スニーカーにまつわる噂話のあれやこれやを本明社長に聞く「WWDジャパン」本紙での連載。今回は番外編として、日本人で唯一「ナイキ(NIKE)」のグローバルアンバサダーを務めるダンサーのRIEHATA(リエハタ)を迎え、「WWD JAPAN.com」でスニーカー対談を実施する。新型コロナで窮地に立たされたファッション業界と同様に、ダンス界もイベントやレッスンが中止になるなど影響は大きい。そんな状況やムードも踏まえ、スニーカーとダンスについて聞いていく。
WWD:6月にはウィメンズ業態の「アトモス ピンク(ATMOS PINK)」とRIEHATAさんのコラボアイテムを発売しました。お互いの共通点は何ですか?
本明秀文社長(以下、本明):RIEHATAさんはグローバルで生きているから僕たちのビジネスとも共感できるところが多い。一緒に作ったアパレルは海外からの問い合わせが本当に多いよ。それもアジアじゃなくて欧米から。今はコロナでEMS(国際スピード郵便)の料金が2.5倍するから発送できないんだけど、ビリーバー(信者)がすごくいる。コロナでビリーバーがいないブランドやモデル(型)は終わるってことが浮き彫りになった。僕たちもよくコラボするから分かるんだけど、インスタのフォロワー数と売れ行きは全く異なるから、大事なのはどれだけ深くファンとつながっているか。
WWD:RIEHATAさんはいつから「ナイキ」のアンバサダーを務めているんですか?
RIEHATA:3年ぐらい前に初めてあいさつさせてもらって、そのときはイベントに出演しただけだったんですけど、去年の夏に正式にグローバルキャンペーンのモデルに使ってもらいました。オフィシャルアンバサダーをさせていただいているのはここ1~2年ですね。
本明:ナイキにも“グローバル”と“ジャパン”があって、僕らが日本でなじみがあるのはナイキジャパンが声を掛けた日本のアンバサダー。でもやっぱり“世界のナイキ”だから、グローバルのナイキは世界で通用する人しか使わない。RIEHATAさんは個性的なファッションだけど、何から影響受けたの?
RIEHATA:やっぱり小さい頃に見ていた黒人のミュージックビデオですね。ミッシー・エリオット(Missy Elliott)とかTLCとか。その頃まねしていたファッションは今も好きなんです。自分で新しいファッションとして着るのも楽しくて、小さい頃から古着しか着ませんでした。ブランドのお店に行けば絶対かわいいモノがあるんだけど、たくさんある古着の中から選ぶのが楽しくて。そこからどんどんファッションが個性的になっていったんです。
本明:なるほどね。ちなみに、どんなスニーカーが踊りやすい?
RIEHATA:断トツ踊りやすいのは“エア フォース1(AIR FORCE 1)”ですね。“エア マックス(AIR MAX)”はソールが厚いからバランスがよく見えたり、重厚感があるからステップを踏んだときにかっこよく見えるんですけど、重いので長時間踊っていると疲れます(笑)。個人的には“エア フォース1”は汚れてもかっこいいから。同じオールホワイトだけでも5足ぐらい持っていますよ。
本明:オールホワイトは人気で欠品しているんだよね。入荷してもすぐに売り切れる。
WWD:ずっと「ナイキ」のスニーカーで踊っているんですか?
RIEHATA:実は10年ぐらい前は「バンズ(VANS)」や「コンバース(CONVERSE)」で踊っていたんです。西海岸でスケーターがスキニーパンツに「コンバース」で滑っているのを見てかっこいいなと思って。その頃の日本のダンサーのスタイルって、Tシャツにスエット、ハットが定番だったんですけど、ダンスしないような格好で踊るのがマイブームで。でもソールが薄いから脚にはよくないんですね。ダンスの量が増えてくるとファッション性だけじゃダメだなと思って、それで“エア フォース1”を履くようになったんです。
本明:僕も“エア フォース1”がかっこいいなと思ってずっと履いていた。長くスニーカーの仕事をしているから重労働もあるけど、一番長く履けて、作業しても壊れなかった。
RIEHATA:ダンサーが履いてもかっこいい靴だし、逆にダンス初心者でもそれさえ履けばおしゃれに見えちゃうというか。誰が履いても間違いないですよね。
本明:僕は“エア フォース1”のコレクターだったんだけど、数年前に「ナイキ」に私物のコレクションを全部売っちゃった。180足ぐらいあったんだけど、全部値段を出してくれて。今は本社(ポートランド)のアーカイブルームに展示されているよ。
WWD:一番高かったスニーカーを覚えていますか?
本明:まとめて売ったから覚えてないなあ。でも最初に発売された1982年のオリジナルの“エア フォース1”とかを箱付きのデッドストックで持っていたから、それかも。欲しいからって探しても見つからないからね。
WWD:なるほど。ところで、今RIEHATAさんが着ているのが「アトモス ピンク」とコラボしたカットソーですか?
本明:そう、変わったデザインだよね。僕も着たいから大きいサイズを作ってほしいとお願いしたんだけど断られた(笑)。みんなと同じようなスタイルだけど、ほかとは違う感覚を「ナイキ」は求めている。
WWD:違うものは受け入れられない可能性もありませんか?
RIEHATA:そうですね。見た目だけで判断したらみんな受け入れられないと思うんです。私には似合わないとか、合わせる服がないとか。だけど私はモチベーションから変えていきたい。これを着たら新しい自分になれるよとか、元気になれるよとかでもいいんです。インスタでも“#riehatachallenge”(ほかにも“#riehatatokyo”など複数)とかのハッシュタグを付けて、私と全く同じ格好でファンの子たちがダンスをあげてくれるんですね。今はコロナで出かけることも少ないけど、私の作った服を着ることでダンスしようとか、モチベーションアップになればいいなと思ってます。
本明:だからビリーバーが増えるんだね。それにRIEHATAさんはダンスがうまいから説得力がある。練習しないとうまくならないものだから、努力しているっていうことが説得力。それも言葉で言っているわけじゃなくて、肉体で表現しているからグローバルでも通用する。これって本当にすごいコミュニケーション能力。言葉で説得するんじゃない新しいコミュニケーションをファッションも取り入れていかないとこれからは発展しない。そういえば、スニーカーをファンに贈ったとか?
RIEHATA:そうなんです。コロナの時期だったので、練習できないしイベントが中止になって、その間に目標がなくなったりプロのダンサーになる夢を諦めそうになるじゃないですか。だから希望を持ってもらいたいなと思って、(ダンスイベントなどを運営する)GKKJとダンスのオンラインワークショップを企画したんです。その売り上げ全てを「ナイキ」のスニーカーの購入資金に充てたんですね。レッスンを受けてくれた1000人以上の中から、忠実に再現できているかとか情熱を持っているかとかで選んで、100人ぐらいにスニーカーを贈りました。届いた人がインスタに載せてくれるんですけど、そういうのってその子のモチベーションも上がると思うんです。だから私は、その人のライフスタイル全部を応援したくてやってるんです。スニーカーを履いてSNSにアップすることで、ファッションやメイクのモチベーションも上がるし、スニーカーがライフスタイルを豊かにしてくれると思って。新品なので自粛中でも家でも踊れるし、ダンスをやめないでねという願いも込めています。
本明:スニーカーがみんなを幸せにしてくれるってことだね。