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「住民以外も巻き込んで、カルチャーを守る」 渋谷区が異例のクラウドファンディングを立ち上げた狙いを区長に直撃

 東京都渋谷区は、渋谷区商店会連合会、渋谷区観光協会、渋谷未来デザインと共に、新型コロナウイルス感染症拡大で影響を受けている区内のファッション、理美容、飲食、エンターテインメントなどの事業者を支援するために、「YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング」を開始した。地方自治体がコロナで苦しんでいる産業支援のために給付金を支給する事例は多いが、渋谷区のようなクラウドファンディングでの商業振興は珍しい。渋谷区は全国で初めて同性のパートナーシップを認める(2015年)など、これまでも柔軟な取り組みが注目されてきた自治体。長谷部健区長に、クラウドファンディングの狙いを聞いた。

WWD:7月22日に、「YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング」がCAMPFIRE上でスタートした。期間は9月6日までで、目標金額は渋谷区とかけた4289万円。集まった資金は区内の事業者の支援に充てられる。クラウドファンディングを立ち上げたのはどんな意図から?

長谷部健渋谷区長(以下、長谷部):意図は単純明快です。渋谷の街の魅力を構成する大きな要素である、ファッションや理美容、エンタメ、飲食といった業界が新型コロナの影響で困っていて、アクションが滞っている。僕自身も原宿で生まれ育っているので、周りにあった洋服屋などが(コロナで)つぶれているのも見ている。近年は中国を中心とした観光客の方が収益の中心だったので、売り上げが7割減になったといった声もきます。一方でオーバーツーリズムの問題は解決した部分もありますが、だからといってそれでよしとは思わない。やはりこの街は、ファッションやエンタメなど、さまざまなカルチャーの発信がアクティブにあるからこそ、僕も皆さんもシティプライドを持ってやってきた。だから、そういったカルチャーの分野はできるだけ応援しないといけない。

WWD:給付金での支援ではなく、クラウドファンディングという形がユニークだ。

長谷部:渋谷区は東京23区特別区ですが、地方自治体の仕事は基本的にはそこに住む生活者を支えることです。だから、どうしても住民の教育や福祉、それにまつわる土木などの事業が優先になるし、商業振興を行うにしてもその土地に住んでいる事業者を対象にしていることが多かった。ただ、渋谷のカルチャーの大きな原動力になっている人たちが、区民じゃないということもある。この街の昼間人口は、住民(約23万人)の何倍もいます。そこに大きなジレンマがありました。渋谷区は基本的に住民税で運営している自治体なので、(住民ではない事業者を含む)商業振興には原資をかけづらい。でも、商業振興も置き去りにできない。渋谷区の住民税だけで(商業振興を)まかなうのは財政的にきついし、この街には住んでいないけど関心を持っている人はたくさんいる。そういう人たちと一緒になって、この街のカルチャーを守っていきたい。それでクラウドファンディングという形になりました。

さらに言えば、ウィズコロナ、アフターコロナのライフスタイルを探っていく中で、社会が未来へ向かうスピードが速くなるという面もあると思うんです。インターネットとの親和性などによって、生活のあらゆる面がコロナで進む面もある。だから、単にコロナで苦しんでいる事業者を支援するということだけでなく、コロナを経た新しいライフスタイルや社会のあり方を見据える。そのために、区の予算としても1億円を拠出して、クラウドファンディングで集まった資金と共に商業振興を行っていきます。

「なぜ区が給付金を出して振興してくれないんだ」と言われてしまうかもしれませんが、それが一番誤解してほしくない部分。特別区としてできることを追求する中で、この街を発展させてきた区民じゃない方々にもできる限りのことをしたい。一緒になってやっていくために、クラウドファンディングとして力を貸してほしい。コロナは個人を主語にして乗り越えていくものではなく、社会を主語にして乗り越えていく課題。みなさんとまとまって力を出していきたい。

WWD:調達した金額と渋谷区の予算をあわせて、具体的に事業者にどのような支援を行っていくのか。

長谷部:たとえば飲食店などは、マスクやフェイスシールドが不足して困っているので配布します。ファッション関連の事業者は、来街者や観光客が減って商品が売れなくなっている。そこでECを作って売っていく。ただ、既に確立されている「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」などと同じことをやっても意味がないですから、街の魅力と一緒になったECにしていく。たとえば、街にリアルに出店している人しか出せないような仕組みなどを考えています。最初は既存のECモールの中に渋谷区の店としてまとまって出店するようなイメージを描いていますが、おいおいは5月にスタートした5Gの通信網を生かした渋谷区公認の仮想空間「バーチャル渋谷」の中で、ショッピングモールやコンサートを観る仕組みを作ることもできると思っています。そういう未来へのチャレンジを楽しみながら一緒に行ってもらえないかという呼びかけが、今回のクラウドファンディングですね。これまで、渋谷のスクランブル交差点でファッションショーをしたいという声などもありましたが、実際はなかなか難しい。そういったことも、バーチャル空間ではスムーズにできるようになるかもしれません。

WWD:ファッションや理美容などの事業者からは、コロナショックに伴ってさまざまな陳情が届いている?

