アレキサンダー・ワンの登場にファッション界が沸いたのは、ほんの少し前のように思えるが、今年で10年を迎えた。彼は「時々、僕たちが付いていけないほどのスピードでイノベーションが進んでいくように感じる。今はイノベーションを拒否する方が、かえって現代的なんじゃないかと思う」と話し、節目に当たるコレクションで、10年を振り返る多彩なラインアップを発表した。もちろん彼の持ち味であるクールさと実用性を一切損なうことなく。ビジネス立ち上げから今に至るまでをワンが振り返る。
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WWD:創立10周年を迎えた感想は?
アレキサンダー・ワン(以下、ワン):10年もたったなんて信じられない。まるで昨日のことのようなのに。大学の寮でビジネス立ち上げを思いついて、ママに電話して、サンフランシスコに飛んで帰ったんだ。義理の姉のエイミー・(ワン=アレキサンダー ワン最高経営責任者)に会ったら、「あら、私失業中なのよ。ぜひ手伝わせてちょうだい!」という具合で。“デイワン(初日)”からこれまで家族みんなで何もかもやってきた。でも今では、単なる僕のビジネスではなく、ブランドであり、組織であり、一緒に仕事をするチームやスタッフがいる。それが10年前との大きな違いだと思う。
WWD:“10周年記念”というには、あなたはいかにも若い感じがする。つまり、ビジネスは即成功したということ?
ワン:いや、実のところ、僕たちが初のプレゼンテーションを開くまで、関心を持ってくれる人はそれほどいなかった。だから2〜3シーズンほど経験を積んで、ようやくラインシート(絵型)とは何か、どうしたら順調に納品できるか、どうやって適切なショールームを見つけるかを学んだ。結構苦労はしたんだよ。
WWD:過去10年間で最大の教訓を一つ挙げると?
ワン:どれか一つといわれても難しい。常に何か変更があるし、いつも誰かからキャンセルが入るし、必ず誰かが手を引くし。販売だろうが、マスコミだろうが、ショップオープンだろうが、常に変更や問題が起きることを予測して準備していなければならないんだ。
WWD:自身を成功に導いた秘密を一つ挙げるとしたら?
ワン:何が起きても前進できる、素早い行動力だね。最悪の事態が起きたり、思わぬ失敗を犯したときには、僕だってもうダメだと落ち込むよ。でも翌日には何事もなかったかのように、仕事を進められる。われながらびっくりするよ。
WWD:ブランドを立ち上げた当初、よく「うちの顧客はプライベートタイムのモデル」と言っていたが?
ワン:スタート当初はまだ21歳で、よく考えずに言葉を口に出してしまっていた。ジャーナリストやプレスやエディターやバイヤーに、どのように対応すべきなのかも分かっていなかった。だから無意識にしゃべって、時にはそれが問題発言になってしまったこともある。顧客像としては、今は、職業や年齢層、出身にこだわる時代ではないと考えている。
WWD:ブランドのファンはどんな女性?
ワン:ファッションについてそれほど大仰に考えることはないけど、ファッションが好きで、楽しんでいる。だけど型にはまった考え方はしない。そんな女性だといいな。
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尊敬するのはラルフとカール
WWD:あなたのファッションアイコンは?
ワン:尊敬しているのはラルフ・ローレンかな。彼は世界最大のライフスタイルブランドを作り上げたデザイナーだ。写真を見るだけで、たとえそこにロゴが記されていなくても、「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」だと分かる。
WWD:あなたはソーシャルメディアの達人といわれているが、あなた自身の戦略は?
ワン:僕はパーティー開始の1〜2時間前に、場所を知らせる携帯メールが来るっていう趣向が大好きなんだ。みんなその知らせを待ってうろうろしていて、「あ、来た!」という感じで、思わず行きたくなるよね。僕たちは「H&M」とのコラボが発表される直前にインスタグラムを始めた。(コラボを)インスタグラムで発表したら絶対に面白いと思ったんだ。だから、「H&M」がパーティーの招待をして、僕たちは僕たちで、また別にパーティーの招待をして、みんなが会場に来てみたらなんと同じ場所でコラボが発表されるという趣向だったのさ。
WWD:ハイファッションとファストファッションの両方に関わることで得られるものは?
ワン:ラルフの他に、僕が敬愛し憧れているデザイナーはカール・ラガーフェルドだ。彼は異なる顧客層に訴え掛けることができるし、タイプの違ういろいろなデザインができる人だ。僕はそういうことにすごく魅力を感じる。僕が「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「H&M」の仕事を引き受けたのはそれが理由だよ。
WWD:ところで、デニムラインのローンチキャンペーンは、かなり注目を集めたが?
ワン:モデルをアナ・イワーズにすることは決めていた。彼女はキャンペーンやエディトリアルでもヌードになったことはなかったけど、「もしヌードになるなら、あなたとスティーヴン・クラインと組みたいと思っていたわ。一番リラックスできるから」と言ってくれた。セットに入ったのは僕と彼女とスティーヴンの3人だけ。スティーヴンが「彼女に指示を出してよ」と言うから、「君はどうしたいのさ?」と僕が答えて、それで僕らは彼女の腕を椅子の肘掛けに置いて、ジーンズを下げて……。ごく自然にあのポーズになったんだよ。
WWD:目指したのは挑発的なキャンペーン?何でもありの現代社会で人々を“挑発”するのは難しかったのでは?
ワン:ヌードを使ったキャンペーンは僕たちが初めてというわけではない。あのとき、僕たちがやりたかったのがああいうキャンペーンで、それがデニムをローンチするタイミングで、そして、アナもOKしてくれて、部屋に満ちたエナジーをとらえたらあのキャンペーンが出来上がったということ。
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WWD:ショーを構成する際、あなたは最初にコレクションを考えて、次にセットを考える?それとも逆?
ワン:99%、コレクションが先。いつもギリギリになるから、もう少し早く準備しようとは思うんだけど。僕にとっては服からスタートが“絶対”なんだ。
WWD:あなたは忘れられないほどすてきなパーティーを開くことで知られているが?
ワン:最初のアフターパーティーのことはよく覚えているよ。「コレクションに関わった人は全員招待しよう」ってなって、プレスは1人も呼ばなかった。あれが最高だったね。クラブに繰り出して、みんな大盛り上がりで、僕は「これぞアフターパーティー!」と思ったよ。今では僕も他のファッションパーティーにたくさん行ったし、シャンパンを飲みながら大勢とおしゃべりして、一晩に何度も同じ顔を見ることにも慣れた。だから僕は、「隠れ家を作ろう。踊って楽しいときを過ごせる場所を作ろう」と思っているんだ。