女性向けのD2Cセルフケアブランド「レイ(WRAY)」が今秋デビューした。女性のバイオリズムに寄り添い、自宅で使えるセルフケアなどを提案する。第1弾としてゆらぎやすい時期に必要な栄養素を補完するサプリメント(定価8400円)、肌荒れを予防する美容液(定価8500円)、100%シルク製の腹巻き(定価5800円)を公式ECサイトで発売した。
「レイ」を立ち上げた谷内侑希子レイ代表は、ファッション・ビューティ業界とは無縁のゴールドマン・サックスやメリルリンチ日本証券といった外資金融企業でキャリアをスタート。その後、オーガニックベビースキンケアブランド「アロベビー(ALOBABY)」のマーケティングや、PR会社のステディ・スタディで経営企画を担った。今年4月に起業し、7月にはマネ―フォワードベンチャーパートナーズが運営するアントレプレナーファンド「ヒラクファンド(HIRAC FUND)」、サニーサイドアップパートナーズ、個人投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約4500万円を資金調達した。2児の母でもある谷内代表に「レイ」を立ち上げた思いや、戦略について聞いた。
WWD:「レイ」を立ち上げた経緯は?
谷内侑希子レイ代表(以下、谷内):母が経営者ということもあり、幼い頃から食卓で「原価」「卸値」の話が出るなど、商売の話を聞いて育ち、いつか自分も事業をやってみたいと思っていました。金融会社を経てマーケティング分野でキャリアを積むうちに商品開発の面白さに気付いたんです。「(商品を開発するなら)世の中に必要とされるものを自分で作りたい」とセルフケアブランドの立ち上げを決めました。
WWD:世の中に必要とされるセルフケアとは?
谷内:20代半ばから40代のキャリアを形成する時期に、女性は結婚、妊活、妊娠、育児、更年期、介護とさまざまな課題に直面します。しかし、これまであまり形にされてこなかったと思います。課題の多い女性をサポートする目的で、当初はキャリア支援などの人材会社も選択肢にありました。けれど私自身の経験から後回しになりがちなセルフケアをサポートしたいと思ったんです。金融企業に勤めていた頃はかなり忙しく、生理不順になりました。そこで婦人科に行ったんですが、「ストレスを溜めないようにしてください」と言われました。逆に自分のメンタルが弱いせいなんだと自己嫌悪に陥ってしまって……。悪循環でした。
マーケティング会社に移って、チームのトップに立ち、商品開発を任されるようになった時に妊活をはじめましたが、仕事をしながら婦人科に通う時間を作るのも大変だったのを覚えています。産後は体調が整わない日々が続いたり、この後更年期も来るんだよなと思うといつまで不調が続くんだろうと漠然とした不安があり……。女性の体で生きていくことは本当に大変だなと思って。だから、女性の課題に広く寄り添う商品を作ろうと思い立ちました。
WWD:どういった商品なのでしょうか?
谷内:気分に合わせてアイテムを選べるように幅広いラインアップを用意しました。第1弾はサプリメントと美容液、シルク製腹巻のシルクウオーマーです。
WWD:確かに出産や更年期などが人生に加わる女性は、心身と体のバランスを取ることが難しいと感じます。ECサイトには女性の働き方やPMSの症状を解説する記事などが掲載されていますね。
谷内:そうなんです。ECはメディア機能を持たせ、女性の健康やキャリアに関する情報発信にも力を入れます。「レイ」では取り扱っていない漢方にも触れるなど、必要な情報を網羅的に取り上げました。体の不調に対して理解を深め、「もっとできることがあるんだ」と気付きを与えるブランドになれたらうれしいです。まずはEC専門ですが、今後は伊勢丹新宿本店のビューティアポセカリーのようなオーガニック・ナチュラルを取り扱う売り場や、ライフスタイル系のセレクトショップなどへの卸もできたらいいなと思っています。
WWD:ご自身のインスタのフォロワー数は2万と多いですよね。
谷内:ロイヤルカスタマーと距離が近いのは「レイ」の強みです。主婦で子持ちで資金調達した私のストーリーも、世の中のママたちにとってはよいニュースだと思っています。こういったことをしっかり伝えていきたい。DMで「私も新しいことに挑戦してみようと思った」といったようなメッセージをもらったとき、立ち上げてよかったなと感じます。キャリアに関する相談なども毎晩のように受けます。以前ブランクが10年あった方の復職の相談に乗りましたが、その方から「復職してすごく楽しいです」という連絡をもらい、背中を押してよかったなと思いました。
WWD:「レイ」には女性が多く働いていますね。
谷内:現在「レイ」のメンバーにはママが多いですが、彼女たちのタスク管理能力には驚かされます。幼稚園の説明会や子どものお迎えなど、仕事の途中で家事や育児などを挟むこともあるのですが、戻った時の切り替えが非常に早い。業務上問題はありません。彼女たちの働きぶりを見ていると世の中のママたちも勇気付けられると思います。
WWD:もし過去に「レイ」の商品があったら、谷内さんの人生はどう変わっていたと思いますか?
