスタートしているが、立ち上げられた背景は?

冨田:CEOのトム・ザッキーが、テラサイクル事業だけでは、世の中からごみをなくすという企業ミッションの達成は難しいと感じたことから、“容器の所有権を消費者から企業に戻す”というコンセプトのもとアメリカとフランスで試験的に導入しました。「ループ」では日常的に使う消費財の容器をメーカーとテラサイクルで共同開発します。消費者が専用のウェブサイトから商品を注文すると商品が自宅に配達され、使用後に空き容器専用のバッグに入れて返送します。再び商品を購入すると、洗浄して再充てんされた商品が届きます。商品購入の際に商品の金額に加えてデポジット(預り金)を支払い、容器を返却するとデポジットが返金されるという仕組みです。牛乳の宅配サービスをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。

WWD:「ループ」に参加する企業は?

冨田:現状ではキッコーマンや味の素、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(PROCTER & GAMBLE JAPAN以下、P&G)など食品や洗剤が多いですが、化粧品では資生堂や「ボタニスト(BOTANIST)」のアイエヌイー(I-NE)が参加する予定で日本での提携先は約20社程度でスタートします。オンラインサービスは5000世帯を対象に試験的に開始し、同時に大手スーパーのイオンの東京を中心とする17店舗でも展開します。イオンの店頭には「ループ」の商品を集めた売り場が作られ、空き容器の回収ボックスが設置されます。メーカーにとってはステンレスやガラスなど耐久性のある容器の開発に初期投資が必要となりますが、長期的にはコストダウンにつながり、多くの人に利用してもらえるほど初期投資の回収期間は短くなっていきます。

WWD:消費者にとってのメリットは?

冨田:本国で行った消費者の意識調査では、「『ループ』を利用する理由」という質問に対する回答が、「環境によいことをしている」よりも「利便性」が上位になりました。これまで空き容器を自宅で集めてごみ捨て場などに持って行かなければいけなかったものが、「ループ」では自宅まで配達し、回収もしてくれます。その次に「パッケージデザインのかっこよさ」が挙がりました。使い捨て容器ではないため、企業側もある程度のコストをかけて工夫します。そのデザイン性の高さや機能性・使いやすさが評価されたようです。その次点として「家のごみが減った」という環境意識に関わる回答が挙がりました。「環境にいい」だけでは誰も買いません。「ループ」を根付かせるには、こうしたデザイン性や利便性が重要になります。最終的なゴールはごみを出さない社会をいかに成り立たせるかです。経済をまわしながら一方通行の資源利用をやめて輪をつくるのが目指すビジョンです。

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