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ショーに熱狂した「ターク」とホラーな「ダブレット」がベスト 21年春夏・東コレトーク!前編

 2021年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」が10月12日に開幕しました。17日までの6日間、約40のブランドがリアルショーやデジタルプレゼンテーションなど工夫を凝らした方法で最新コレクションを披露します。ここでは「RTFW」の取材班が“東コレトーク”と題して、印象に残ったブランドをざっくりプレイバック。東京ファッション・ウィークの取材経験者である2人の先輩記者と、今シーズンから取材班に加わった新米記者が、面白かったブランドについて語り合います。今回は初日から3日目までをお届け!

冬景色から真夏の海に切り替わる「タクタク」で爽快に

大塚千践「WWDジャパン」デスク:さあ、1年ぶりの東京ファッション・ウイークがいよいよ始まったよ。それぞれが印象に残った3ブランドを中心に話していましょうか。まずは僕から一つ。初日で開幕を飾った「タクタク(TAC:TAC)」がめちゃよくなかった?コレクションテーマと直結する演出で、爽やかな気分になる映像だった。

美濃島匡「WWDジャパン」記者:春夏なのに雪が降る冬景色にびっくりしましたが、パネルが外れて画面いっぱいに海が広がる演出が爽快でした。

大杉真心「WWDジャパン」記者:プレスノートには「Under the winter sky, everyone longed for their seaside」というタイトルがあり、“冬空の下では誰もが夏の海辺が恋しくなる”というようなメッセージが添えられていましたね。普段からレイヤードはベースにありますが、今シーズンはいつもと違う違和感を覚えました。なんでだろう?

大塚:重衣料に軽い素材を、逆に軽衣料に思い素材を使っていたのがその違和感の正体かも。このコートなんか重そうだけど、よく見るとスケスケだし。

大杉:なるほど!そうかもしれません。あとはグラデーションが綺麗だった。デニムかと思ったら先がどんどん薄くなっていくパンツなど、爽やかだけど、どこか冬の寂しさを連想させる洋服が好みでした。

「リト」は服よりも美術に目がいっちゃう?

大杉:表現の面白さで言えば「リト(RITO)」も印象的でした。白い背景に木のオブジェを置いたナチュラルなロケーションだけど、アクリル製のボックスなど人工的な美術もあって、アート感がにじんでいました。

大塚:そもそも木のオブジェがすごい存在感だったよね。ルックも同じシチュエーションで撮影されていたけど、オブジェの強さの方に目がいってしまうのもいくつかあった。

美濃島:映像は途中に白黒のシーンを織り交ぜるなど、細かいギミックも効いていました。尺は4分と長くないですが、ストーリー性が無い分こういった工夫が必要ですよね。

大塚:これはムービーありきのルックで連動性があったけど、逆に「ルックのおまけで撮影しました」って感じの映像って結構バレバレだよね。デジタル表現に慣れてきたから、視聴者の目も確実に肥えてきてる。今後もデジタル表現はある程度継続していくものだと思うけど、構想を練った映像でないと見てもらえないかも。

大杉:嶋川美也子デザイナーは、長年ラグジュアリーブランドに向けてテキスタイルデザインを手掛けてきた人。上質な素材へのこだわりが強く、映像からでも素材のよさ、軽やかさが伝わってきました。

リアルショー1発目の「ターク」がすごかった

美濃島:僕が感動したのは「ターク(TAAKK)」です。初日の16時に、リアルショー1発目として新宿御苑の大温室でコレクションを披露したのですが、花のグラフィックやミントグレーのカラーリングなど、ボタニカルなモチーフが映える抜群のロケーションで、見ていてとても気分が上がりました。特に目立っていたユリのグラフィックは、外出自粛中に自宅のプリンターでプリントしたものだそうです。

大塚:「ターク」は20年春夏の“地球を着る”で手応えをつかんで、森川拓野デザイナーが環境を意識したクリエイションに独自のアプローチで取り組んでいるんだけど、花の転写プリントなんかはまさにそれだね。

大杉:すごくいいロケーションでしたよね。東京でも、こんな素敵な場所でショーが開けるんだ!という驚きがありました。森川デザイナーは前シーズンにも新宿御苑でショーを開きたいという思いがあったと聞いていたので実現して良かったですね。

大塚:音楽もディズニーランドのジャンクルクルーズっぽくて、場所にマッチしてた。森川デザイナーは自粛中にブランドの強さを改めて考えて、「素材こそが強みだ」と再認識したみたい。だけどこれ見よがしにアピールするんじゃなくて、見た目のインパクトだけに頼らず、よく見るとすごくヘンタイなバランスを重視してる。今回はそのバランスの良さが際立ったコレクションだったね。

