※この記事は2020年9月9日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
赤札のある9月
例年であれば8月の盆明けくらいからセールがほぼなくなり、9月に入れば正価(プロパー)の秋冬商品に切り替わるのが、衣料品売り場のカレンダーでした。しかし今年は全く様相が違います。
日本橋、新宿、池袋などの百貨店を見て回りました。さすがにメインのディスプレーやマネキンは秋物の服をまとっていますが、至るところで「SALE!」「再値下げ」といった赤札が目立ちます。ご存知の通り、コロナ禍によって春夏の服が大量に余っており、これらの処分のために9月でもセールを継続せざるをえない状況になっているわけです。
百貨店は4月から5月のほぼ2カ月近く休業を余儀なくされ、その後も消費が回復しませんでした。背に腹は変えられないというのが百貨店およびアパレル企業の現状でしょう。
さらに追い討ちをかけたのが、コロナ以前から進められていたアパレル企業の事業整理です。オンワードホールディングスが昨年から今年にかけて国内外で約1400店を閉めるのをはじめ、三陽商会、ワールド、TSIホールディングスといった大手が構造改革を発表しました。経営破綻したレナウンは「ダーバン」「アクアスキュータム」といった主力事業を小泉グループに売却しましたが、それでも店舗数は大幅に縮小せざるをえません。平時なら新しいブランドで埋められたかもしれません。しかし消費回復の見通しが立たない中、それも望めない。その空いたスペースが特設のセール売り場になっていたりします。
小田急百貨店新宿店では、衣料品の在庫処分を手がけるshoichi(大阪)が1カ月間の期間限定でオフプライスストアを開いていました。「オフプライスストア」とは、アパレル企業の余剰在庫を安く販売する業態で米国では巨大なマーケットを構築しています。日本では商習慣の違いや、百貨店とアパレルとの長年の関係性もあって、発達していませんでした。昨年あたりから郊外立地でちらほら増え出しましたが、新宿のど真ん中の、しかも百貨店の6階婦人服の中で期間限定とはいえオフプライスストアが営業することは衝撃的です。半年前なら考えられないことだったと思います。
コロナによって新常態(ニューノーマル)と呼ばれる新しい生活スタイルや働き方が広がっています。とはいえ、赤札が常態化する光景は望ましいものではありません。困難なこの時期を乗り越えて、適正な価格で商品が動く日が来てほしいものです。
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