山形県寒河江(さがえ)市を拠点にする紡績・ニットメーカーで、地元でセレクトショップの「ギア(GEA)」を運営する佐藤繊維が新ブランド「コーン(KONE)」をスタートさせた。コラボプロジェクト第1弾として、佐藤正樹社長と同じ中学校出身のメイクアップアーティスト、早坂香須子氏とコラボレーションした。紡績とニット工場であることを生かし、中間業者を通さないことでコストを抑えながらクオリティーの高い国産ニットを目指した。9月23~30日に同社の自社EC「ギア」と「クロスイットオフ」のみで予約を受け付ける完全オーダー制で、業界の課題である余剰在庫をつくらない“factory to closet”を実現する。
WWD:2人も同じ寒河江市出身だが、知り合うきっかけは?
早坂香須子メイクアップアーティスト(以下、早坂):故郷の寒河江市に2015年に佐藤繊維のセレクトショップ、ギアがオープンして以来、帰省するたびに足を運んでいました。オーガニックのコスメなども販売しているのですが、自分がプロデュースしているオーガニックスキンケアブランド「ネロリラボタニカ(NEROLILA BOTANICA)」が置いていないのが悔しくて(笑)、自分からアプロ―チしたのがきっかけです。今はギアでも販売していただいています。
WWD:そこから今回のコラボレーションにどうつながっていった?
佐藤正樹・佐藤繊維社長(以下、佐藤):新ブランド「コーン」をスタートさせる際、マーケットのトレンドありきで売れているものを追いかけるモノ作りはしたくないと思ったんです。アパレルの仕事をしている、していないにかかわらず、ライフスタイル、生き方が素敵な人と一緒にモノ作りをしたら面白いなと考えていました。そんな中、早坂さんを思い浮かべたんです。しかも同じ寒河江市出身ですし(笑)。
早坂:最初は「お茶でもしませんか?」という軽いお誘いでした(笑)。佐藤社長の話はいつも面白いのでぜひと思いお会いしたら、新しい糸を見せてくれて。ウールのナチュラルカラーの希少な糸で、グレーやベージュ、ブラウンなどがミックスされたなんとも言えない色でした。6月に迎え入れた保護犬、ダンの毛色が常々ナチュラルで素晴らしいなと思っていたので、その糸を見た瞬間に「ダンちゃんの犬のセーターを作りたいです」って言ったら「できますよって」(笑)。織られたサンプルを見て、郷愁の思いや家族に迎え入れた保護犬のことなどいろんな思いがあふれて出て、作らせてもらえるならぜひやりたいという話になったんです。
WWD:愛犬の話から今回、ウールのタートルネックセーターやフレアパンツ、ストールやカシミヤのVネックセーター、ジョッパーズパンツなどの6型のデザインにどのように広がっていった?
早坂:最初はプロジェクトというより、私の欲しいものを作りましょうということでスタートしました。
佐藤:早坂さんが好きな世界観を大事にしたかったので、早坂さんが気に入って着ている服や写真、買ったものを見せてもらいました。
早坂:私はジョージア・オキーフ(Georgia O'Keeffe)の世界観がとても好きで、ニューメキシコ州にオキーフの家を見に行ったこともあって、こういった大人の女性が好きだということを伝えました。私は気に入ったものは色違いでそろえたりするのですが、大人の女性を表現する上で、Vネックのカシミヤのセーターを作ろうという話に広がっていったりしました。私の周りにはとにかく背中を出したいという大人の女性が多かったので大胆にカットしていますが、前後どちらでも着られたり、タンクトップを合わせて自由に着られるようにデザインしました。
佐藤:カシミヤのジョッパーズも早坂さんの好きなシルエットに落とし込んでいきました。
早坂:佐藤繊維のすごいところは、ただ私の好きなシルエットを作るだけではなく、例えばタートルニット(愛犬にちなんで通称“ダン”セーター)でも肩の落ち感、腕を上げてもお腹が見えない、首の後ろの立ち上がりが膨らまないようにといった細かいことを言わなくても、サンプルごとに修正して出てくるんです。仕上がりがきれいになった理由を聞くと、いろいろ細部にわたる微調整がなされているのにはびっくりしました。
WWD:今回の販売方法を受注生産にこだわった理由は?
佐藤:大量に作りセールを見越して価格を上げ、最終的に廃棄されるというファッション業界のこれまでのシステムには限界があるので、原価をもとに適正な価格で販売するべき。だからこそ今回は注文を受けてから生産する仕組みにしました。
早坂:私も「ネロリラボタニカ」でオーガニックコスメの製作側にまわったときに、流通でかかるコストや小売りの在り方を考えさせられました。ドイツでオーガニックやサステナブルを巡る旅をした際、学んだり感じたりすることがとても多かったんです。今回のような売り方ができるのも紡績とニットメーカー、小売りを全て手掛けている佐藤繊維だからこそだと思います。
佐藤:そういった意味で早坂さんと意見が合致していたので一緒にモノを作りやすかったですね。しかも早坂さんのライフスタイルにも合っているし。実は早坂さんの実家の隣がニット工場だったんですよ。
早坂:そうなんです。実家の隣に大きなニット工場があって、現在なくなってしまったのですが、寒河江市は、最盛期には50社くらいニット工場があったんです。
佐藤:今は10社くらいになってしまいましたね。実際に操業しているのは5社くらい。
早坂:自分の街の産業が廃れていくのはさみしい。だからこそ、今こんな形で携われるのはとてもうれしいですね。自分は美しいところで育ったんだなと年々感じるようになっています。サクランボやお蕎麦などおいしいものもたくさんありますし(笑)。故郷への思いが膨らんできたところだったので、このお仕事をさせていただけたのはいいタイミングだったと思います。メイクアップアーティストとしてこれまで仕事で海外を飛び回り、イタリアではニットをオシャレに着こなしているおじいちゃんやおばあちゃんが素敵だなと思い、ニットやカシミヤを買ったりしていい素材も見てきましたが、佐藤繊維の技術の高さは今だからこそ分かる。
WWD:反響もかなりあるようだが?
早坂:まだプロジェクトとして正式に走り出していないときからインスタグラムで工程を少しずつアップしていたら、周りの友人から「すごく欲しい。詳細が分かったら教えて」と連絡がたくさんありました。周りが盛り上がってくれたので、すごくうれしかったです。
佐藤:今回、何よりモノ作り自体がとても楽しかったですね。それが商品に落とし込まれ、良さとして伝わると思っています。2カ月前にできたばかりの最新の糸ですが、太いのにふわっとした糸というのはほかにない。その風合いの良さも楽しんでほしいです。