弩級ロックにしびれた「リンシュウ」

美濃島:普段はパリ・メンズに参加する「リンシュウ(RYNSHU)」は初めて見ましたけど、超ロックなスタイルでインパクトありました。

大杉:タイトシルエットのテーラードジャケットやブルゾンをラメ入りのパイソン柄や黒いスパンコールなどで彩った洋服は、舞台衣装のようにキラキラでギラギラですね。

美濃島:でもその存在感に違和感はなくて、すんなり心に入ってくるんです。会場となった白金台の結婚式場「八芳園」の大広間という豪華なロケーションも良かったのかも。会場には20-21年秋冬で発表した香水“RYNSHU 1217”の香りが漂っていました。

大塚:衣装っぽいけど、それで一時代を築いてるからね。いつもと変わらず超ロックでシャープなスタイルなんだけど、少しカジュアルになったというか、ちょっと今っぽくなった印象でした。東京で見られるのは本当にレアだから、フロントローで見られた美濃島くんはいい経験をしたね。

「ダブレット」はゾンビだけじゃなくアーカイブも“復活”させていた

大塚:ホラー映画のような演出とルックで話題をさらった「ダブレット(DOUBLET)」も外せない。あの映像、実はその日に撮影・編集したもので鬼のスケジュールだったんだけど、特殊メイクや演出にこだわりすぎて、撮影も押せ押せだったんだよね(笑)。

美濃島:あれ当日に作られた映像だったんですね!現場はピリついたんじゃないですか?

大塚:むしろ、そのギリギリ感をスタッフ全員が楽しんでいて、モデルたちもずっと明るい表情だった。リアルイベントが久しぶりで、その喜びに浸っていたのかも。

大杉:どのルックもすごく怖かったんですが、メイクはどなたが担当されたんですか?

大塚:本格的なゾンビメイクも手掛ける特殊メイクチームが担当していました。「悪魔のいけにえ」や「シャイニング」、「ストレンジャーシングス」といったホラー映画や作品をオマージュしていたんだって。

大杉:コレクションでは、過去のシーズンのアイテムもリミックスしてましたよね?胸元にナプキンが入ったシャツは20年秋冬でも見たような気がします。あとアメリカ育ちの韓国人デザイナーによる「ロク(ROKH)」とのコラボアイテムも出てて気になりました。

大塚:そうそう、よく気づいたね!コレクションを作るとき、「数シーズンで古くなっちゃうクリエイションって今っぽくないよね」ということで、新作を7割、アーカイブを3割組み合わせたコレクションになったそう。

美濃島:ゾンビとかけて、アーカイブもランウエイに“復活”させちゃったんですね!最後の井野将之デザイナーが襲われるシーンと、ブルーのシャツを着たモデルのやけにリアルな動きには少しギョっとしました。

大塚:ブルーのシャツの彼は唯一の役者さんで、その場にいたスタッフもそのときだけは笑顔がひきつるぐらい怖かったよ(笑)。

削ぎ落とされた上質さ 「ザ・リラクス」に変化

大杉:上質な素材と綺麗なシルエットが光る「ザ・リラクス(THE RERACS)」は、無観客ショーで洋服をストレートに見せる映像がよかったですね。

美濃島:アイテムのクオリティの低いブランドがこれをやると事故しちゃう危険性もありますが、「ザ・リラクス」にはぴったりのアプローチでしたね。海外コレクションでは「ルメール(LEMAIRE)」などがこの手法で披露していました。大杉さんと大塚さんは後日展示会にも行っていましたが、いかがでしたか?

大塚:ルックは削ぎ落とされすぎててプロダクトっぽい固さを感じたんだけど、展示会でみると1点1点に抜け感があって、柔らかい。そのギャップが面白かったです。

美濃島:へー。プロダクト感をスタイリングで打ち消した「ミーンズワイル」とは真逆ですね。いつもはブランドロゴをあしらったピンバッジが付いていますが、今回は見当たりませんでした。

大杉:実はこのシーズンからロゴを刷新して、服に付けてきたピンバッジもなくしたそうです。ブランド11年目に突入するということで、変化のシーズンなんです。裏テーマはトランスフォーメーションを意味する“X”になっているそう。バッグも初めて登場しました。

見せ方のセンスが光る「カイキ」

大杉:「カイキ(KAIKI)」は1分にも満たないムービーでしたが、すごく引き込まれました。ルックのついでに撮影したような裏舞台感を感じましたが、それもよかったです。

大塚:僕はしっかりと作り込んだ映像だなという印象を受けました。シャッターを切るシーンで始まったり、最後にロゴに寄って終わったり。ありがちかもしれないけど、テンポがよくてすごく楽しく見られた。

