アメリカのスタートアップ企業イオンはこのほど、衣服にマイクロチップを織り込んで追跡を可能にする「サーキュラーID(CircularID)」をマイクロソフトやH&Mグループなどの協力を得て開発した。「サーキュラーID」をスキャナーで読み込むと、ブランド名、素材、原産地、価格といった服の“出生証明書”の役割を果たす基礎情報と、購入後の移動歴などの“パスポート”の役割を果たす情報を確認することができ、ライフサイクル全体を通したトレーサビリティーを可能にする。
創業者のナターシャ・フランク(Natasha Franck)最高経営責任者(CEO)は「現在、ブランドと顧客の関係は販売時点で終了します。ブランドが製造から廃棄までのライフサイクルを通して商品を管理し循環させることで、その商品の価値を最大限化できるのです」と語る。
フランクCEOはかつてアメリカのテック企業デロスでIoT技術を活用したスマートシティに関わるプロジェクトに従事していた。「以前から循環型経済に興味がありました。循環型に向けてリセールやリサイクルサービスが多数存在しますが、これらの取り組みをIoT技術を用いて連携させ、効率化できないか、スケールを拡大するためには何が必要かを考えていた時に思いついたのが、個別の製品を特定するためのデジタル上のIDでした」。2017年にH&Mファウンデーションの「グローバル・チェンジ・アワード」を受賞したことをきっかけに事業化を決めた。さらにH&MグループやPVHコープ(PVH CORP)、米スーパーマーケットチェーンのターゲット(TARGET)、マイクロソフト(MICROSOFT)などを巻き込んだ「サーキュラーIDイニシアチブ(CircularID Initiative)」を設立し、同ネットワークの知見を活かして開発を進めた。
ブランドがすでに商品管理のために活用するRFIDやバーコードなどに入力されている商品情報を「サーキュラーID」と連携させると、同社が提供するオンライン上のプラットフォームでその情報を確認することができるという仕組みだ。「製品のライフサイクルに関わる全ての人がそれらの情報にアクセスできるようにすることでさまざまなメリットが生まれます。まずブランドは消費者とより継続的な関係性を構築することができるでしょう。例えば商品を購入したお客さまがどれくらいの期間その服を着用し、着用後にどのように処理をしたかなど顧客の行動データを蓄積することができます。時期に合わせて別の商品を組み合わせたスタイリングの提案や『着用しなくなったアイテムはここで回収しています』といったリサイクルキャンペーンを実施し、リサイクルに協力してくれたお客さまにクーポンを配布するなど方法はさまざまです。またリセーラーが商品を販売する際にはその商品が本物であるかどうかを確かめたり、正規の販売価格を調べたり、商品画像を再撮影したりという作業が発生しますが、『サーキュラーID』をスキャンすればそれらの作業は不要になります。さらにリサイクル業者にとって一番の壁は素材の特定ですが、『サーキュラーID』を用いて素材の構成情報にも簡単にアクセスすることができます」。
2019年11月よりベータ版の使用を開始し、正式版のローンチは2021年9月を予定している。