フランスのスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」は、デザイン性の高さに加えて、地球と人に配慮したビジネスでも注目を集めている。透明性とサステナビリティは今や持続可能なビジネスを目指すなら必須事項であり、資金調達や顧客獲得などステークホルダーに向けて取り組む企業は多い。もちろん正しい選択だ。しかし「ヴェジャ」の取り組みは一風変わっている。これまで「ヴェジャ」は投資家の力を借りずに成長し、生産者の生活向上に努める一方、新素材開発にも取り組む。あるメディアのインタビューで創業者のセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)とフランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)は、「クライアントの85%は持続可能性への取り組みを知らないが、知っていても関心はないだろう。持続可能性で売り上げが大きく伸びることはない」と答えていたのも印象的だった。彼らの強い意志はどこから来るのか。「ヴェジャ」の哲学をセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)共同創業者に聞いた。
WWD:あるインタビューで「クライアントの85%は持続可能性への取り組みを知らないが、知っていても関心はないだろう。持続可能性で売り上げが大きく伸びることはない」と語っていたのが印象的だった。そう思っていてもサステナビリティに取り組み、中でも透明性を重視する理由は?
セバスチャン・コップ創業者(以下、コップ):ブランドを設立した2005年、靴の製造方法を気にする人はそれほど多くはなかった。私たちは自分たちが誇れる方法で、クールなスニーカーを作りたかった。自分たちが把握している原材料を用いて、すべての経済的なつながりを壊したいと考えた。だからこそ、私たちはキャンバス地を製造するために自ら畑へ赴き、ブラジルの東北部アトランティック海側で1~2エーカー(4046~8092平方メートル)の土地でオーガニックコットンを栽培している農家のグループに出合った。彼らは小さなコミュニティーで地元の支援団体の援助を受けながら生活をしていた。でも過去6年間の売り上げはゼロ。ブラジルでも地盤が乾燥していて農作物が育ちにくい地域で、彼らは有機栽培よりもさらにエコロジカルな農薬や肥料を使わない自然栽培でコットンを生産していた。この土地では「アグロエコロジー」と呼ばれる農法をすることで土壌を肥えさせていた。私たちはこのコミュニティーで数週間滞在して、彼らの日常や農業の手法、費用を学び、彼らから綿を直接買い付けることを決めた。最初の取引額は現地の通常取引額の2倍を提示した。彼らはワケがわからず私たちのことをおかしいと思ったようで、「クレイジーなフランス人」と呼ぶようになった。そしてキャンバス地を作り、スニーカーができ上がることを実感した。天然ゴムのソールも同様の手順で行った。
ダフト・パンク(Daft Punk、フランスの音楽デュオ)のドキュメンタリーを見ていたときのこと。ジョルジオ・モルダー(Giorgio Moroder、音楽プロデューサー)は3つの異なるマイク――古いもの、現在広く使われているもの、そして未来的なもの――を設置した部屋で彼らのアルバムを録音していた。彼は一緒に作業をしていた技術者にこう尋ねた――「一般の人がマイクの音の違いを気付くと思う?」。技術者はこう答えた。「いいえ。しかしダフト・パンクは違いを生み出すでしょう」。このやりとりはまさに私たちの哲学と重なると感じた。私たちはやるべきことを誰よりも先に行い、人々が興味を持ったときに私たちがどの程度の取り組みをしているかを理解するだろう。1年、5年、または10年かかることもあるかもしれないが、私たちには関係ない。私たちが求めているのは、私たちが用いる素材がどこから来ているのかを知ることだ。
WWD:次に透明にするものは何?
コップ:私たちは原料や素材のトレーサビリティはもちろん、スタッフの賃金、オーガニックコットンの購入額、男性と女性の違いまで、あらゆることに取り組んでいるが、時には失敗もある。現時点では、9月に公開する予定のCO2排出量の調査をしている。ブランドにはすべきことがたくさんある。エコロジーを本に例えるなら、スニーカーブランドは最初のページの一行目に書かれているんじゃないかな。
WWD:CO2排出量の公開は興味深い。その他、現在力を入れていることは?
コップ:私たちは、最初の“ポスト石油”のランニングシューズを作りたいと考えている。いま出回っているランニングシューズはプラスチックからできていて、そのプラスチックは石油から作られている。1年前に発売したランニングシューズは、バナナオイルとサトウキビを原料に使用して、石油を55%削減することができた。しかし残りはまだ石油。バナナオイルとサトウキビはまだ解明されていないことも多く、特にサトウキビには多くの問題があることも知っている。石油よりも優れているだろうけど……サトウキビへの取り組みが次の課題だ。