「商業施設との商談でも報道でも、売上高の増減しか物差しにしない。それが業界のゆがみを生んできたんだと思いますよ」。弊紙7月13日号で、「セール再考、変わるのは今だ!」という特集を組んだ。長年問題となってはいたが、業界としてガッチリと向き合ってはこなかったセールの在り方について、そしてアパレルビジネスの理想の形について業界の有力企業経営者に語っていただいた。その取材中に近藤広幸マッシュホールディングス社長や野口麻衣子アルページュ社長などから出たのが、冒頭で書いたような内容の言葉だ。日頃、われわれメディアは「ファッション業界はモノを作り過ぎ」などと声高に語っている。しかし、売上高偏重型の報道で、そうしたゆがんだ構造を加速させてきたのは他でもないあなたたちメディアじゃないか、そんなふうに言われた気がして恐縮した。(この記事はWWDジャパン2020年7月27日号からの抜粋です)
「売上高しか物差しにしない」。身に覚えしかない言葉だ。弊紙でも前職の日刊ファッション業界紙でも、ブランドの好不調を報じる記事は無数に書いてきた。記事の冒頭に前年同期に比べての売上高の増減を入れるのは決まりだ。また、有力専門店や百貨店については、既存店売上高の前年同月比を毎月報じている。商業施設の思考回路もわれわれと同様だろう。2017年から全店でセールを廃止した野口社長が言っていた。「もちろん、セール中止を決めた最初の年は、前年の売り上げ実績を超えられなくなるのでセールをやってほしいと商業施設の担当者に要請された。でも、翌年からは何も言われなかった。前年主義だから、前年行わなかったことについてはもういいみたい」。悪い冗談のようだが、ファッション業界のこれまでの在り方を端的に表している言葉だと思う。
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