長谷部:いろんな人から毎日情報は聞きますし、苦労しているお店、なくなっていくお店を実際見ています。同時に頑張っているなとも感じたりね。(陳情に来た人には)お金はサポートできないけど、(スクランブル交差点など)今までできなかった場所で何か行動をして、ノイズをあげるという行動なら積極的に応援すると伝えています。ただし、一つのブランドや店を盛り上げるためだけの行動では意味がなくて、(渋谷区のECモールなど)新しいサイトを作ったり、新しいムーブメントを生み出したりするためのきっかけになることなら、応援しますよと話している。

WWD:行政が、民間の事業者に対して何をどこまでやるのかというのは難しい部分もあると思う。

長谷部:繰り返しになりますが、渋谷を誇りに思ってくれている渋谷区民ではない人はたくさんいます。ハロウィンの翌朝の掃除などにまさにそれが表れていて、渋谷に住んでいない人たちが、自分たちの街として渋谷を掃除してくれる。ここはそういうパワーがある街です。そういう人たちは納税者ではないですが、渋谷区を応援することができるという空気を作りたい。そのようにいろんな人を巻き込んでいくという意味で行政の関わりはもちろんあると思うし、関わるべきだと考えています。渋谷区が政令指定都市並みの税制や権限を持っていたらもっと色々できると思いますが、今できる範囲内でのベストを考えている。渋谷区には給付金を配り続ける体力はない。だったら、釣った魚を渡すのではなく釣り竿を渡そうという考えです。ネット上で商品が買えるような仕組みができれば、万一コロナの第二波、第三波がきて実店舗が閉まっても売り上げにつながる。渋谷区公式のサイトとなれば、ECとしての見え方も違うんじゃないかと期待しています。

WWD:ファッションで言えば、渋谷区は個店も多い街。個店で自立心が強いゆえ、ファッション業界はなかなかまとまったパワーにならないという面もコロナでは明らかになった。

長谷部:(渋谷区の今の主だったファッション産業は)DCブランドのマンションメーカーからスタートしましたからね。現在も渋谷区は自立心のある人の集まる街、上を向いている人が集まる街だと思う。(ファッションの事業者があまり横とつながりたがらないのだとすれば)それこそ行政はやる意味があると思います。行政が(ECなどの事業を先導することが)一番フェアでしょう?

WWD:ファッション業界に対して要望はあるか。

長谷部:本当は、誰かに言えば業界全体に広がるといった仕組みになっているとありがたいですが……(笑)。たとえば理美容業だと、大手美容室も入っている区内のネットワークがあります。それは徒弟制度だからという部分もあるのかもしれないですが、ファッション業界はそういう(ネットワークがきっちりしている)部分もあるけれど全然そうじゃない部分もある。僕は絵本の「スイミー」みたいな組織になるといいと思うんです。区役所内の組織のあり方についてもよく言っていることなんですが、(ファッション業界も)みんなで大きな一つの船に乗るのではなく、個が集合することで大きな課題に立ち向かうことができる業界だと思う。コロナは、街とみんなと一緒になって乗り越えていかないといけない課題ですから。

今まで、区とファッション業界が膝を突き合わせて話をすることはあまりありませんでした。僕が区長になった後、(区内に本社を構える)ビームスやアダストリアとは協定を結んで、そういった大手企業との話し合いは少しずつ始まっていましたが、ファッション業界との連携をもっともっと進めていきたい。区役所の職員がクールビズでビームスが手掛けたポロシャツ着ていますが、所内が明るくなりました。やっぱりファッションの力ってありますよね。業界の側から、(行政と一緒になって何ができるか)もっともっとアイデアを寄せてほしいです。

WWD:長谷部区長が考える、ファッションビジネスのおもしろさとは?

長谷部:原宿で生まれて、小学生のころは竹の子族やロカビリー族がはやっていましたし、同級生の親にはDCブランドやマンションメーカーを手掛けていた人もいました。ぼんぼんビジネスを当てて行って、あっという間にいなくなった人もいましたが、そこから続けることは大変だけど、華やかですてきな業界だなと感じていました。もちろん、ファッションに限らず、デザイン関係、映画監督、カメラマンなどの親を持つ子どももいて、うちみたいなサラリーマンの家庭もあった。僕は自分自身がおしゃれだとは思わないですし、おしゃれとなるとどちらかというと気恥ずかしくなってしまうタイプですが、そういう街で揉まれて育ってきた中で、ファッションを通して成長していった仲間もたくさんいる。だから服自体というよりも、そういういろんな人たちが作り出すカルチャーには思い入れがあります。渋谷区では全国で初めて同性のパートナーシップを認めましたが、それもLGBTQの人たちが周りにいたから気付けたことです。そういうさまざまなカルチャーがある街は誇りなんですよね。街に育てられたという感覚はあります。

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