美濃島:ルックも含め、見せ方がうまいデザイナーさんですね。リアルショーへの意欲もあるとのことなので、開催する際はぜひ見てみたいです。

大杉:今シーズンは、これまでさまざまな理由で使用しなかった素材やアイデアを採用していて、一見プリーツにも見えるシワ加工や縮率の違う糸を使用して立体的にしたジャカードなど、クシャっとなる素材を多く使用したそう。デザイナーの飯尾開毅さんが自分自身で着たいと思うメンズを数型作っていて、彼の柔らかなキャラクターをそのまま投影した洋服に親近感を覚えました。

大塚:デザイナー自身が着たいと思う服って、やっぱりいいんだよね。今後のメンズの動向も気になります。

「ユウキハシモト」がDHLとの入念な仕掛けで魅せる

美濃島:「ユウキハシモト(YUKI HASHIMOTO)」は若い世代が好きそうなグラフィックやロゴ使いが光りました。DHLとコラボしていて、黄色と赤のコーポレートカラーを多用していたり、ロゴを効果的に差し込んだりしてよりキャッチーなコレクションになっていました。

大杉:大杉:ショーが行われたのは表参道ヒルズのイベントスペース「スペース オー」。ショーの運営スタッフがDHLとのコラボTシャツを着用していたり、ショー後には同じ館のショップでこのTシャツを販売したりと、立体的なプロモーションを行っていたのが面白かった。DHLデザイナーアワードを受賞していたそうで、3月に実現できなかった企画をこうして深みを出しているのがいいと思いました。DHLもデザイナーとの取り組みに柔軟に対応しているところが素晴らしい。

大塚:カルチャー好きな若い子がたくさん来場していて、そこにリーチできるのは強みだなと思った。でも、もうちょっと引き算を覚えたら、より洗練されていくポテンシャルはあるかも。

美濃島:大塚さんはどんなクリエイションを期待してるんですか?

大塚:例えばモチーフやディテール使いに今っぽさはあるんだけど、ややトゥーマッチかなと思った。デザインは全体的にミニマルな方向性が好きそうだから、余計にそこが際立ったのかも。もっと要素を絞ったクリエイションも見てみたいです。

美濃島:なるほど。さらなる進化に期待が高まりますね。

ショーの醍醐味が詰まった「ミーンズワイル」

大塚:3日目ラストの「ミーンズワイル(MEANSWHILE)」はアスレチックのようなセットとアーバンアウトドアなコレクションの空気感がぴったりで、地力の高さを感じた。

大杉:もともとアウトドアやミリタリーがベースのブランドですが、時代の空気を反映してかいつもよりプロテクト感が強かったです。“服は衣装ではなく、道具である”というブランドコンセプトの通り、部分使いできるアームウォーマーやレッグウォーマー、ポンチョのように着られるラグなど、ギア感のあるアイテムが目を引きました。

大塚:似たテイストのブランドって少なくないんだけど、服部昌孝さんのスタイリングの妙なのか、ルックがすごく格好良くて頭一つ抜けた感じがあった。トップスをスーパーレイヤードしてボリュームを出したり、インナーの絶妙な覗かせ方だったりと、よく見ないと気づかないような技がたくさん散りばめられてた。

美濃島:演出含めてかっこよかったのですが、個人的には色が暗いなと思いました。ルックも多かったですがほとんど無地だったので、色や柄で春夏らしい軽さを出してくれたらぐっと奥行きが生まれそうだなと思いました。

大塚:3月のショーが中止になったこともあって、秋冬のアイテムも混ぜてたのかもしれないね。セットにモデル、スタイリスト、音楽との合わせ技で、道具っぽい服とスタイルとして見せられるショーならではの醍醐味が詰まってました。

鼎談を終えて

美濃島:リアルからデジタルまで幅広いブランドが出ました。個人的なベストは「ターク」ですが、お二人はいかがですか?

大塚:僕は「ダブレット」かな。

大杉:私もその二つが強く残ってますね。

美濃島:ベストの意味がないじゃないですか(笑)。

大塚:あと「タクタク」もよかった。デジタルで短い映像なんだけど、リアルに負けない印象を与えてくれてたし、とにかく演出が気持ち良かった。

美濃島:難しく考えなくても「これ、いいな」と思える映像でしたね。その気持ち良さを喚起できるかどうかが重要で、リアルショーもデジタルもあくまでそのツール。そこに垣根はないんだなと痛感させられました。

大杉:リアルに固執するだけでは新しさを生み出せないし、デジタルも上手く活用すればリアル以上にメッセージを伝えられる。面白いですね。東コレ後半も、デジタルとリアル両方をカバーしながら取材を進めていきましょう!

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