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連載 元FR上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”

個々の悩みを知ると最高のチームになる 元ファストリ上席執行役員の心に火をつけた“トーチング”回顧録Vol.3

 ファーストリテイリンググループで社内改革を推進する「有明プロジェクト」をけん引し、史上最年少で上席執行役員に昇格した神保拓也はこのほど、人の「心に火をつける。」ことを目指し、株式会社トーチリレーを設立した。まず取り組む同社の主たる事業は、「心に火をつけることを主題に置きつつも、ティーチングやコーチングとは一線を画す」という「トーチング」。山に登るためのトーチ、登る山を見つけるためのトーチを提供する。ただ、その料金はタダだ。神保はなぜ、タダで「トーチング」を始めたのか?人の心に火が付くことで起こった、ファーストリテイリング時代のユニクロの「奇跡」をたどり、「トーチング」の魅力を考える(「トーチング」のビジネスモデルは、コチラから)。

(前回からの続き)

 店長には「『登りたい山』だけでなく、『登るべき山』に登る」、彼の上司のスーパーバイザー(以下、SV)には「人は変えられない。変わるもの。変わるきっかけを与え、その人の心に火をつけることに注力すべき」、そして両者の関係性を心配するスタッフには「矢印を自分に向けよう」と発信。さらには全員に「我以外皆我師」「相手を叱るな。『志』に叱らせろ」「仕組みを憎んで、人を憎まず」「人は、巻き込むのではなく、巻き込まれるもの」「whatではなく、whyをすり合わせる」「1つ上の視座で世界を見てみる」という6つをトーチングした神保“隊長”は、それぞれの面談内容をそれぞれに伝えたのが「大きかった」と振り返る。

 その狙いは、「相手の悩みを知ってもらうため」「相手の悩みを自分に置き換えてもらうため」そして「私(神保“隊長”)による相手の悩みに対するアドバイスから本人にも学んでもらうため」。つまり「皆が悩み、苦労し、それを乗り越えるために努力している過程」を共有することで、皆が誰かの悩みを自分に置き換え、相手を理解し、相手の悩みからも学び、成長できる環境を整えようと試みた。

 すると、お互いがお互いを深く理解するようになり、流れが変わった。そもそも店長やSV、スタッフは、「超努力家の最高のメンバー」。それぞれのトーチングでのやり取りをそれぞれが知ると、「最高のメンバー」は「最高のチーム」となり、団結した彼らは自力で奇跡を起こすまでに至った。以降神保“隊長”は、「私は、何もしていない」と話す。

 それぞれのトーチングでのやり取りを相手が知ることで、メンバーはチームとなり、奇跡が起こる。この経験が神保“隊長”が今、個々のトーチングを書き起こして1000円でサブスク配信する「トーチング日記」の原点になった。

 神保“隊長”は、「心に火をつける」ためにトーチングを実施しているが、大事なのは「私が、その人の心に火をつけること」以上に「その人が、自分で、自分の心に火をつけられること」。誰かに「つけてもらった」心の火は、いつかは消えてしまう。だから「心に火をつける」トーチングだけではなく、トーチングでのアドバイスや考え方、方法論などの「心に火がつくメカニズム」を、誰もが、自分のものとして使えるよう、エッセンスを抽出して永久保存版としてまとめた秘伝の書の必要性を感じるようになった。コレが「トーチング日記」。相談者がトーチングを通して、自分の「登る山」や「山の登り方」をどう見つけたのか?それを疑似体験できるよう、日記は臨場感たっぷりの、なまなましい対話形式でまとめている。

 「トーチング日記」を読んで「心に火がつくメカニズム」を学んだ人は、「自分で、自分の心に火をつけられる」のみならず、「人の心に火がつけられる人」になる。つまり誰かの悩みを自分に置き換えて考えることは、自分の成長はもちろん、人の成長に貢献できる人を増やすことなのだ。

 ロードサイドの「ユニクロ」でトーチングを実施してから約3カ月。ついに店舗は、連続で「低評価」に甘んじていた状況から脱却し、店舗監査で1ランクアップした。神保“隊長”は、その時スタッフからスマホに届いたコメントを読んで「店舗全体が、いい感じで変わってきている」という実感を得たという。(次回につづく)

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