谷内:日々生活していると自分の体に向き合うことを忘れがちです。「レイ」が無料で提供するLINEの生理周期トラッキングサービスは、生理の3日前になると「カフェインは避けましょう」とかホルモンバランスに合わせたアドバイスが通知される仕組みです。当時これがあれば登録していたと思います。女性は体を温めた方が良いというのはほとんどの人が知っていると思いますが、腹巻きでは生活しづらい……。「レイ」のシルクウオーマーは温かいのに、下着の線が洋服に出ず重宝していたでしょう。体の状況を把握することで周りへの接し方も変化があったと思います。SNSにあげたくなるような可愛いパッケージにこだわったのも、「インスタであのパッケージ見た」のようなきっかけとなり、多くの人にセルフケアに取り組むきっかけにしてもらうためです。
女性起業家だからこそ埋もれていた課題を形にできる
WWD:フェムテックはフェミニズムとも関係する分野だと思うのですが。
谷内:これまで性別などの枠にはめることで、声を上げられなかったり、できなかったりしたことがありました。しかし今は個人が尊重される時代です。フェミニストという言葉も一部の人をくくって批判するための言葉として使われていることに違和感を覚えます。フェミニストかどうかは関係なく、男性にも女性にも女性が抱える課題を認識してほしいと思います。
WWD:現在のフェムテック分野をどう見ていますか?
谷内:日本でもここ最近、一気にプレーヤーが増えていますね。海外では上場が近い企業もあるのではないでしょうか。大企業もこの分野に参入して市場が広がり、フェムテックという言葉すら使われなくなるくらい女性のためのサービスが当たり前になったら良いなと思います。私が今回「レイ」を始めると、「こういうのを待っていました!」という声をSNSでたくさんいただきました。つまり女性たちが感じていた痛みや課題があったのにもかかわらず、問題の外に置いて来られていた。それを形にできるのはスタートアップや女性の起業家だと感じています。
WWD:中でも20〜30代の若いプレーヤーが増えていますね。
谷内:資金調達の状況を見ていると、投資家や大企業からの注目度の高さに気付きます。若い女性起業家がちゃんと資金を調達していることがメディアを通じて広まれば、私も挑戦してみようと思う人も増えるはずです。
WWD:「レイ」も総額約4500万円の資金を調達しました。
谷内:最大の引受先はマネ―フォワードベンチャーパートナーズの「ヒラク ファンド(HIRAC FUND)」です。元々マネ―フォワードの最高財務責任者(CFO)と知り合いで彼にサポートしてもらえればいいなくらいに思っていたのですが、「ヒラク」のハンズオン支援は人事、労務、経理などバッグオフィスの部分までしっかりサポートしてくれるので驚いています。そのほか個人投資家で1人は女性起業家、もう1人も金融に知見のある女性です。サニーサイドアップパートナーズはグループとして投資いただきPRの部門を手伝ってもらっています。資金は人材採用と商品開発に使う予定です。
WWD:日本では女性の働きやすい環境を整えることも社会課題の一つですね。
谷内:例えば時短だからといってその人の能力が落ちると考えるのは間違っていると思います。先ほど話したように、「レイ」には仕事のブランクがあったり、子育て中の方もいますが、オン・オフの切り替えが早く仕事のパフォーマンスも高いと感じています。能力次第で積極的に採用していきます。企業は性別ではなく、その人の実力を評価して具体的な企業努力をするべきでしょう。一方で女性側も意識改革が必要で、仕事をしている間に「自分にはこういう価値があります」と主張できるようにならないといけません。先日「レイ」のサイトで管理職として活躍する女性のストーリーを掲載しました。女性は管理職というと家庭内での責任の重さなどから敬遠されがちですが、管理職になると自分を含めたチームの時間をマネジメントでき、できることも増えるんです。女性同士の情報交換も積極的に行うべきだと思います。
WWD:今後のビジネス計画は?
谷内:お客さまの声を拾いながら、来年にかけてラインアップを増やしていく予定です。まずは日本で認知を広げていくのが目標ですが、海外も早々に考えており、スケール化を目指します。女性起業家としての成功例に自分がなることで、社会全体で女性の影響力が大きくなってほしい。また、キャリアとヘルスケアをテーマにしたセミナーなどもオフラインで実施したいです。売り上げの一部を女性の活躍支援に充てるなど女性の自立支援や医療との連携なども視野に入れながら、フェムテックだけにくくられずライフスタイルブランドとして女性の課題を解決する商品を広く提供していきたいです。